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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

菜虫化蝶・25~『Love me do』番外編

 そっと玄関のドアを開けると、フットライトが点いた玄関は薄暗かった。奥の方から明かりが漏れていて、リビングの方から人の気配がする。

こうして朝方こっそりと玄関を開けるのは何年振りだろう。キッチンで朝食の準備をしている母にわからないように、そっと階段を上る時の気持ちを思い出す。

家永さん、もう起きてるんだ。

「ただいま」

遠慮がちに言ったけど、リビングのドアがガバッと開いて家永さんが顔を出した。

「航!今までどこにいたんだよ!」

昨日、実家に行って来ると伝えただけで何時に帰るとか、泊まるとか、一切連絡をしなかったからだ。

「ごめんね、連絡しなくて」

「湊くんに電話して聞いたら、『今、同じベッドで裸で寝てます』とか言うし!今までどこにいたんだよ!?」

実家に行ったのは嘘だとバレてる。湊には口裏を合わせるように言っておいたのに、余計な事を言ったな。わざとヤキモチを妬かせるような事を言わなくてもいいのに。

家永さんは廊下を猛烈な勢いで走って来て、僕をガバッと抱き締めた。

「どこにいたんだよ!」

怒っているというよりも、心配で堪らなかったって感じだ。

「ごめんね。長野さんの知り合いの大見さんに会いに行ったんだ」

家永さんがギュウギュウに抱き締めるから息が苦しくなる。大見さんの名前を出すと、落ち着いたのか声がいつもの穏やかな家永さんになった。

「若には会えたか?」

「うん」

「今、どこにいるんだ?」

「大見さんの家」

「家」と聞き、家永さんはピクリと反応した。

「航もそこにいたのか?」

「うん。始発で帰って来たんだ」

「・・・若はどうした?」

「大見さんに預けてきたよ」

家永さんの腕の力は弱まりはしなかったけど、僕に「お疲れさん」とでも言うようにゆっくりと背中を撫でる。

「全く。若には甘いんだから」

「ごめんね」

「最近の航は俺に相談なしに勝手に行動するからな」

「あははっ」

元々、勝手な人間だったと思うけど。

 家永さんはやっと僕を放してくれた。

「寝てないのか?」

「うん。大見さんとおしゃべりしてたんだ。楽しかったよ。修学旅行の時にみんなは夜中まで話したり、布団の中でトランプしたりしてたんだけど、僕は隅っこで寝てるフリをしていたから」

そう言うと家永さんはやっと僕から手を離した。何度も撫でられて温かくなった背中が急に寒くなる。家永さんは僕の手を引いてリビングに連れて行った。

コーヒーの香りがするリビング。キッチンの方からは炊飯器の音がする。味噌汁を作ろうと思ったのか、まな板の上にはネギが乗っていた。

「店は昼からでいいから、寝てろ」

「大丈夫だよ」

「ダメだ。目が赤い」

「でも」

「社長命令です」

家永さんは肩をポンポンと叩いた。

「こんな時だけ社長風を吹かせるの?」

「こんな時だからこそ、だ。井上さんの注文品が早い所は明日辺りから届くんだぞ」

「そうだったね」

出版社と交渉して取り寄せられた品は直送されてくるのだ。バックヤードを整理して場所を空けなければならないのだ。

「取次ぎさんの返事待ちのもまだたくさんあるからな。そっちの確認とか連絡は俺がギャラリーの方で受け持つから、航は午後から出勤してくれ」

「でも」

寝なくったって大丈夫なんだけど。昼休みにちょっと仮眠出来れば十分なのにな。

「昼から出勤してください。君は大切な従業員ですからね。体調を崩されては困るんだよ」

「・・・」

「嘘。俺の大切な人だから、だよ」

家永さんはまた僕を抱き締めた。息が苦しくなるくらいギュッと締まる腕が逞しくて大好きだ。素直に「はい」と言っちゃっても良いのかな?

「大切な人」と言ってもらえるのは、本当に稀有な事なのだ。

「うん」

家永さんに抱き締められながら、廉慈さんには申し訳なく思った。僕が彼の想いに応える事はないからだ。大見さんも廉慈さんを憎からず想っているわけで・・・もしかしたら2人は放っておいてもくっ付いちゃうのかな?

お互いが気持ちに気付いてくれればいいのにな。

「あのね」

「んっ?」

「廉慈さん、早く戻ってくれるといいね」

「ああ。青年部の仕事も溜まってるんだよ。ゴールデンウィークの企画も止まったままだし。若がいないと色々回らないんだ」

「桜祭りが終わってないのに、もうゴールデンウィークなの?」

「そうだよ。あー、腹立つな」

「えっ?」

「航の中で若の比率が多過ぎる」

「そんな事ないよ」

「ある!『廉慈さん』ってなんだよ?あー、腹立つな。もう」

「ごめん」

「仕方がない」

家永さんは僕の背中をポンポンと叩き、「寝ろ」と言って離れていった。


 その日は午後から出勤した。これまでも水引きやラッピングの資格試験や講習会の為に休んだり半休をもらったりはしたけど、こんな事は初めてだった。

「体調が悪いの?無理しなくても良かったのに。病院には行ったの?」

敦子さんは何の前触れもなしに半休をもらった僕に、心配そうに尋ねた。風邪でも引いたかと思ったようだ。

「いいえ、違います。ちょっと実家の用が」

「あら、そうだったの?家永さんが航くんが昨日の夜は実家に戻っててマンションには戻ってきてない、って言うから。ちょっと驚いたのよ。ご実家で何かあったのかと思ったわ。久し振りにお母さんたちに甘えてきたの?」

「甘えたとか、ないですよ。ご存知でしょう?」

「ふふっ。最近はご家族とも良い関係なのかな、と思ってたんだけどな。イケメンの弟くんもよくここに来てるじゃない?兄弟仲も良いし」

家永さんは敦子さんたちには、「実家で色々あって」と言い訳してくれたようだ。ただ僕が「マンションには戻ってきていない」と言ったのは、彼のちょっとした意地悪だったようだ。

 僕が出勤するのを待ち構えていたかのように、敦子さんは『蘭雅』へと飛び出して行った。そして、その5分後に興奮した様子で電話が掛かってきた。

「お電話ありがとうございます。『ひいらぎ』でございます」

『航くん!帰って来たのよ!』

「えっ?」

開口一番に名乗りもせずに『帰って来たのよ』と言っている声は、確かに敦子さんだ。

「廉慈さんがですか!?」

『そうよ!それ以外に誰が帰ってくるって言うのよ!』

「ええ、まあ」

『とにかくご報告、じゃあね!』

ピッと切れた電話を見つめながら、事態の急展開に驚いていた。

*****

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6月になってしまいました。日高、衣替えが終わってないよ~!というわけで、ケースの中からゴソゴソと必要な物を出して着るという毎年の光景www

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