『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

菜虫化蝶・23~『Love me do』番外編

「寝るぞ」

「・・・はい」

「泊まるんだろう?」

「泊まります」

古い日本家屋は寒かった。マンションは気密性が高くて、今の時期ならエアコンなしでも十分なんだけど、この家は寒い。廉慈さんは毛布と掛け布団を出してきて大見さんに掛けた。

「毛布も布団もあと一枚しかない」

「廉慈さん、どうぞ」

「君が使えよ」

「でも」

「俺はホテルに泊まるから」

「ダメです!」

廉慈さん自身が酔っ払ってるのに。

「さっきのコールボーイは冗談だからな?」

「それはどうでもいいんですけど」

「どうでもいいって」

「廉慈さんの自由だし」

「まあ」

ちょっとバツの悪そうな顔。

「ここに居てください」

「・・・わかった」

廉慈さんは一旦廊下に出て、缶ビールを2本持ってきた。ちゃぶ台の前に座って、僕にも「座れよ」と自分の正面を指差した。

「飲めよ」

「僕はもう」

「飲め」

廉慈さんは缶を2本とも開けて、1本を僕の前に置く。

「可野児、面白いだろう?」

「はい」

「本名は徹郎」

「テツロウ?」

「そう。可野児は芸名みたいなもんだよ。女装していた時のハンドルネームじゃないか?」

「そうなんですね」

廉慈さんは胡坐を掻いて座り僕に座布団を勧め、グビッグビッと喉を反らしてビールを飲んでいる。

「はあっ、美味い」

「そんなに飲んで大丈夫ですか?」

「喉が渇いたんだよ。あいつ抱えてここまで歩いて来たんだぞ?君も疲れただろう?何で俺、可野児に会いに来ちゃったかなあ・・・」

「好きだから、でしょう?」

「気になる人」ではなくて「好き」なのだ。

「かもね」

廉慈さんは大見さんを指さして「言うなよ」と言うと、ビールを飲み干した。

「ボーイズバーの事、言ったじゃないですか?」

「敦子さんには言ってない」

廉慈さんを睨むと「ごめん」と頭を下げた。

「僕は誰にも言いませんよ。家永さんにも言ってない」

「わかった。それ、飲まないの?」

廉慈さんは僕の手元のビールを指差した。

「えっ、ええ」

「俺が飲む」

廉慈さんは僕の手から缶を取り上げて、自分が飲み始めた。ここで寝るのなら飲み過ぎても構わないか。

「どうして部屋を出て行ったんですか?」

「君の部屋にいたとわかれば、迷惑が掛かるかもしれないから」

「そうですか・・・。そういうのは気にしなくても良かったのに」

「君こそ、どうして可野児と?」

「ギャラリーの作家さんと大見さんが知り合いで」

「ああ。そっちか」

大見さんの静かな寝息が聞こえてくる。

「もう寝ちゃったな。彼、いい子だろ?」

「ええ。廉慈さんが気になる人、ですよね?」

「大らかで、可愛いんだよね。君には手が届かなかったが、彼になら・・・なんてね」

廉慈さんは寂しそうだ。この先家に戻って女性と結婚しても、廉慈さんが幸せになれるとは思えなかった。ご両親に理解してもらうことは無理なのかな。

「でも彼はノンケだから、手は届かないんだよね・・・どっちにしろ」

廉慈さんは優しい瞳で寝ている大見さんを見ていた。

「2人はもの凄く気が合ってると思いましたけど」

「まあな。可野児も俺と過ごす時間を楽しいと思ってると思う。俺はそれ以上は求めていないから。お友だちで十分だよ」

「そうですか」

僕に向ける眼差しよりも、大見さんに向ける眼差しの方がはるかに温かくて穏やかな事に彼は気付いていない。


 缶ビールを2本飲んだ廉慈さんは、座布団を半分に折って枕にするとその場でゴロンと横になった。

「廉慈さん、お布団に入りましょうよ」

「君が使えよ。俺は座布団でいいから」

「でも」

「大丈夫だよ。もう眠いから、おやすみ」

「おやすみなさい」

目を瞑った廉慈さんから目を離さないように、僕はこのまま起きている事にした。掛け布団を持ってきて廉慈さんの身体に掛け、僕は毛布を使う事にした。

毛布を腰から下に掛けて柱に寄り掛かり、文庫本を取り出して朝を待つ事にした。


「・・・んーっ」

大見さんが目を覚ました。いきなりガバッと起き上がってキョロキョロと周囲を見回している。そしてここが自分の家だと確認出来たのか、そのままパタリとうつ伏せになった。

話し掛ける間もなくて、僕は一旦閉じた文庫本を再び広げた。

「ねえ、朝?」

うつ伏せたままの姿勢で大見さんが聞いた。

「まだ夜中ですよ。2時」

「トイレ」

大見さんはシュッと起き上がって、ちょっとよろけながらギシギシと廊下を軋ませ歩いて行く。廉慈さんはすっかり眠りに落ちてしまったのか、僕らの話し声が聞こえても目を覚ます気配はない。

「寝ないの?」

トイレから戻ってきた大見さんが聞いた。

「廉慈さんが消えると困るので」

「あははっ」

大見さんの笑い声が大きかったのか、廉慈さんが寝返りを打った。

「こっち!」

大見さんが廊下から手招きしていた。

「はい」

文庫本を置いて付いて行くとキッチンに招き入れられた。そこはアイランドキッチンに背の高いスツールが置かれている。

「へえ・・・ここは新しいんですね」

「そう。じいちゃんが亡くなる前に改装したんだ。じいちゃんがガスの火を付けっぱなしにすると危ないからね。伯母が煩く言ってIHに替えさせたんだ」

「そうですか」

「じいちゃんは家で着物のしみ抜きとか洗い張りの仕事をしてたんだよ」

「ああ、それで表札が看板みたいなんだ」

「そう。僕が跡を継ぎたい、って言ったら喜んでさ。色々教えてもらったよ。でも僕が資格を取る前に死んじゃって、店は閉めたんだ」

「そうですか」

「習った技術は店で役に立ってるけどね」

「心配してくれる人はいない」、と言っていたけれど親戚はいるのだ。大見さんは「座って」と、スツールを勧めてくれた。

「僕の親は僕が小さい頃に離婚して、それぞれが新しい家庭を持ってるんだ。僕はどっちにも引き取ってもらえなくて、父方の祖父母に育てられたんだよ」

「そう、ですか」

「女装してたって言ったでしょ?」

「ええ」

「本当はじいちゃんを困らせたかったんだよね。そしたら、じいちゃんが僕の両親を呼び出してくれるかも、とかさ」

「そうか」

「親なら大騒ぎしたと思うけど、戦争を生き抜いたじいちゃんは違うよね。僕がウィッグ被って化粧してワンピースを着てるのにさ、『可愛いじゃねえか。女の孫が欲しかったからちょうど良かった』なんて言うんだよ」

「あははっ」

大見さんの大らかな性格はおじいさん譲りなのかな。

「ねえ」

「はい」

「廉ちゃんの好きな人って、君だよね?」

「えっ?」

「わかったよ」

「・・・」

「勝ち目ないなあ」

「それは・・・」

「慰めはいいから!僕と鹿之江くんじゃヘラクレス大カブトとコガネムシくらい違うからね」

「慰めとかではないですよ」

「食いつく所が違うだろ?」

「えっ」

「ヘラクレス大カブト」

「ああ・・・変なたとえですね」

「お坊っちゃんだな」

「違いますよ」

「ははっ。じいちゃんが亡くなって2年になるけど、父と伯母とでこの家の相続の事で争ってるんだ。じいちゃんが僕に相続させたいと言ったとか言わないとかで、揉めてるんだよな。じいちゃんの貯金とか2人で分けちゃったのに、ここを売るから僕に出て行けって言うの」

「出て行け?」

「そう。じいちゃんもきちんと遺言書とか残せばいいのにさ・・・。5月にはここを出ないと」

「でも固定資産税がどうのって」

「僕が住んでるんだからそれくらい払えってさ」

「複雑ですね」

「そうなんだよね。まあ、仕方がないけど」

おじいさんが生きている頃、伯母さんは時々料理を作って持ってきてくれたそうだ。大見さんのお父さんは、離婚してからお盆とお正月しかこの家には顔を出さなかったらしい。

大見さんのお父さんがおじいさんの世話をしなかったクセに家を売却したお金を半分分けにするのが、伯母さんは納得いかないのだそうだ。

大見さんは「大人になると難しい事がたくさんあるね」、と笑った。

 僕には両親がいて弟がいて、家に戻れば母が笑顔で迎えてくれる。温かいご飯を食べられて、心配してくれる人がいる。

些細な事だけどそれらは"ある"のが当たり前で、それが幸せな事なのだとは僕は気付けずにいた。

*****

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とうとう5月が終わろうとしておりますよ、奥さん。一ヶ月が早いですね。あっという間に梅雨入りしてしまいました。頑張りますっ!

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