FC2ブログ

『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

菜虫化蝶・27~『Love me do』番外編

 ギャラリーの入り口をトントンと叩く音が聞こえた。

「今頃、誰だよ」

家永さんが不思議そうな顔で言った。

ギャラリーの正面の外灯はすでに消されていて、【CLOSED】の札が下げられている。営業中は開けているスクリーンカーテンを下ろして、外からは中が見えないようにしてあった。だが、中の明かりが漏れているから、まだここにスタッフが残っているのはわかるとは思う。

 家永さんは首を捻ったが、廉慈さんにはノックしている人に心当たりがあったようだ。僕の顔を見てニヤリとすると「航くん、開けてやってよ」と言った。

「可野児だ」

「かのこ?」

「大見さんだよ」

「ああ、例の」

入り口に行ってみると、ガラスの向こうで大見さんがニコニコしながら手を振っていた。

「こんばんは」

鍵を開けて中に招き入れると、大見さんは「こんばんは!」と元気良く挨拶した。

「わあ、素敵なギャラリーだね」

ギャラリーの作品は春物に替わった。陶器やガラス器は桜の模様の作品が多くなり、バッグやアクセサリーも明るくて春を思わせるデザインの物が多く展示されている。一ヶ月前と比べると、ギャラリー全体が華やいでいた。

大見さんはギャラリーを見回し、アクセサリーのコーナーに近付くと薄いピンク色の石の指輪を手に取った。

「これ、可愛いね!」

「ありがとうございます」

大見さんは昨日も着ていたポンチョにてれんとした生地のグレーのワイドパンツを穿いていた。後姿だと女性と見間違えてしまいそうだ。しかも今日のベレー帽は赤い。

「あっ、長野さんのバッグだ」

「ええ、わかりますか?」

「うん。これ僕が仕入れた紬だから」

「長野さんのバッグは評判が良いんですよ。最近は外国人観光客の方も、ネットで見たと言ってわざわざここまで来てくださったり。去年は結城紬をリメイクした日傘が売れましたね」

「うん、聞いたよ。彼らは僕の店にも来てくれるからね。買った着物をドレスに仕立てたりね。面白かったのは、花嫁衣裳の白無垢をウェディングドレスにリメイクすると言って買われた方がいたんだよね。凄く素敵だった。写真を送ってもらったらから、今度見せてあげるね」

「是非」

「おーい!こっち!」

廉慈さんが手招きしていた。

「可野児!ここの怖ーいオーナーさんを紹介するから、来いよ」

「はーい!怖い、だってよ?」

大見さんは僕を見てニヤッと笑った。

「怖くないですよ」

「ふふっ。航くんの彼氏なんだって?」

「ええ、まあ」

「うわっ。純情!顔、赤いよ?」

「・・・そんなことは」

「あははっ」

大見さんは僕の肩をポンと叩き奥の方に行ってしまった。

「初めまして、大見可野児と申します」

「初めまして」

差し出された手を握り返す家永さんは、初めて会う大見さんには笑顔で接している。

「名前だけお聞きして女の子かと思いましたよ」

「いつもそう言われます。どうぞ」

渡された華やかな名刺をしげしげと見た家永さんは、「本名ですか?」と聞いた。

「違います。以前女装ブログをやってたんですよ。その時のハンドルネームが可野児だったんです」

廉慈さんが、「本名は徹郎だ」と低い声で言った。

「徹郎っぽくないでしょう?」

大見さんは自分のダボッとしたワイドパンツを握ってみせた。ワイドパンツはしなやかな生地で、それが余計に女性っぽい。家永さんは大見さんの全身を上から下まで見て、ニコリとした。

「可野児の方が合ってるね」

「ふふっ、ありがとうございます」

2人が名刺を交換して、大見さんがくだけた感じでギャラリーの感想を言う。廉慈さんはそれを黙って聞いていたが、一段落したとことで「さあ、行こうか」と言って立ち上がった。

 4人で歩いて居酒屋まで移動した。廉慈さんは着物のままだ。大見さんはそれを見て、「まだ着てるの?」と聞いた。

「ああ、悪いか?」

廉慈さんは手を羽織の袖に突っ込んでムスッとして答えた。すると家永さんがからかうような口調で言った。

「若はね、家に戻れないんだ」

「えーっ?まだ家出中なの?」

大見さんも人が悪いな。廉慈さんがまだ着物を着ている理由を何となく察しているはずなのに。

「大人げなーい」

「違います。妹と叔母が夕飯を作ってるんだ。家族はみんな、俺が家で飯を食うと思ってんの。もし着替えに戻れば、また説教が始まるからな。もう、たくさんだよ。ガミガミ、ガミガミ。女ってやつはどうして同じ事を何度も言うんだろうな?」

廉慈さんは指で頭に角を作ってみせ、大袈裟に顔を顰めてみせた。

「飯を食いながらまで説教を聞けるかって!」

それを見て家永さんは、呆れたような顔で廉慈さんを指差しながら言った。

「要するに逃げてるんだよ」

「黙れ」

廉慈さんはブスッとしてビールを注いだ。今夜飲んで帰宅したら、廉慈さんが想像している3倍くらいの説教が待っていると思うんだけど。

「家永さんだって、押し寄せてきた親戚に囲まれて『どこで何をしていたんだ』『どういうつもりだ』って、何度も同じ事を聞かれて責められたら家には帰りたくなくなるさ」

「そりゃ、自業自得だ」

家永さんは自分のグラスを廉慈さんの前に突き出し、ビールを注いでもらった。

「廉ちゃんは何でも似合うよ。着物も素敵じゃないか?」

「それは当たり前なの!洋服も似合うぞ?」

「じゃあ、買いに行く?一緒に行ってあげようか?」

廉慈さんの隣に座った大見さんが、楽しそうにその顔を覗き込んだ。

「もういいよ」

つまらなそうに枝豆を口に入れて、廉慈さんはビールを飲む。

「粋で良いじゃないですか」

「航くんがそう言うなら、OKだし」

「俺も和服姿を見慣れてるから、それでいいぞ」

「家永さんの意見は聞いてないから」

「お前なあ!俺はマジで心配したんだからな?性格的に自殺とかしないとは思ったが、もっと話しを聞いてやれば良かったとか、深刻に考えてたんだからな?航だって」

「心配してくれるのは航くんだけで良かったのに」

家永さんは前に座っていた廉慈さんのグラスにビールを並々と注いだ。

「お前、家で説教漬けにされてろ。脳ミソの皺の一つ一つに叩き込んで来い」

「やなこった」

今度は廉慈さんがビール瓶を取り上げて、家永さんのグラスに注ぐ。なんだかんだ言いながら、気は合っていると思うんだよね。この2人。

 
「それでご両親にはちゃんと謝ったのか?」

「謝りました~土下座ですぅ~」

敦子さんが言ったとおりだった。その割には反省している感じはしないんだけどな。今頃、家では「帰ってこない」と騒ぎになっているような気がする。

「あの、お家の人には僕たちと食事すると伝えてるんですか?」

「はあ?航くん、俺は小学生じゃないからな」

「まあ、そうですけど」

「連絡するわけがないだろう?」

「そうですか」

「はい」

「今夜くらいは家で食えば良いのにさ。こいつまだ『蘭雅』が閉まってないのにギャラリーに来て、とうとう戻らなかったんだぞ」

「俺が一言言うたびに説教だぞ?店から一歩も出すまいと、みんなで見張ってるしさ。嫌気が差しました」

家永さんはガックリと肩を落とした。

「早く家に帰ってくれ」

「軽く家出だね。廉ちゃん」

「家出じゃない。ちゃんと家には帰るよ。心配すんなって」

廉慈さんは家族が寝静まった頃を見計らって帰るつもりなんだ。

「俺、明日が怖い。俺が敦子さんに叱られるんだぞ?」

「それはいいね!みんなには家永さんに誘われた、って言っちゃう!」

「それだけは止めてくれ。勘弁してください!」

大袈裟に廉慈さんを拝む家永さん。学生のようなバカみたいなやり取りが出来て、僕にはそれが羨ましかった。

「どうしようかな~?」と踏ん反り返った廉慈さん。4人で、あははっと笑い合って廉慈さんのプチ家出に乾杯した。

「どうして家出に乾杯するんだよ?」

「こうして大見さんともお知り合いになれたからな。大見さん、これからも航と仲良くしてやってよ」

「ええ!勿論ですよ、あっ・・・航くんは、どう?僕なんか嫌じゃないの?」

「いいえ!良かったら、と、友だちに、なってください」

うわっ・・・「友だちになってください」とか初めてだ。

「じゃ、連絡先を交換しようよ」

「はい」

「それと敬語は止めよう?」

「・・・うん」

大見さんと連絡先を交換して、「大見さんではなくて『可野児』と呼んでよ」と言われた。初めて「可野児」と呼び捨てにした時は、ちょっと感動してしまった。「可」の後がなかなか出てこない感じ。でも、思い切って「可野児」と呼ぶと、ずっと前から彼とは友人だったような気さえしてきた。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

   日高千湖

ランキングに参加しております、良かったらポチッと押してやってください♪
   ↓
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村  
携帯電話の方はこちらを押して頂けると嬉しいです♪
   ↓
ブログ村 BL・GL・TLブログ
ありがとうございました!
関連記事
スポンサーサイト
コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

日高千湖

Author:日高千湖
日高千湖のBL小説ブログへようこそ♪

こちらはオリジナルBL小説ブログです。BLという言葉なんて知らない、嫌悪感を抱くとおっしゃる方は回避願います。

旧ブログ『薄き袂に宿る月影』をご愛顧頂きました皆さまには、ご迷惑をお掛けしております。

旧ブログ内で公開しておりました作品につきましては順次こちらでも公開して参ります。また、旧ブログで公開中の作品は今のところそのまま残しておりますが、こちらへは改稿した上でUP致します。こちらへ移転後は旧ブログでの公開は見合わせたいと思いますのでご了承下さいませ。

左上の【Sitemap】をクリックして頂きますと過去3ヶ月の更新記事がお読みになれます。お久しぶりの方、読み逃がした方はこちらが便利です♪

サイトマップ代わりに【目次と登場人物紹介】というカテゴリを作成しましたので、そちらをご利用下さい。

★拙作ではございますが、著作権は放棄しておりません。お持ち帰りはご遠慮願います。

★大変お手数ではございますが、リンクをご希望の方はコメント欄にてお知らせ頂けると嬉しいです♪よろしくお願い致します。


ランキングに参加しております。良かったら押してやって下さい!
  ↓

にほんブログ村


ありがとうございました!

★尚、拍手コメントくださいました方へのお返事は、コメントを頂いた記事のコメント欄にて書かせて頂いております。ご確認下さいませ★

では、ごゆっくりどうぞ♪

最新記事
カテゴリ
最新コメント
FC2カウンター
リンク
QRコード
QR
フリーエリア