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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・18~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 目が覚めると、輝也はすでにベッドから消えていた。カーテンはまだ閉まったままだ。今日から《有明の月》には出勤しないとわかっているから、俺が遅くまで寝ていると思ってるんだ。

手を伸ばして輝也の温もりが残っている部分を探し、僅かに人肌の名残を見つけて俺は名前を呼んだ。

「テールー」

寝起きで思ったように声が出ない。横向きから仰向けに体勢を変え、少し腹に力を入れてもう一度輝也を呼んだ。

「テールー」

「・・・」

キッチンの方からトントン、カチャカチャと軽快な音がする。今朝の味噌汁の具は何だろう、と考えながら俺は「あー、あー」と声を出す練習をした。

「んっ、んっ・・・テールーッ」

今度はさっきよりも少しだけ大きな声が出た。張りはないが輝也に聞こえればそれでいい。

「・・・ここだよ!おはよう!」

ジャーッと水を流す音と共にキッチンから返事があって、俺はそれだけで元気になれる。勿論、下半身の方もね。軽快な足音がして、タオルで手を拭きながら輝也がベッドルームに顔を出した。

「おはよう。起きたの?早いね」

思ったとおり、左耳の上の辺りの髪がピョコンと跳ねている。耳の横にピョンと飛び出した髪が可愛い。

「うん、おはよう。今、何時?」

「8時だよ」

「わかった」

俺は近寄って来ない輝也を引き付けるかのように身体に掛かっていたダウンケットを胸元まではぎ、腕を上に突き上げて広げた。

「圭介さん」

「なんだ?」

「もう早起きしなくてもいいんだよ」

「ああ」

「もう少し寝る?」

「起きる」

輝也に向かって手招きすると、輝也は苦笑いながら近付いてベッドに手を付き俺の額にキスをした。俺は輝也の頭を抱え込むようにして抱き締める。

「はあ~テルだ」

俺は輝也の頭に頬を擦り付けた。ついでにピョンと跳ねている髪を撫でてやる。これは容易には治まらないな。

「《SUZAKU》に寄ろうかと思ったんだけど、纏めないといけない書類があってさ」

「三木くんの宿題?」

「そう」

「彼、そういうのは厳しいよな」

「そうなんだよね」

《325》がオープンした時は河崎くんが中心になって動いていたから、輝也は河崎くんの指示に従っていればよかった。だが、今は自分が「店長」として先頭に立たなくてはならない。

気遣いもするだろうし、何しろ張り切ってるからな。疲れなきゃいいけど。

「俺は9時には出るからね」

何だよ、予防線か?俺はわざと自分の股間を輝也の身体に押し付けるようにして左右に動かした。

「何してるの?」

「うーん。聞こえない」

輝也は可笑しそうに耳元で、「寝てていいからね」と言った。そして、俺の身体を抱え込むようにしてギュッと抱き返す。そして俺の首元に顔を埋めると、うなじの辺りの匂いを思いっきり吸い込んだ。

ベッドに身体を乗り上げるようにしている輝也のモノが、俺の身体に擦られて少しだけ硬く変化し始めていた。

「昨日、圭介さんが帰って来たのわかんなかったよ」

「声を掛けたけど起きなかったからな」

「爆睡してた」

「寝癖、可愛いぞ」

耳の所の髪をピッと引っ張ると、輝也は照れ臭そうに笑った。

「うん。シャワーを浴びてから行くよ」

輝也は俺の耳の付け根の辺りに何度もキスをして、耳朶を甘く噛む。

「今朝は三木店長が迎えに来てくれるんだ」

「最近の輝也は三木くんばっかだ」

「仕方がないでしょう?」

「不貞寝してやる」

「目が腫れない程度にね」

「ああ、それは大丈夫。俺、必殺技を知ってるから」

「何なの?それ」

「教えない」

今日からは《有明の月》には出勤しない。俺は夕方まで自由だ。信吾さんや山下くんたちは、この時間を不動産の方に回して欲しいわけだ。「無理強いしないよ」という態度を見せながら、実際のところは俺が「うん」と言うのを待っている。

俺が『滝山不動産』の社長に就任しようがすまいが、会社の業務はスムーズに流れるはずだ。俺はそれに乗っかっていればいい。

こうしていずれは、《SUZAKU》も俺の手から離れていくんだろうな。

「あのさ、俺」

「うん」

「不動産の社長になる」

輝也はパッと顔を上げ嬉しそうに言った。

「決心したの?」

「・・・山下くんの策にはまっただけだ」

「策、って」

輝也はクスッと笑った。三木くんと一日中一緒にいるから、彼から経緯を聞いたのかな。

「山下くんと三木くんにばかり負担を掛けるのもね」

「そうだね」

「うん」

「今日から社長なの?」

「まさか。でも今日は真面目に不動産に出勤する。一応、あっちも専務さんなんで」

「そうだったね」

「3月の決算を待って4月から、かな。俺にも無駄な肩書きがたくさんあるんで、一つ二つは章太郎くんと黒川にもあげようかなと思ってさ」

「あははっ。章太郎さんが勘弁してくれって言うよ?」

「いいんだよ。あいつはまだ若いから」

輝也は俺の身体をギュッと抱き締めた。俺もそれに応えるように抱き返す。このまま脇から抱えてベッドに押し倒すか?なんて不埒な事を考えていたら、輝也にはそれが通じたらしい。

「じゃあ、ご飯を食べようか?」

「うん」

輝也は名残惜しそうに俺の髪にキスをして離れていく。そして裸の俺に、脇に置いてあったガウンを放って寄越した。

「本社に行くんだったらちゃんと起きて」

「はーい」


 顔を洗ってダイニングに行くと、味噌汁とご飯、目玉焼きとサラダが並べてあった。輝也は俺が座るのを待ち構えていて、座った瞬間に手を合わせると「いただきます」と言って箸を持った。

「ネギと揚げ?」

最近は具沢山の味噌汁に凝っていたのに、今朝はシンプルだ。太いネギと油揚げだけの味噌汁は珍しい。

「うん。昨日、三木店長のお勧めのお豆腐屋さんに寄ったんだよ。国産大豆だけを使ってるんだ。まだ20代の4代目が手作りしてるんだよ」

「ふうん、若いね。あっ、美味しい」

「そう?」

輝也はスピードを上げて食べている。三木くんが9時迎えに来る。一日中一緒にいられる三木くんに多少嫉妬しながら、俺はご飯を口に入れた。

「急がないと」

ご飯、味噌汁、目玉焼き、と輝也の箸は忙しく動く。輝也が背にしている窓の向こうは、春らしい爽やかな空。薄青い空に薄い雲、輝也の跳ねた髪が浮かび上がる。

「髪、可愛い」

輝也は左の耳の上に触れて髪を撫で付けた。

「そうだった。シャワー浴びないと」

輝也の咀嚼スピードは猛烈な速さになった。約5分で朝食を食い終えた輝也は、「ご馳走さまでした!」と手を合わせた。年齢の差は、まずは胃に出るんだよな。俺がこのスピードで食ったら、確実に胃もたれだ。

俺のご飯茶碗には、ご飯が3分の2が残っている。それを見て、輝也は申し訳なさそうに立ち上がった。

「俺が洗っておくから、準備しろよ」

「お願い!」

自分が食べた食器をシンクに置くと、輝也はバスルームに急いだ。輝也がいなくなったダイニングで食う朝飯は、急に冷めてしまって味が落ちた。


 午前10時には不動産に出勤したが、多少迷惑そうな雰囲気を感じた。滅多に顔を出さないヤツが「おはようございます」とやって来ても歓迎はされないもんだ。

自分の机に座ってしばらく大人しくしていたが見かねた山下くんに呼ばれた。役員室で「お願い」と渡された書類に目を通し、ひたすら印鑑を押すという苦行を終えたのは午後3時過ぎ。

「山下くん、もう指がもげちゃうよ」

俺は持っていた印鑑を放り出した。会議室の大きな丸机の反対側で、熱心にキーボードを打っていた山下くんが顔を上げた。

「終わったの?」

「終わった」

「ありがとう。助かったよ」

ずっと前傾姿勢でいたからか、肩も張って内臓が縮んでしまったようだ。大きく伸びをしたが、胃の辺りがモヤモヤする。

「コーヒーの飲み過ぎかな?胃がもたれる」

胃の辺りを擦ると、山下くんが気の毒そうに俺を見て笑った。大体、不動産の方も山下くんと三木くんの2人で回していたから俺はお飾りのようなものだったのだ。

勿論、『S-five』ビルの近くには『滝山不動産』の営業所があって、俺は主にそこを任されていたわけだ。向こうにも所長と営業さんと事務員さんがいて、俺は週に2、3度顔を出していた。あちらはマンション4棟と駐車場、テナントの管理運営が主で、本社のように忙しくはない。

「何杯おかわりしたの?」

「さあ?多分、今日の売り上げには貢献してます」

「ありがとうございます」

今日の昼食は山下くんの親子丼を注文した。山下くんの親子丼は出汁と卵のふんわり具合が気に入っているのだ。

「久し振りの親子丼が美味かったからかな?」

「食べ過ぎかい?」

「山下くんのおやつの所為かも」

サツマイモが入った蒸しパンはコーヒーによく合って美味かったのだ。

「何でも俺の所為なんだね?」

「そうだよ。俺が食えるレベルの甘さに仕上げるのがお上手です」

「君こそ口が上手いよ」

「山下くんの影響かな?」

「ははっ。明日もこっちに来てくれるの?」

「明日は営業所」

「わかった」

ストレッチをしながら帰り支度を始めた俺に、山下くんは笑顔で胃薬をくれた。

*****

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