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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

菜虫化蝶・22~『Love me do』番外編

 ワインはすぐに空になった。廉慈さんと大見さんが競うように飲み始めたからだ。

2本目のワインが半分以上減り、追加した料理を食べ終えた頃には他のお客さんは帰ってしまった。マスターが「ラストオーダーですが」と聞きに来ると、廉慈さんはワインをもう1本追加した。

「廉慈さん、飲み過ぎじゃ・・・」

「大丈夫だよ、なあ?可野児」

「うん!へーきだよ。鹿之江くんも飲んで、飲んで!」

「そうだよ、飲め」

僕のグラスに勝手に継ぎ足されるワインを見ながら、僕は途方に暮れていた。大見さんはともかく、酔った廉慈さんを僕一人で部屋まで連れて戻れるのだろうか?

「鹿之江くんって、本当に綺麗だね」

片肘を付いた姿勢で大見さんが言った。頬が少し赤い。酔っているのか、廉慈さんの身体に寄り掛かるようにしているのが擦り寄っていく小動物のようだ。廉慈さんがそれを肩で押し返すと、大見さんの身体は一旦は真っ直ぐになるけど、気が付けば自然な感じで廉慈さんに寄り掛かっている。

愛嬌のある瞳がトロンとして、大見さんは時々眠そうに瞬きを繰り返した。

「そんな事はないですよ。この顔で得した事はないですから」

「あーっ!それは嘘、嘘!絶対にそれはない!僕さ、高校生の頃、女装してたんだよね」

「女装?」

「うん。可愛かったんだよ。見て!」

大見さんはスマホを取り出すと、「ほら!」と写真を見せてくれた。カラコンを入れて黒目を一回り大きくして付け睫毛と唇にはグロス。ロングヘアの可愛らしい女の子にしか見えない。

「わあ・・・可愛い」

「えへへ」

大見さんは自慢げに笑って、廉慈さんにもスマホの画面を見せている。

「僕が通っていた高校は男子よりも女子が多かったんだ。文化祭でメイドカフェをやる事になって半強制的に女装させられてさ、みんなが『可愛い』って言ってくれたのが嬉しかったんだよな・・・。注目されて好い気になって、その後2年くらいかな?女装写真をブログでUPしてたんだよ」

「へえ・・・」

廉慈さんは女の子の格好をした大見さんを見るのは初めてだったようで、熱心に画面をスライドさせながら何枚も見ている。中性的だ、と思ったのはこういう経歴があるからかもしれない。

「でもさ、僕くらいの十人並みが化粧しても君みたいな天然物の超美形には敵わないんだよな」

「そんな事はないですよ。すごく可愛いですよ」

大見さんは廉慈さんの手からスマホを引っ手繰るようにして奪うと、バッグの中に放り投げた。

「まあ、若気の至り、って事で!」

「趣味だろ?」

「別人になれて嬉しかったんだよ。っていうか~僕の事はどーでもいいじゃないか。今夜はとにかく飲もう!」

大見さんは3つのグラスにワインを注いでボトルを空にしてしまった。


 3本目のボトルが空になる頃、マスターが「すみません、閉店の時間です」と言いに来た。

入り口に敷いてあった靴拭きマットや外に立ててあった旗や看板は、すでに店の中に入れてある。ラストオーダーから1時間が経ち、店の閉店時間を30分以上オーバーしていた。可野児さんたちが常連さんだから大目に見てくれたようだ。

僕は入り口に背を向けていたので、途中から片付けが始まっていた事には気が付かなかったのだ。しかもお酒が入っていたので気遣いも出来なかった。

何しろ僕はチビチビとワインを飲みながら、いかにして廉慈さんを連れて帰るか、それしか考えていなかったのだから。

「ごめーん!退散するね」

「遅くまですみませんでした」

「いいえ。また食べに来てね」

感じの良いマスターで、閉店時間が大幅に遅くなったにもかかわらず笑顔だ。

「はーい!」

大見さんの身体は立ち上がった瞬間にグラリと大きく揺れた。廉慈さんが慌てて支えたが、2人とも足元が危なっかしい。

「可野児、大丈夫か?」

「うん!ぜーんぜん、だいじょぶ」 

全然、大丈夫じゃないな。


 乗り継ぎを考えると終電にはギリギリかな。

「先に帰れよ」

道端でしゃがみ込んで吐いている大見さんの背中を擦りながら、僕に背を向けた廉慈さんが言った。廉慈さんもフラフラしている。

「いいえ、大丈夫です」

「また保護者が煩いぞ?」

「ごめんね~!」

「お前は黙って吐いてろ」

「酷い~っ!」

「今日は実家に帰ると言ってあるんで」

「ふうん。嘘が上手いね」

吐いたらスッキリしたのか、大見さんはふらりと立ち上がった。僕がバッグの中に入れてあったハンドタオルを差し出すと、「ありがとーっ!」と受け取る。ぺットボトルの水で口を濯ぎ、「ごめん、ごめん!」と謝りながら廉慈さんにもたれ掛かったが、支える廉慈さんもよろけた。

結局、廉慈さんが脇から大見さんを支え、僕が荷物を持ち大見さんと腕を組んで部屋まで送る事になった。


 大見さんが住む家は、お店から歩いて10分。千鳥足の大見さんを叱咤激励しながら歩く廉慈さんもかなり飲んでいるので、僕たち3人の進路は真っ直ぐではない。右に左に蛇行しながら歩くうちに、僕の酔いはすっかり醒めてしまった。途中で何度か立ち止まり、「鹿之江くんっ!美人さん過ぎてムカつく!」とか「廉ちゃんのバーカ」とか大声で叫ぶ大見さんに手を焼きながら、何とか小さな一軒家に辿り着いた。

「ここーっ!僕んち」

大見さんは大声で言って、廉慈さんは「煩い、シーッ」と口元に人差し指を当てた。「静かにしろよ」と、注意する廉慈さんの声もかなり大きい。近くで犬がキャンキャン吠え始めた。

本当に古い家だ。家、というか以前はお店だったんじゃないかと思う。古くて墨の剥げた『大見』という横書きの大きな表札は、看板だったようだ。

「へへへっ、ごめんよっ」

「航くん、可野児のバッグに鍵が入ってるだろ。ポケットの所」

「ええっと・・・あっ、あります」

バッグの内ポケットにキーホルダーが入っていた。何本も鍵が付いてる。

「開けて。真鍮の古いのが玄関の鍵だ」

「これですね」

「それそれ!さっすが~鹿之江くん!」

「煩いぞ」

「はいっ」

大見さんは僕に敬礼して、廉慈さんの手から鍵を奪うとガシャガシャと大きな音を立てながら古いガラス戸の玄関の鍵を開けようとする。

「僕が」

「大丈夫!僕の方が慣れてるから」

そう言う間にも大見さんの身体は左右に揺れていた。

「古いから要領がいるんだってさ」

「ほら!開いた」

ガラガラと引き戸を開け、「どうぞ!」と言いながら大見さんは先に玄関に入って行く。

「どうする?」

「どうするって」

「帰らないのか?」

「・・・はい」

ここまで来て帰るのも変だし。

「ここに泊まればいいか。保護者には適当に言っとけよ?」

「はい」

大見さんは玄関に座って、ふらふらしながら編み上げのショートブーツを脱いでいる。廉慈さんは僕と大見さんを置いて、さっさと中に入ってしまった。引き戸は古くて、建て付けが悪いのか戸を閉めようとすると大きな音を立てる。僕は出来るだけ音が響かないようにそっと戸を閉めた。


 ホームドラマに出てきそうな、昭和の香りのする玄関だ。玄関から真っ直ぐに伸びた廊下は歩くたびにギシギシと軋み、ドアではなく障子と襖。リビングというよりも茶の間、と言うのがピッタリな部屋には古いくて丸いちゃぶ台があった。

「うわっ」

「ドラマの撮影現場みたいだろ?」

「はい」

「俺も初めて来た時は懐かしいと思った」

「ここ、じーちゃんと2人で住んでたんだ。じーちゃんが死んでから僕が1人で住んでる。毎年、固定資産税で死にそう」

大見さんはポンチョを脱ぎ、ジレを放り投げて襖を開けた。襖の向こうは床の間のあるお座敷だ。

「廉ちゃん、布団出して」

「はーい」

廉慈さんは何度か泊まった事があるのか、教えられなくても奥の部屋に入って電気を点け、押入れから布団を出して敷きはじめた。廉慈さんが敷き布団を敷くと、大見さんはすぐにそこに横になる。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

「冷蔵庫の中の物、適当にどうぞ!」

「どうも」

廉慈さんは押入れの中にあった敷き布団をもう一枚敷き、「毎回、こうなるんだよな」とこぼした。

*****

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