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菜虫化蝶・19~『Love me do』番外編

「あー、美味かった」

「・・・」

家永さんは弁当をペロリと平らげてテレビを点けた。僕は観た事がない刑事ドラマが始まったばかりだった。これには人気の若手俳優が何人も出演していて、明日は敦子さんが朝一で「カッコ良かったわ~」というやつだ。このドラマは吉塚さんも観ているから、観ていない僕は会話に付いていけない。

良い機会だから、僕はストーリーがわかる程度にテレビを観ながら弁当を食べる事にした。

「まだ若の事を気にしてるのか?」

「当たり前でしょう?僕は廉慈さんをここで匿ってたんだよ?みんなに嘘を吐いたし・・・。その上、廉慈さんがいなくなるなんて!」

家永さんは「廉慈さん、か」と言うと、鼻に皺を寄せた。ガサガサさせながら空になった弁当を袋に入れ、ペットボトルのお茶をグラスに注いだ。

「どうしよう・・・」

「気にするな。若も航の部屋にいた事は言いはしないから」

「でも!いなくなっちゃったんだよ!?」

「それは航が悪い」

もろに言われて僕はぐうの音も出ない。廉慈さんを一刻も早く家に帰すべきだったのに、僕はここにいてくださいと言っただけだ。

「それはわかってるけど・・・でも」

「秘密を持つからだ」

「秘密とか・・・」

都合が悪くなった僕は、特に興味もないがテレビに意識を持っていく。防波堤を全速力で走る2人の若い刑事と離れていく漁船。僕の方が逃げたい気分だ。

「あるだろ?俺に言ってない、ひ・み・つ」

「ありません」

僕は嘘を誤魔化すようにご飯を口に運んだ。家永さんに見つめられながら咀嚼し、何とかここを切り抜けなければと考える。家永さんは本当に、僕が話していない事があると気が付いているのだろうか。それともかまを掛けているのか。

彼は僕の顔から目を離さない。

「長野さんの知り合いは大見さんっていうんだけど」

「オオミさん?」

「彼は若から色々と相談を受けていたらしい」

「そうか」

着物のリサイクル事業を立ち上げようと思って相談していたんだな。3ヶ月くらい前に紹介されて、時々ご飯を食べているという人に「色々相談する」って事は、かなり頻繁に会っていたって事だよね。

お互いに意気投合して急速に仲が良くなったのはわかるけど、「気になる」というくらいになるまでの時間ってどれくらいなのかな?

廉慈さんは、オオミさんという男性に好意を寄せ始めていた。それはまだ「恋」ではなかったのかもしれない。「気になる人」で止まるのか、その気持ちがもっと深くなるのか。

廉慈さんによればノンケだというオオミさんとの関係が深くなればなるほど、廉慈さんは苦しむ事になったのか。どっちにしろ、上手くはいかないものだ。

「若から何か聞いてるな?」

「聞いてないよ」

「いや、絶対に聞いているはずだ。言えよ」

家永さんの指が伸びてきて、僕の頬に触れた。温かい指先が頬を撫でる。

「どうして僕が何か聞いていると思うの?」

「若の秘密を聞きました、って顔に書いてある」

「嘘吐き。刑事ドラマの見過ぎじゃないの?」

テレビでは、若い刑事が犯人らしき人を説得している。

「あははっ。イケメン名刑事だろ?」

家永さんは床にゴロンと横になった。

「食べてすぐに横になると太っちゃうよ?」

「いいよ。航にしか見せない身体だし」

ちょっとだけ家永さんの裸を思いだして、僕はモソモソとおかずを口に運んだ。でも家永さんの冗談に反応する気力はない。気分は浮かず、口に入れたご飯がいつまでも飲み込めない感じ。喉の辺りにご飯が張り付いたようになり、ペットボトルのお茶を飲んでそれを流し込んだ。

「井上さんの注文の知育玩具だけど」

「あっ、どうだったの?納入希望日には間に合いそう?」

「間に合うように手配してくれるそうだ」

「良かった!何日頃の納入なの?」

注文された品は木製のおままごとセットに大工さんセット、パズルや子どもが乗って遊べる木馬やよちよち歩きの赤ちゃん用の手押し車。それから保育園児なら3人くらいは楽に入れるキッズハウスもある。5つの保育園の分を準備するには期間が短い、と家永さんはぼやいていたけれど、何とかしてもらえるようになったみたいだ。

「3月末までには全品揃えられそうだ。井上さんも注文がギリギリになって申し訳ないとおっしゃっていたよ。しばらく海外におられたらしい。今回の発注は全て会長の寄付だってさ」

「へえ・・・凄いな」

「井上会長からもお世話になりますとメールが届いていたが、とても感じの良い方々だね」

「うん。そうなんだ!井上さんってもう、ビックリするくらいお綺麗なんだよ」

「井上会長は時々、経済誌に写真が載ってるがキリッとした目元のイケメンだよな。秘書さんの方は電話で話しをしただけだが、謙虚な物言いで安心したよ」

「うん、そうなんだ」

井上さんの事を褒められて、自分の事のように嬉しかった僕は油断していた。家永さんの腕が伸びてきて僕の腰を掴んだ。

「うわっ」

家永さんは僕の腰にタックルした格好のままで言った。

「若だけど」

「・・・うん」

「誰か好きな人がいるんだろ?」

「・・・さあ」

「言わない、か」

「そんなの知らないよ」

「ふうん・・・わかった」

結局、僕たちはその夜は僕の部屋で寝る事になった。もしかしたら廉慈さんが、ここに戻ってくるかもしれないからだ。


 朝になっても廉慈さんは戻って来ず、大見さんからの連絡もないままだ。寝不足のまま出勤したが、『ひいらぎ』は朝から井上さんからの注文品の絵本の発注に追われていた。

敦子さんと手分けして出版社に電話したりメールしたり。カフェの方は吉塚さんに任せっきりになってしまって、あっという間にランチの時間。ランチタイムも今日に限って次々にお客さまをお迎えする事になって、バタバタとしていた。

 ランチも終わり、敦子さんに先にお昼休みを取ってもらった。敦子さんはまかないのチャーハンを食べ終えると、『蘭雅』へダッシュだ。

「行ってくるわね」

「はーい!行ってらっしゃい」

僕は1階の店番をしながら出版社にメールの返信をしていた。カランとベルが鳴り、顔を上げるとベレー帽を被った男性が一人で入って来た。

「いらっしゃいませ」

細身の黒いジーンズにポンチョ。首元にはアイボリーのストールを巻いている。ユニセックスな服装だな、と思った。

そして肩から提げた大きなトートバッグには見覚えがあった。確か、作家の長野さんの作品じゃないかな?紺色の絣と華やかな紅型で作られたバッグは、とても印象的だったから覚えている。

よく見るとポンチョも男物の着物をリフォームした物のようだ。

 若い男性が一人でやって来るのも珍しくはないが、大体プレゼント探しだけど・・・もしかして?

「いらっしゃいませ」

「こんにちは」

可愛らしい顔立ち。中性的な男性は微笑みながら僕に近付いてきた。

「もしかしてあなたが鹿之江さん?」

「はい」

「わあ・・・すぐにわかった」

「あの、もしかしてオオミさん、ですか?」

「大見可野児(オオミカノコ)と申します」

男性は名刺をくれた。

「ありがとうございます」

『可野児スタジオ 代表・大見可野児』

「あの」

男性は僕の耳元に顔を寄せると、小声で言った。

「廉ちゃんから連絡もらってます」

「あっ」

僕はポカンと口を開けて、次に何を言えばいいか考えていた。上には吉塚さんがいる。そういう事情も、おそらく大見さんにはわかっているから耳打ちしたのだ。

「無事なんで」

ポカンとしていると、大見さんが微笑んだ。近寄った時にふわっと薔薇の香りがしたけど、確かに男の人だ。

「あ、あの、ありがとうございます」

「名刺に携帯の番号書いてあるんで、1人の時に電話してもらえますか?」

「勿論です」

大見さんはスッと離れていき、陳列棚を見回して絵本を手に取った。松前さんの奥さんのキャンドルを手に取り匂いを嗅いだり、少し離してみたりしながら「これをください」と言ってキャンドルをレジに置いた。

*****

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2018/05/24(木) 00:25 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Aさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Aさま~いらっしゃいませ♪

変な名前のニューキャラ登場でーす(笑)えっ?家永のぷよぷよ腹ですか?航くんはそれをクッションにして遊んでます(笑)←違う

では家永にはジムにでも行け、と言っておきますね!若たちの事はまあボチボチですね。

気持ちが落ち着かないのはなぜでしょうねえ?土日は遊びつくして、もう抜け殻状態だからでしょうか?そろそろ梅雨の走りの声も聞かれます。Aさまもご自愛くださいませね。

コメントありがとうございました!
2018/05/24(木) 07:01 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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