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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

菜虫化蝶・14~『Love me do』番外編

 廉慈さんはビール2本を空にした。僕は最初の一杯を飲んだだけ。廉慈さんが僕のグラスに注ぎ足そうとしたけれど、家永さんが止めた。

廉慈さんがガパオライスと温玉サラダを注文し、ビールを追加しようとした所で家永さんが「もう付き合ってられない」と言い出した。

「航、帰るぞ」

「さよ~なら~!」

ニコニコしながら手を振る廉慈さん。彼にはここから動く気はない。それが家永さんにもわかっていると思うんだけど、彼は納得出来ないようだ。

「お前も帰るんだよ」

腕組みした家永さんが怖い顔をして言ったが、廉慈さんには全く通用しない。家永さんとしても、夜中にわざわざここまで来たわけで、手ぶらでは帰れないという思いなのだと思う。

廉慈さんにしてみれば、それも余計なお節介なんだけどね。

「嫌で~す!」

「もう気が済んだだろう?俺も一緒に行って謝ってやるから」

「必要ありませーん。マスター!もう一本お願いします!」

と、こんな調子だ。

でも、このままここにいるわけにもいかない。廉慈さんはともかく、僕たちは明日も仕事なのだ。勿論、廉慈さんが家に戻ってくれて、明日から仕事に復帰してくれるのが理想なんだけど。

《エクート》に移動しても膠着状態が続いていて、全く明るい材料がない。

「家永さん」

「何だよ?」

「廉慈さんは家出したからと言っても自殺志願者じゃないし」

「はあ?こいつが自殺?するわけがない!」

「でしょう?だから、今日のところはこのままホテルに泊まってもらえば?」

「いいや、連れて帰るぞ。俺の気が済まない」

「家永さん」

漸く出前が落ち着いたのか、マスターがカウンターの上の雑誌を整理し始めた。モダンジャズが流れる店内は静かだ。

そろそろ午前3時。早朝勤務の人が早めの朝食を食べにきて、夜勤明けの人たちが一杯飲みに来る時間。勤務が終わったホストやキャバ嬢もやって来る。

マスターは雑誌を整理すると、僕たちのテーブルにやって来た。

「久紀さん」

「マスター、やめてくれ」

「なあ、彼は家出中なんだろう?」

「そのとおりです!宿無しです!」

廉慈さんは陽気に敬礼をしてみせた。

「家永さんが前に住んでいた部屋、空いてるんだろ?あそこを貸してあげたら?」

「はあ?」

「このまま放っておけば本当にどこかに行ってしまうぞ?部屋を貸してやってさ、そこで頭を冷やしたらいいんじゃないのか?」

「・・・」

マスターのごもっともな意見を聞いた家永さんは考え込んだ。彼が以前住んでいた部屋は、今でも彼の為に空けてあると聞いた。家永さんがいつ泣き付いてきても迎えられるように。

「おばあさんに電話してください。僕からもお願いします」

「嫌だ」

「でも」

「航、普通に考えてみろよ。こんな夜中にばあさんに電話する事は出来ないよ」

確かに非常識な時間だ。

「そうですよね」

「ケチーッ」

酔っている廉慈さんは、家永家の事情がわかっていないから「ケチ」と言いながら家永さんの背中を叩いた。

「叩くな。痛いだろ?あの部屋は俺が出た時のままだが、布団も何もないんだ。あそこじゃ生活は出来ない」

「電気も水も使えない、って事か」

「そうだ」

軽く「今晩一晩だけ使っていい」、とは言えないわけか。

「じゃあ・・・僕の部屋は?」

「航の部屋?」

「ええ。何でもあるから」

季節外れの洋服や要らない物を置いているだけの部屋は、家永さんと一緒に住んでいる事をカムフラージュする為に無駄に家賃を払い続けている。狭いけど、家財道具は一通り揃っているし、電気も水道も使える。当面の生活は問題ないくらいの食料品もある。

「ダメだ」

「ヤッター!俺、航くんの部屋に住む!家賃払いまーす!」

廉慈さんはバンザイして、僕の手を握った。

「大家さん、よろしくお願いします!」

「若!手を放せ!」

「契約完了の握手じゃないか?悪いのかよ?」

廉慈さんの手を払い除けようとする家永さんと、放すまいとする廉慈さんの一悶着を見ていたマスターが「大人気ない」と呟いた。

「騒々しいから帰ってくれないかな?」

「はーい!帰りまーす!」

廉慈さんは僕の手をパッと放すと、フラフラと立ち上がった。


 僕たち3人は、家永さんの車に乗り戻ってきた。

ブスッとしてハンドルを握り、信号待ちの度に隣に座った僕を睨む家永さんと、後部座席で陽気に歌ったりする廉慈さんは対照的だった。さすがに地元が近くなると廉慈さんのテンションも低くなるかと思えばそういう兆候は全くなく、車が僕のマンションの下に停まると家永さんの肩をポンポンと叩き、「運転手さん、お疲れさん」と言って降りた。

ここまで来ると、廉慈さんの顔を知っている人に会わないとも限らない。さすがに、拙いと思ったのか廉慈さんは大人しくなり顔を伏せたままでマンションのエントランスの壁に向かって大人しくしている。

「航、いいのか?」

車から降りようとした僕の腕を掴んだ家永さんが心配そうに聞いた。

「大丈夫だよ。僕、部屋に案内してくるから」

「俺も行く」

「じゃあ、車を駐車場に停めてきてください。もうすぐ八百屋さんたちが動き始めるから。ここは邪魔だよ」

「・・・クソッ」

家永さんは「チッ」と舌打ちして車を発進させた。


 エントランスの所で壁に向かって顔を隠して待っていた廉慈さんは、車が去って行くのを待ち構えたように「早く行こうよ」と僕を急かした。

「狭いですよ」

「へーき」

ドアを開け「どうぞ」と言うと、楽しそうに「お邪魔しまーす」と言って中に入った廉慈さんは「わっ、ワンルーム」と狭い部屋を見て言った。

「最初に狭い、って言ったじゃないですか」

「ああ、ごめん。典型的なワンルームだな」

「1Kです」

「うん」

狭い玄関で靴を脱ぎ、狭いキッチンを見て「可愛い」と言った。

「航くんらしいな」

「そうですか?」

「家永さんのマンションに一緒に住んでるんだろう?でも、ここにも掃除には来ている」

「母が時々、弟にお米とか食料品を持たせるんですよ。それを取りに来た時に、ついでにザッとやります。弟がゲームしたり寝てたり、カップ麺とか弁当を食べたりしてる時もあるんです」

「イケメンの弟クンか?」

「ご存知ですか?」

「知ってるよ。櫛田さんの坊っちゃんと仲が良いよな?秀藤だったな」

廉慈さんは「秀藤」と言うとニヤリとした。

「ええ。櫛田さんをご存知なんですか?」

「知ってる。奥さまはうちで着物を誂えてくださったからね。お姉さんの成人式の着物もうちで誂えさせて頂いたよ」

「そうなんですね」

廉慈さんは物珍しそうに部屋を見回した。

「へえ・・・」

見回した、と言っても特に見る物もない1Kの部屋だ。どちらかというと生活感はないと思う。物置に近い雰囲気の部屋は肌寒く感じた。

「エアコン、付けましょうか」

「男の一人暮らし、って雰囲気じゃないね」

「そうですか?」

「ああ。いい香りがする」

「芳香剤ですよ」

「違う。航くんの匂いだ」

僕は急に、廉慈さんに告白された事を思い出した。

*****

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すみません、無駄に長いwww先にこちらを最終回まで、と思ってましたけど、諸事情でゴチャゴチャ更新しております。

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2018/05/13(日) 16:43 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Aさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Aさま~いらっしゃいませ♪

こ、これは密室殺人!!←違う
今頃、家永は猛スピードで駐車場へ向かっておりますから(笑)

えっ?家永が来る前にヤることヤるんですか(笑)Aさま、どこまで若の味方するの~(笑)

航くんも都合の悪い事は忘れていれば良いのにね!ふふふっ

いつも応援してくださってありがとうございます♪本当に寒暖の差が激しくて困りますよね。そろそろ梅雨に突入でしょうか。雨が多くなってきました。Aさまもご自愛くださいませね!コメントありがとうございました!
2018/05/13(日) 23:20 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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