『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・17

「それで?寿さんから蔵野の事を聞けた?」

俺は自分の太腿に乗った秀人の手を引き剥がした。

「真面目に運転しろ」

秀人は「おお、怖い」と言いながら左手をハンドルに戻す。

「確かに蔵野部長は、重役連中からの評判が悪いようだね」

「それはそうだろうね。飲食部門の顧問に信吾さんが就任した時も、不平不満の声が聞こえてきたからな」

「信吾さんの件は義道会長の一声で黙らざるを得なかったが、蔵野部長は完全な余所者だからね」

「隼人はどうして蔵野を起用したんだろう?」

「『K・Uカンパニー』の買収の案件は、隼人社長が直接指揮を執っていたようだからな。手伝ってくれた彼を重用しておられるのだろう」

「口は上手いと思うよ、確かに。隼人が先走ってるんじゃないのか?何かと信吾さんと比較されるし、父親の義道会長が元々は信吾さん推しだったわけだから、それに反感を覚えたとしても不思議ではないんだよな。だがあの時隼人は、『信ちゃんが継いでくれるならそれでも構わない』くらいのスタンスだっただろ?例の事件が起きた時は隼人もまだ学生気分が抜けていなかったが、今は違う。何とか自分を認めさせようと必死なんじゃないのか?」

「そうかもしれないね」

秀人は俺の言う事に頷いている。涼やかな秀人の横顔を見ていたら、蔵野のねっとりとした視線を思い出した。

「『滝山産業』が古くから続いているのは一族の統制が執れているからだ。最高顧問(注*信吾の父・貢)が引くのが早過ぎたんじゃないのか?上には義道会長がいるから、隼人が絶対的な存在ではないだろう?それに対して隼人が不満を持ってもおかしくはない」

信吾さんの為に準備された役員室を潰してしまったのは、意図的だったのではないだろうかとさえ思える。「代表取締役社長」とはいえ、義道会長が口を挟めば大勢が決する事もある。

義道会長も社長職を隼人に譲って1、2年は大人しかったようだが、ここ2、3年はその重みを増していると聞く。元々、義道会長もお家騒動の収拾を図る為に経験の浅い隼人に座を譲ったわけだ。

その時の無理が今頃、祟っているのかもしれない。二つの頭は必要ないのだ。

「しかも義道会長自身が信吾さんを諦めていない」

「諦めていない、か・・・確かにな」

義道会長はまだ若い。社員からの未熟な隼人への不満を耳にする度に、信吾さんへの未練が見え隠れするわけだ。それを敏感に感じ取った者が、隼人の小さな失策を報告する。

隼人を社長に据えて一旦は治まったかに見えた滝山家の内紛だったが、今度は義道会長派と隼人派に分かれ始めているのか。

「今後、『滝山産業』とは少し距離を置いた方がいいんじゃないか?」

「そうだな。巻き込まれても困るしね」

「予定を早めて《サラダボックス・B》を早めに切り離すか?」

「そう簡単に話しは進むのか?」

「わからない」

隼人の父・義道氏の、信吾さんへの執着は以前から知っていた。叔父と比べられ続ける隼人も可哀相だとは思うが、信吾さんも迷惑な事だ。

「内部情報だからね。父の口も重いんだよ」

「ああ、確かにね。俺的には蔵野部長と組んだ仕事はこれきりにしたい」

「しつこそうだからな。気を付けるんだよ?」

「俺が気を付けてどうするんだよ?《花宴》に置いてある有川画伯の絵を見たいと言っていたぞ」

絵の話しをすると、秀人は眉を動かした。

「そうか。その時は時間を調整して社長に行って頂こう。それと怜二くんには出来るだけ《花宴》には立ち寄らないように伝えておくよ」

「ああ、それがいいね」

「いくら蔵野でも、社長の前で君を口説くわけにはいかないだろうからね」

「ははっ。俺、あのタイプはちょっと無理かな」

「俺じゃないと無理、の間違いじゃないのか?」

秀人の手が伸びてきて、俺の肩に乗った。

「さあね」

秀人の手の甲を抓ると「もう少し飲んでくれてれば良かったのに」と、心にもない事をいう。

「寿さんと昼食をご一緒したんだが、稲村くんがいたから蔵野の事を聞くに聞けなかったんだよね」

「ところで稲村くんと蔵野部長は恋人同士だったのかい?」

「それとは違うようだ」

「そうか。君と蔵野部長が食事に行くと聞いて顔色を悪くしていたよ」

「俺も稲村くんからは詳しい事を聞けていない。とにかく、蔵野と再会した時の稲村くんの動揺が激しくてね。蔵野には相当酷い目にあったとしか思えないんだよ」

「女遊びも激しいようだからな」

「家では毛虫のような扱いだと言っていたが、買収とは関係なく夫婦関係は悪かったのかな?」

「そうじゃないのか?父によれば、社内で美人と評判の女性社員には一通り声を掛けているそうだ。既婚、未婚に関らず、ね」

「へえ・・・。何でもありなんだね。家庭内別居で離婚目前、みたいな事を言っていたが、それは本当かもな」

「家庭内別居、か。婿養子だから元々肩身が狭かったのかな?だが、今回は蔵野部長の働きで『K・Uカンパニー』は首が繋がったわけだ。離婚はないと思うがね」

「そうだと思った」

マンションが近くなり、話題は蔵野から《サラダボックス・B》の件に変わった。

「店長を誰にするか、社長も悩んでいたよ」

「ああ・・・。しばらくは俺が就くか、服部くんはどうだろうか?」

「彼なら適任だね」

「そうなると《銀香》が問題になってくる」

「そうだな。《銀香》は君が兼任すればいいんじゃないか?」

「まあ・・・それもそうだな。圭介くんが《有明の月》を外れてくれるなら2人で回してもいいしね」

「ああ」

「春山くんが戻ってくれたから、研修次第では副店長としての配属も有りだな」

車はマンションの地下駐車場に到着した。車を駐車させる秀人の横顔を見ているとホッとする。自宅に帰れば猫たちが待っている。どんなに疲れていても、人であれ、猫であれ、待っていてくれる存在がいるというのが一番の栄養ドリンクだな。


 翌朝、出社すると稲村くんが待ち構えていた。

「山下常務、昨日は申し訳ございませんでした」

稲村くんは気の毒になるくらい深々と頭を下げた。

「気にしないで」

自分の職務を全う出来なかった、と悔いている彼はとても生真面目だ。うちの幹部たちに彼の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらい真面目な性格。

蔵野との再会が彼にとっては衝撃的だったようだが、蔵野は意に介してはいない。それを早く伝えた方が良いのか、それとも知らせずにいた方が良いのか。悩ましい所ではある。

明らかに蔵野との過去を引き摺っている稲村くんの事情もわからないままだからな。何か聞きたそうにしているが、何も聞いてこない。

蔵野の事が聞きたいのだろう。稲村くんとは知り合いだった蔵野と食事に行ったのに、昨夜の件を一切話さないのも変だし。

「稲村くんも誘えば良かったね。気が利かなくて申し訳ない」

「いえ」

「今度は稲村くんも一緒に、と蔵野さんがおっしゃっていたよ」

「そうですか」

嬉しそうではないが、そう伝えられなければ逆にショックかもしれない。そう考えて言ったが、稲村くんは複雑そうだ。

「今日は会議だよ。準備をお願いします」

「はい」

彼が会議の準備はすでに終えているのはわかっていたが、蔵野から話題をそらしたかった。

 その日の会議は『滝山産業』に出店する《サラダボックス・B》の店舗デザイン決定から始まった。

信吾さんは怜二くんに聞き出そうと頑張ったらしいが、怜二くんが教えてくれるわけがない。信吾さんは迷いながらもB案に一票を入れたが、多数決でC案に決定した。

「Bが怜二だと思ったんだけど」

「信吾さん、オウムみたいですよ」

「失礼な」

「同じ事を何度も言わないでよ。メンドクサイ」

圭介くんが信吾さんが推すB案を見ながら言った。

「怜二くんの趣味ってこんな感じだったかな?」

「怜二の雰囲気に合ってないか?」

「・・・違う気がする」

圭介くんが言うように、信吾さんが気に入っていたB案は違う気がした。B案もC案も女性好みのコロニアル風だが、C案はスパニッシュ風。赤煉瓦屋根にスタッコ壁が印象的だが、B案はイギリス風だ。

どちらも『滝山産業』本社ビルの庭の雰囲気に合いそうだったが、俺は赤煉瓦の屋根が緑に映えると思ったんだよな。

「怜二くんの雰囲気じゃなくて、合わせるべきは周囲の景観じゃないの?」

圭介くんがズバリと言った。頑張れ。

「まあ・・・そうだけど」

「俺は赤煉瓦といい、壁の色といい常緑樹の緑と重なって美しいと思うよ」

「そうか?じゃあCが怜二だったのか?」

「だからさ。怜二くんの作品を採用したいんだったら、さっさと独立させれば?」

「俺はそう常々言ってるんだが、怜二が納得しないんだよ」

「メンドクサイなあ」

「そう言うなよ、圭介」

「もう」

信吾さんは首を捻りながら決裁印を押し、それを圭介くんに回した。

*****

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滝山さんちのゴチャゴチャした話は「空行く月のめぐり逢うまで」と「春の夜の夢の浮橋」に詳しく、詳しーーーく書いてます。

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