『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

菜虫化蝶・24~『Love me do』番外編

 『勝ち目ないなあ』と大見さんは言った。それは彼が廉慈さんの事を好きで、廉慈さんが好きだった僕をライバル視した発言だったと思う。

彼らは互いに想い合っているのに、互いの気持ちに気が付けていないのだ。僕から廉慈さんの気持ちを伝えるのは簡単だけど、それは僕の役目ではない。


「寝ないの?」

「ええ。廉慈さんに逃げられるのはちょっと困るんで」

「僕が起きてるから、寝たら?トイレに行ったら目が覚めちゃったから、交代しようよ」

大見さんは冷蔵庫からペットボトルを取り出して飲んだ。喉が渇いていたのか一気に流し込み、ペットボトルを口から離すと「寒い」と言った。

「大丈夫。任せてよ、廉ちゃんは絶対に逃がさないから」

大見さんはガッツポーズをしてみせた。


 結局、大見さんが寝ていた部屋に敷いた布団に2人で寝転がった。大見さんが自分が使っていた布団を、半分僕の身体に掛けてくれた。

《ピタゴラス》で働いていた頃は何度もヒカルの部屋に泊めてもらったな、と懐かしくなった。考えてみれば、ヒカルが一番最初の「友だち」だったのかな?

ヒカルとは悩みや夢を夜通し語り合った事もなく、僕はいい様に利用させてもらっていただけだ。ヒカルもそうだったし。

「僕、友だちがいないんですよね」

「どうして?」

「塾が忙しくて友だちと遊べなくなって」

それは言い訳だな。遊ぼうと思えば遊べたはず。湊は塾通いの合間を縫って遊んでいたはず。僕は要領が悪かったのかな・・・。

違うな。僕は母のご機嫌を取っていただけだ。母に機嫌良くいてもらう為にはどうしたらいいか察知して大人しい良い子でいたのだ。

「へえ。鹿之江くんって、僕が想像していた人と違ってるなあ。廉ちゃんから聞いた君は、もっと溌剌として明るい人だったんだけど。クラスの人気者的な?」

「すみません、それは全く別人です」

廉慈さんが僕をどう表現して伝えていたのかはわからないけど、少なくとも商店街を俯いて歩いていた僕ではなさそうだ。

「別人か・・・。でも、廉ちゃんにはそういうふうに見えていた、って事だね。僕は学校が終わったらすぐに友だちの家に行ってゲームしてたなあ。うちにはテレビゲーム機がなくて、いつも友だちの家でやらせてもらってたんだよね。遊んでばかりで宿題もろくにしなかったから、家庭訪問の時にじいちゃんが謝っていたよ。遅刻も多いし、忘れ物も多いし、『頑張りましょう』がたくさんあったよ」

「へえ」

常に母の顔色を窺っていた僕から見れば「問題児」だ。宿題は言われなくてもやるものだった。

「僕は友だちが塾に行かせてもらってるのが憧れだったな。両親はそれぞれ新しい家庭があるから、僕への金銭的な支援もないしさ。じいちゃんは塾なんか行かなくてもいい、子どもは元気に遊んでいればいいんだって感じだったし。僕の立場からは遠慮して塾に行きたいなんて言い出せなかったからね」

ご両親がそれぞれに新しい家庭を持っていて、大見さんは放置されてしまったんだ。

「でも、考えてみたら勉強は大嫌いだったから、僕が塾に通ったとしても塾代は無駄だった」

「そんな事は・・・」

母に「予備校代も今までの塾代も全て無駄だったわ」と、泣きながら罵られた時の事を思い出した。

母も一生懸命だったんだと思う。せっかく秀藤学院という進学校に入学出来たのだから、大学も良い所に入って欲しい、少しでも順位が上がれば、僕がやる気を出してくれれば、そういう思いで塾代を捻出してくれていたのだから。

「・・・僕は贅沢だったんだな。『塾が嫌だ』とは言えなくて、嫌々ながらに通ってたんですよね。成績が良いと母が喜ぶから」

結局、不機嫌な母を見たくなくて頑張ってたんだよな。自分の為ではなく、母のご機嫌の為だった。

「それでも構ってくれる親がいて、僕は羨ましいね」

「そうですね」

大見さんは畳の上で寝ている廉慈さんを見ている。

「廉ちゃんが着物のリサイクル店をやろうとしてるの、知ってる?」

「ええ、聞きましたよ」

「『蘭雅』が販売する着物は一級品ばかりなんだよ。三越で販売されるような何百万円もする一級品は、織元さんも染元さんも他所には卸さないんだよ。呉服店でも選ばれたごく一部の店だけに許されている。『蘭雅』はその中の一つなんだ。見た事ある?」

「季節ごとにパンフレットは頂きますけど、僕は着物に興味はないのでパラパラ捲るだけですね。お店には用があって行く事はありますけど、値札が付いてないから遠くから見てます」

「正面に展示されてる振袖は大体300万から400万だよ」

「えっ・・・」

「勿論、そういう高いのばかりじゃないけどね。1000万とかする着物もあるよ」

「・・・桁が想像できない」

「あははっ。廉ちゃんは『蘭雅』の顧客がタンスで眠らせている着物を買い取って販売してはどうかと提案してるんだ。営業に回っていると買い取って欲しいと相談される事があるんだって」

「でも、ご両親が反対なさってるんでしょう?」

「反対どころか、話しを聞いてもくれないんだってさ」

「そうか。何とかならないのかな?」

「廉ちゃんは、頑固なご両親に話しを聞いてもらいたかっただけかもね」

「それで家出ですか?」

「そうみたい。反抗期だよ、反抗期」

「今頃ですか?」

「今だから、じゃないの?廉ちゃんはバカじゃない。お店も廉ちゃんも分岐点に立ってるんだよ」

「分岐点、か」

「しばらくの間、うちで預かるからさ。家出人は放っておいたら?」

「・・・」

「心配している人がたくさんいるんだよね?廉ちゃんはそれもわかってるよ。ちょっと離れたいだけだから」

大見さんは「僕に任せて」と胸を叩いた。廉慈さんが最後に頼ろうとした人は大見さんなのだ。

「そうですね。僕は始発で帰りますから。明日も仕事なので、お願いしても良いですか?」

「うん。うちの店で働かせるから大丈夫だよ。こき使ってやるからね」

大見さんは枕に頭を付けると「眠くなっちゃった」と言って目を閉じた。僕は寝てしまわないように、スマホで最寄り駅の始発の時間を調べて時間を潰した。


 大見さんも廉慈さんもぐっすり眠っていた。始発電車に間に合うように大見さんの家を出ようと靴を履いていると、廉慈さんが起きてきた。

「起こしちゃいましたか」

「廊下の軋む音で目が覚めた」

「すみません」

「帰るの?見張りは?」

「大見さんにお願いしました」

「可野児に?」

「ええ」

廉慈さんは意外そうな顔で僕を見た。

「気を付けて帰れよ」

「はい」

廉慈さんは、なかなか開かない玄関の戸を持ち上げるようにして開けてくれた。外はまだ薄暗く、古臭いデザインの外灯の明かりは夜明け前の色に良く似合う。

「もうすぐ、ここを出ていかなければならないらしい」

「素敵な家なのにね」

「戸は開けにくいけどね」

「はい」

「じゃあ」

「じゃあ」

振り返って手を振ると、廉慈さんは気恥ずかしそうに手を振り返した。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

小学校の通知表の評価って「◎、○、△」「よい、普通、頑張りましょう」「A,B,C」などがあるようですね。日高家の息子ちゃんたちは「よい、普通、頑張りましょう」でした。日高は勿論「1,2,3,4,5」ですよ(笑)プールの授業を「生理です」と言ってサボリ続けて、体育が「2」だった時は親に怒鳴られましたwww今となっては懐かしい思い出(笑)

   日高千湖

ランキングに参加しております、良かったらポチッと押してやってください♪
   ↓
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村  
携帯電話の方はこちらを押して頂けると嬉しいです♪
   ↓
ブログ村 BL・GL・TLブログ
ありがとうございました!
関連記事
スポンサーサイト
コメント
拍手鍵コメ・Kさま~いらっしゃいませ♪
拍手鍵コメ・Kさま~いらっしゃいませ♪

うわ~Kさまもでしたか(笑)ナカマ!((( ^-^)爻(^-^ )))ナカマ!

全国にはもっと仲間がいるはずですよ!!今になっては笑い話ですが受験生で2は痛いですねwww他でカバー出来ればOKですよ!うん!

航くんは不器用ですよね。特に人付き合いが。現在、リハビリ中という事ですね。

そうなんですよ、「恋文」は「文ちゃんの恋」でもあり「ラブレター」でもあり、「恋する文樹」でもあり、のタイトルです。

もうしばらく待ちくださいませね。先に航くんを片付けてしまいますから(笑)

楽しいコメントと拍手をありがとうございました!

2018/06/01(金) 07:18 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

日高千湖

Author:日高千湖
日高千湖のBL小説ブログへようこそ♪

こちらはオリジナルBL小説ブログです。BLという言葉なんて知らない、嫌悪感を抱くとおっしゃる方は回避願います。

旧ブログ『薄き袂に宿る月影』をご愛顧頂きました皆さまには、ご迷惑をお掛けしております。

旧ブログ内で公開しておりました作品につきましては順次こちらでも公開して参ります。また、旧ブログで公開中の作品は今のところそのまま残しておりますが、こちらへは改稿した上でUP致します。こちらへ移転後は旧ブログでの公開は見合わせたいと思いますのでご了承下さいませ。

左上の【Sitemap】をクリックして頂きますと過去3ヶ月の更新記事がお読みになれます。お久しぶりの方、読み逃がした方はこちらが便利です♪

サイトマップ代わりに【目次と登場人物紹介】というカテゴリを作成しましたので、そちらをご利用下さい。

★拙作ではございますが、著作権は放棄しておりません。お持ち帰りはご遠慮願います。

★大変お手数ではございますが、リンクをご希望の方はコメント欄にてお知らせ頂けると嬉しいです♪よろしくお願い致します。


ランキングに参加しております。良かったら押してやって下さい!
  ↓

にほんブログ村


ありがとうございました!

★尚、拍手コメントくださいました方へのお返事は、コメントを頂いた記事のコメント欄にて書かせて頂いております。ご確認下さいませ★

では、ごゆっくりどうぞ♪

最新記事
カテゴリ
最新コメント
FC2カウンター
リンク
QRコード
QR
フリーエリア