『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

菜虫化蝶・26~『Love me do』番外編

 えっ?廉慈さんが戻ってきた?

一瞬、わけがわからなかった。あれ程、『戻らないから』と頑なだったのに。大見さんの家の玄関で僕を見送ってくれた廉慈さんの心が、数時間で変化してしまったのだ。

大見さんが上手く説得してくれたのかな?それとも・・・。


「若がどうかしたの!?」

僕の声が2階にいた吉塚さんにも聞こえたのか、大きな声で聞き返してきた。お客さまが居なくて良かったよ。

「若が戻ってきたそうです」

「ホント!?」

「ええ」

吉塚さんがダダダッと階段を駆け下りてくる。プレゼントを待ち構えていた子どもみたいに、驚きと喜びとが詰まった顔をして階段を降りてきた吉塚さんは最後の1段でよろけた。

「大丈夫ですか?」

「足?大丈夫。ちょっと引っ掛かっただけ!あーっ、良かった!心配したよ」

「ええ、そうですね」

吉塚さんは踊り出しそうな勢いだ。僕の手を掴んでブンブンと振る。それに合わせて笑いながら返事をした僕は複雑だった。

僕が始発で帰ってから、2人の間でどんな会話があったのか。大見さんも朝から仕事のはずだから、2人が話す時間は短かったはず。

家出したままでは前に進めないのだ、と廉慈さんが悟ったのか。それとも元々今日、戻るつもりでいたのかな?

「マジで良かった!もしかして今から飯を食いに来るとか!?」

「それはちょっと」

「そうだよね!そうだよね!いきなりうちでまかないは食わないよな!そうだよ、まずは説教だよ、説教!なあ?航くん」

「・・・ええ。そうですね」

吉塚さんはかなり興奮していて、なぜかその場で飛び跳ねている。そんな吉塚さんと比べて僕のテンションは低過ぎたようだ。

吉塚さんは僕の反応の薄さに不満そうに言った。

「何だよ?どうかしたのか?若が戻ってきて嬉しくないのか?」

「そんな事はないですよ!無事に戻ってきてくれて良かったですよね」

「ああ」

まだ不満そうな吉塚さんが、盛大に「ハックション」とクシャミをした。

「あーもう。鼻がムズムズする」

「マスクをしたら?」

「うん」

マスクを勧められて素直に「うん」という辺り、クシャミの原因が花粉症だと本人も認めてるんだけどな。

「薬は飲みましたか?」

「そうだった。漢方薬、漢方薬。あれを飲むと、少しだけ鼻水が治まるんだよね。ホーント、頑固な風邪だよ」

漢方薬の箱の側面には大きく『花粉症の症状を和らげます』、と書いてあるが吉塚さんには読めないらしい。いや気付いていないフリか。

「即効性はないからわかり難いと思うけど、確かにちょっとだけ良くなってるんだ」

病院に行けばもっと早く効く薬があると思うんだけど。

「そうですね。風邪、早く良くなるといいですね」

「うん。敦子さん、早く戻らないかな?」

吉塚さんは反応の薄い僕を諦めて2階に戻って行った。今頃、家永さんにも報告がいっているはずだ。


 敦子さんは『蘭雅』での興奮冷めやらぬままに店に戻ってきた。予定していたお昼休み時間をかなりオーバーしていたけど、吉塚さんはそんな事はどうでもいいって感じで、戻ってきた敦子さんを捉まえて聞いた。

「若は今までどこにいたんですか!?」

敦子さんはほとほと呆れ果てたという表情で語った。

「社長夫妻が知らないお友だちの家に隠れてたんですって!いい歳なのにバカな事を考えて、全く。でも社長と女将さんには手を付いて謝ってたわ。神妙な顔をしてたから、反省はしてるみたいよ。妹や親戚が集まってきたから私は失礼してきたのよ」

「もう、ガンガン叱られてるだろうな?」

吉塚さんは気の毒そうに僕を見た。

「そうでしょうね」

「だが若の事だ。何事もなかったような顔でうちに来るぞ」

「そのとおりよ。明日のお昼はよろしくと伝えてくれ、だって」

「そう言うと思ったよ!なあ?」

吉塚さんは「なあ?」と僕に同意を求めた。

「ええ」

「なあ、航くんは若が戻って嬉しくないのか?」

吉塚さんは不思議そうな顔をして僕に聞いた。

「えっ?嬉しいですよ」

「そうか?」

吉塚さんは首を捻った。

「航くんは前からこんな感じよ。クールなの」

「そうですか。確かにクールだけど・・・」

これ以上疑われてもな。僕は吉塚さんに聞いて《エクート》にも行ったのだ。何か知っていると思われてるのかも。

「それじゃあ、明日はうちで昼飯を食うんですね?」

「ええ、そう言っていたわ。向こうが落ち着いたら今日中に商工会と青年部と、沖さんとかには顔を出すと思うの。女将さんが商店街の皆さまにも迷惑を掛けたお詫び方々、ご挨拶しなければとおっしゃっていたからいつもの時間じゃないかもね」

「そうか!今夜、店を閉めてからでもいいから、顔出してくれないかな?なあ?航くん」

吉塚さんは若に会いたくて堪らない、って感じだった。

「そうですね」

「あーっ、やっぱり反応がイマイチだな」

「すみません」

「いや、良いんだけどさ」

今一つ不満そうだけど、吉塚さんは「明日のまかないは何にしようかな?」と楽しそうだった。


 店を閉める準備をしていると、家永さんからメッセージが届いた。

『若が来てるからギャラリーに寄ってくれ』

廉慈さんに会いたがっている吉塚さんには悪いけど、僕一人で会いに行く事にした。吉塚さんを先に帰して、『ひいらぎ』を閉めた僕はギャラリーに向かった。

 ギャラリーの裏口から中に入ると、廉慈さんの声が聞こえてきた。

「ごめんって、謝ってるだろ!」

声だけでは謝ってるようには聞こえないな。

「許さん。俺の航を勝手に外泊させやがって!」

「俺じゃない!あれは航くんが勝手に」

「こんばんは」

「あーっ!航くんだ。お疲れさま!なあ、ちゃんと説明してくれよ!」

廉慈さんはいつものように着物を着ていた。僕に手招きした廉慈さんは、すっかり快活な『蘭雅』の「若」に戻っている。

「大見さんから電話があったのを家永さんに言わなかったのは僕だから。それは悪かったと思ってる。ごめんなさい」

「そう!航くんが勝手に泊まったんだからな」

家永さんは廉慈さんを指差し、強い口調で言った。

「こんな我が儘坊ちゃんは放って帰ってくれば良かったんだよ!」

「悪かったね!我が儘坊っちゃんで!」

「ホーント、迷惑だよ」

腕組みした家永さんが廉慈さんを睨んだ。

「はーん!心配してくださいとは言わなかったじゃないか?」

廉慈さんも腕組みして言い返す。お互いに信頼しているから言い合えるのだ。

「またそういう言い方、良くないぞ。素直になりたまえ」

「捻くれてますから、ねっ?航くん」

「ええ」

「『ええ』だってさ!冷たいなあ。俺に加勢してくれよ!」

「加勢はしませんよ」

「そんな事を言わずに!なっ?一夜を共に過ごした仲だろう?」

「ほら!そういう事を言う!誤解を招くような事を言うなよ!」

「本当の事だからな」

家永さんは忌々しそうに言った。

「もう、お前は家に帰れ」

「嫌だ。一緒に飯でも食おうよ」

「お前とは食いたくない!心配させやがって」

「そのうち帰って来るんだからさ、放っておけば良かったんだよ。自分らが勝手に関ってきたんだろ?」

「はあ?何だと!?」

このままでは本当にケンカになってしまいそうだ。

「いいですね!一緒に食べましょうよ、ねっ?家永さん」

「廉慈さんで俺は家永さんかよ?」

大人気ない家永さんが拗ねている。廉慈さんが「可愛くないぞ」と小声で言い、何となくいつもの感じが戻ってきた。

「廉慈さんが戻ってきてくれたから、吉塚さんが張り切ってましたよ。明日のまかないを何にしようかって」

「そう?また毎日、昼飯を食いに行くからな?」

「ありがとうございます」

「おい!」

家永さんが割り込んできた。

「あのさ、俺らを散々振り回しておいて」

「あーっ!ごめん、ごめん!もう許して!俺、ずーーーっと説教されて鼓膜が破れそうなんだ」

廉慈さんは悲しそうな顔をして耳を押さえた。ご両親に妹、親戚一同から総攻撃されてさすがに参ったようだ。

「破れません。むしろ破れた方が説教も嫌味も聞こえないから好都合だろうがっ!」

2人は笑っていた。家永さんの口調はケンカ腰だけど、2人の間では全て解決してしまっているようだった。

*****

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