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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

菜虫化蝶・18~『Love me do』番外編

「知りませんよ」

さり気なく言えたと思う。あっ、ここは冗談っぽく言うべきだっただろうか。「実は一緒に逃避行中でーす」的な?まあ、それも僕らしくないからな・・・。

「冗談よ、冗談」

敦子さんは手をパタパタさせながら言った。「ここだけの話しですけど」みたいな感じで、「実は・・・」と言って冗談にすれば良かったのかな?

「本気にしないでよ」

こういう時の敦子さんの勘は鋭いのだ。僕は本能的に、秘密を嗅ぎ付けられてしまっていると感じた。

「僕が知るわけがないじゃないですか」

「そうよね。家永さんと若は仲がいいから、何か聞いていないかと思ったんだけど。航くんと吉塚くんは毎日ここで顔を合わせるじゃない?何か聞いていないの?」

「聞いてませんよ」

「特に悩みなんかなかった、って女将さんは言うんだけど・・・親には言えない悩みってあるじゃない?」

敦子さんは僕の顔を覗き込むようにして言った。

「その点、僕は言えない悩みばかりだったんで」

「あら!そんなつもりで言ったんじゃないのよ?」

「いえ。若がどうして家出したのかわからないけど、親に言えない、って所はわかりますよ。女将さんは何かおっしゃっていましたか?」

「うーん。縁談が気に入らなかったんだろうか、って。彼女と別れてすぐに縁談を勧めたらしいの」

「へえ・・・」

「若は怒りはしなかったけど、返事もしなかったって」

「仕事上の悩みとか?」

「それはなかったらしいわ」

「そうなんだ」

ご両親と廉慈さんの間にあるのは溝ではなく、感覚的なもの。女子高生が使う言葉が親世代には理解出来ないように、『蘭雅』の社長ご夫妻と廉慈さんの結婚観が徹底的に違う。そこを何とか乗り越えようと、廉慈さんは足掻いている。

それでも何とか両親の意に添おうとしている廉慈さんを、僕は見守ってあげるしかない。

「どこに行っちゃったのかしら」

「早く戻ってきて欲しいですね」

「そうね」

居心地の悪さを感じながら絵本を選び、発注の準備を整えた。発注する物の中には、絶版とか増刷中とかもあるので出版社に確認しないといけない。出版社への連絡は明日だ。

 敦子さんが「お先に」と帰ったのを見送って、僕は胸を撫で下ろした。

「あっ、もうこんな時間だ」

すでに20時過ぎていた。家永さんはまだ戻ってこない。僕は戸締りをして、廉慈さんの晩ご飯を買ってマンションに急いだ。


 スーパーで幕の内弁当を2つ買い、僕はマンションのドアの鍵穴に鍵を入れた。いつもなら右に回せば鍵は簡単に開く。

はずだった。

「あれ?」

鍵が空回りする。右に回した鍵は抵抗がなく、いつもような鍵が開いた感じがしない。

「まさか・・・」

ドアノブを回しながら引っ張ると、嫌な予感は当たった。廉慈さんの靴がない。

「廉慈さん!」

声を掛けながら靴を脱ぎ急いで部屋に入ると、ベッドはきちんと整えられていた。昼休みに持って来た新聞がテーブルの上に綺麗に畳まれて置かれている。弁当の空容器やゴミは纏めてビニール袋に入れられていた。テレビやエアコンのリモコンもテーブルに並べられ、廉慈さんだけが消えていた。

「嘘」

彼がどこかへ行ってしまう事はないだろうと思っていたのに・・・。

 テーブルの上には書置きのような物もない。僕はとりあえず家永さんに電話をした。

『どうした?航』

「大変だよ!若がいなくなっちゃった!」

『・・・そうか。急いで戻るから、そこにいろよ』

「うん」

部屋に大きな変化はない。廉慈さんをここに連れて来た時よりも、むしろ片付いている。掃除機をかけたのか、ゴミ一つ落ちていない。ただ、壁に掛けていたキャップがなくなっていた。

「そうか・・・帽子か」

去年の夏、よく被っていた無地の紺色の帽子。それと秋冬物の薄手のストールがない。あれで顔を隠したんだ。帰宅者が多い時間なら商店街の人たちも忙しい。僕の部屋からコッソリと駅まで行くのは難しくないかもしれない。

「どうしよう」

いよいよ居場所に見当も付かなくなって、僕は途方に暮れた。しかも廉慈さんを捉まえたのに、『蘭雅』には知らせていない。

「困ったなあ・・・」

僕は脱力して、その場に座り込んだ。


「航」

「久紀さん、どうしよう」

僕は家永さんの顔を見た瞬間に抱き付いた。

「お昼ご飯を持って来た時は、ちゃんとここに居たんだけど」

「自分の意思で出て行ったんだ。気にするな」

「でも!」

「若は何か言ってなかったか?」

「・・・」

「何か、聞いたな?」

「その・・・」

廉慈さんが僕を「好きだ」と言った所は省けばいいんだ。

「気になる人がいるって」

「気になる人?」

「そう。その人とは時々ご飯を食べたりすると言っていたよ」

「誰だ?」

「僕は知らない人なんだ。ギャラリーに作品を置いてもらっている長野さんのお知り合いで着物のリサイクル業をしてる人」

「長野さん、か。彼女の知り合いなら連絡が取れるかもしれないな。よし、連絡してみよう」

「うん」

廉慈さんには申し訳ないが、手掛かりはその人だけなのだ。


 運良く長野さんにはすぐに連絡が取れた。ただ、長野さんは材料の古布の買い付けに地方に行っていて、東京にはいない。だが廉慈さんに紹介した男の人には連絡してくれるという。

「折り返し俺の携帯に連絡が入る事になった」

「良かった」

ホッと胸を撫で下ろし、漸く一息吐く事が出来て僕はペットボトルの蓋を開けた。家永さんはテーブルの上に置いてあった幕の内弁当を取り出して食べ始める。

「あっ!それ!」

「なんだ?」

「それ、若の」

「俺のは?」

「ごめん」

「これ、俺と航のじゃないのか?」

「ごめん」

「俺は何を食べればいいんだよ?」

「・・・食べてくるかと思ってて・・・ごめんなさい」

「あーあ。俺の方が家出したい気分だよ。若、若って。みんなしてあいつばっか」

「そうじゃなくて・・・」

「じゃあ、何だよ?」

「家出してるから僕がお世話をしなくてはと思って」

「航は部屋を提供してやってるだけでも十分だよ」

「まあ・・・そうだけど」

「何か聞いたのか?」

「・・・」

「気になる人、って男?」

「・・・うん」

しまった・・・やたらと勘が良いのだ、家永さんは。そこの所は湊とも共通する。それを言うと、「あんなブラコン弟と一緒にするな」と言うけど、事実だから仕方がない。

「若ってオトコもイけるの?」

返答に困っていると、家永さんの携帯電話が鳴りだした。

「きっと、彼だ」

「うん」

家永さんは僕を睨みながら電話に出た。

「はい。あー、わざわざありがとうございます。『ギャラリーひいらぎ』の家永と申します。この度はご迷惑をお掛けしております。いえいえ」

家永さんが僕に目配せして頷いた。廉慈さんの「気になる人」だ。

「長野さんからお聞きになったかと思いますが、福富廉慈さんをご存知ですよね?ええ、そうです。ああ、そうですか。ところで最近、彼にお会いになったのはいつですか?」

家永さんはいきなり本題を切り出した。相手の顔も知らないのに、大丈夫かな?

「そうですか。一週間前ですね。そうなんです。彼、携帯を置いて出てるんですよ。ええ・・・わかりました。ありがとうございました。それから、もし彼から連絡があったら私から電話があった事は内緒にして頂けますか?」

僕は家永さんの袖を引いた。家永さんはニヤリと笑って、僕の頭をポンポンとする。

「ありがとうございます。もし連絡がありましたら、はい・・・よろしくお願いします!はい。はい。失礼します」

ピッと通話を終えて、家永さんは「連絡はないってさ」と笑う。そして箸を持つとまたお弁当を食べ始めた。

「航も食えよ」

「でも」

「大丈夫だよ」

「僕、ここで若を匿ってたのに・・・敦子さんにはなんとなく覚られてるし」

「あー、あの人勘が良いからな。航が挙動不審だったんだろ?」

「挙動不審って・・・吉塚さんには勘付かれてないし!」

「吉塚くんはそういうの全くわからない人だから。ほら、そういうのに敏い人だったら何百万も借金背負わせられたりしないだろ?」

「それとこれとは」

「同じだろ?」

釈然としないけど、敦子さんに勘付かれたのは認める。上手く誤魔化せたんじゃないかと思うけど・・・。

「敦子さんに何か言われた?」

「知ってるんじゃないの?って」

「そうか。とにかく食べろ」

家永さんは箸を置くと僕の分の弁当を開けた。

*****

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