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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・18

 赤煉瓦屋根のコロニアル風C案を提案したのは怜二くんだった。それを知った信吾さんは「やっぱりね!そうだと思っていたよ」と言い、皆から顰蹙を買った。怜二くんの事に関しては大人気ない人だ。

 C案の資料を持って蔵野部長と会う事になりアポを取ったが、予定された日は生憎と星望学園の理事会が開かれる日だった。

信吾さんにも同席してもらおう、と思っていた俺の思惑は外れてしまった。信吾さんの母・芙美子さんが高齢を理由に『滝山重三郎財団』の理事の座を降り、信吾さんが引き継ぐ事になったからだ。

滝山本家から離れ『分家』となった信吾さんだったが、本家のご両親から滝山家の事業を少しずつ継承しなければならなくなっていた。母親の芙美子さんが務めている星望学園の外部理事の任も、「来年度からはお願いね」と言われている。

『分家』でありながら、本家のご両親の事業や名誉職を引き継ごうとしている信吾さんに対して、隼人が不快感を覚えたとしてもおかしくはない。

「信吾さんの事を隼人はどう思っているんだろうね?ご両親が高齢を理由に、ご自分たちの役職や事業を信吾さんに引き継がせているだろう?」

「信吾社長の事は良き叔父、兄のような存在と思っておられたようだが、最近は少し風向きが変わってきているようだからな」

義道会長の信吾さんへの執着は、我々が思っているよりもずっと深かった。歳の離れた弟だから単に可愛いのだと思っていたが、それとは少し違う気がする。

息子の為に弟を排除するというのならわかるが、自分の後継者として息子よりも弟を推すのは普通では考えられない。

「そうか」

「隼人社長もいきなり代表取締役に就任して最初は戸惑っていたが、少しずつ『自分が』という気持ちが出てきているんじゃないのか?信吾社長の為の役員室を会議室にしたのも、信吾派の重役からは『信吾外しが始まった』と声が上がったと聞いた」

「隼人が意図していなかったとしても、そう思われてしまうからな」

自分の意図しなかった事で囁かれる噂を耳にして、隼人が気分を害したとしても無理はない。

元々考えの浅いお坊っちゃん気質だからな。以前から信吾さんの事は尊敬していたし、慕ってもいた。怜二くんを本家の養子として迎えた時も、隼人が快く受け入れてくれたのを信吾さんは感謝していた。

良好だったはずの2人。均衡が綻び始めているのだろうか。

隼人が社長に就任して、急に「社長、社長」とチヤホヤする連中が寄って来て好い気になったとしても無理はない。最初は何でも「よろしくお願いします」、「会長と協議します」という紋切り型の対応をしていたようだが、慣れてくるにしたがって徐々に自分のカラーを出したくなるのは仕方のない話しだ。

父親と比べられて好い気はしないからな。その上、「叔父」の存在がある。

それに母親の成美さんが経営から遠ざけられ本家を出て暮らしているのは、元はといえば後継者問題だった。怜二くんを養子にした事、母親が遠ざけられた事、いまだに根強く残る信吾派の存在、隼人を取り巻く空気は微妙に変化しているに違いない。

「なあ、もしかして蔵野が会議室の件にも噛んでいるのか?」

「そこまでは」

秀人は首を振った。

「そうか。このままだと『滝山産業』の方の店長も佐井寺くんに任せるしかないか」

秀人はパソコンで佐井寺一公のファイルを呼び出して確認している。素早く動く指先を目で追いながら、俺は彼の肩に手を置いた。

「2号店はどうするんだい?」

秀人の手が伸びてきて、俺の手を掴んだ。このまま離さないで欲しい。静かだった湖畔に風雲急を告げるかのような、胸騒ぎを抑えられない。

「服部くんにお願いしようかと思ってるんだけど。掛け持ちだがしーちゃんでもいい。2号店のスタッフは女性中心だがチーフを任せているパートさんがいい方なんだよ」

「服部くんが異動するならば、《銀香》はどうする?」

「しばらくは閉めるか?」

「佐井寺店長なら機転も利くし何よりも余計な事は言わないからね。彼にお願いしたいところだね」

彼ならば蔵野にも十分対応出来るはずだ。

「検討しよう。ところで隼人の社外での評判はどうなってる?耳にしているか?」

「つまり、どういう連中とつるんでるかって事かい?」

「ああ」

秀人は再びパソコンに目をやった。

「星望絡みが多いね」

「まあ、星望のお仲間と遊んでるうちは問題はないか」

「気になるなら調べてみよう」

「ああ。任せるよ」

もしそこにも蔵野が関っているのなら、早いうちに引き離してしまいたい。


 数日後、『滝山産業』に出向く事になったが稲村くんを連れて行く気にはなれず、その日は一日秀人と入れ替える事にした。

 『滝山産業』内の《初花》で我々を待っていた蔵野は、秀人を見て少々ガッカリした表情を浮かべた。だがそれはすぐに引っ込めて「初めまして」と秀人と挨拶をする。

「お父上とよく似ておられる」

「よく言われます」

《初花》のテラスから庭に出て、建設予定地にスパニッシュコロニアル風の《サラダボックス・3号店》を想像してみる。完成予想図はCGで見せてもらってはいたが、無機質なガラスが目立つビルと温かみのある赤煉瓦屋根の対比が話題を呼びそうだ。

「ところで《サラダボックス》も取材NGですか?」

「はい。創業当時からの我が社の方針ですので」

「そこを曲げてお願いしたいのですが」

蔵野は持っていた大きな茶封筒を俺に寄越した。下部に雑誌社の名前が印刷された封筒を、俺は受け取らなかった。

「申し訳ございません」

「困ったな。実は隼人社長と信吾社長、それから元メジャーリーガーの楠家との対談という形で取材を申し込まれましてね。すでに隼人社長が引き受けてしまったのですが」

お前は広報か?

愛想良く笑う蔵野は「困った」とは思ってはいない。マスコミの取材は一切受けないのが『S-five』のポリシーだとわかってはいるが、我々が必ず「うん」と言う目算がある。

「申し訳ありません。信吾氏の代わりをお探しください。幸い隼人社長は星望出身のご友人には事欠かないでしょう?」

「信吾社長だからこそ価値のある対談なんですよ!」

「良いお返事は致しかねるでしょう」

「困ったなあ」

ここまで言って漸く、蔵野は俺の返事は簡単に覆せないとわかったようだ。

俺たちが本社を出る直前まで、「信吾社長にお伺いだけでも」と粘りに粘った。どうせ出版社に接待攻めにされて、「お任せください」と胸を叩いたのだろう。


「秀人。さっきの取材の件、どう思う?」

秀人の車に乗り、早速彼の意見を聞いた。

「隼人社長が引き受けた、と言っておられたが」

「隼人に連絡は取れないのか?」

「秘書室に連絡してみよう」

隼人と蔵野。『K・Uカンパニー』の買収を機に、あらゆる所が軋んでいる気がする。


 しばらくして隼人の方から電話があった。

『もうOKしてしまったんだ。山下店長から信ちゃんに頼んでもらえないかな?』

傍には誰もいないのか、隼人は甘えた言い方をする。

「無理。わかっているだろう?怜二くんの事があるから、あの人はそういうの受けないからね」

『そこを何とか』

自分からではなく俺から「頼んでくれ」と言うのは、断られるとわかっているからだ。もしかすると、すでに断られているのかもしれないな。

「何とか出来ると思うんなら、自分で頼めよ」

『山下店長から頼んでもらえば、信ちゃんも断れないかと思ったんだけど』

「俺は請け負わないよ」

『そこを何とかお願いします』

「三木くんにでも頼めば?」

隼人は必死だ。出版社ではすでに、企画にGOサインが出ているのだろう。だが、『滝山産業』の社長だろうが何だろうが、我々の不文律は犯せないのだ。

『お願いします!』

頼めば何とかなるとでも思っているのか?

彼は『S-five』には2年程勤務していた。その間に何度も取材依頼を受けたが、俺らが全て断っているのを知っているはずだ。それが例え世話になっている方を通しての依頼であっても、だ。

それを知る隼人が、どうしてこう簡単にOKを出したものか。

「俺に頼む前に、まずは信吾さんに聞くべきじゃなかったか?」

『わかりました』

隼人は明らかに機嫌を損ねたようだったが、知ったこっちゃない。俺ではなく、直接本人に頼むべき事だからな。


 電話を切ると、すぐに蔵野から着信した。

『取材の件ですが、何とかなりませんでしょうか?』

「申し訳ございません。滝山及び弊社はマスコミの取材には一切応じないと決めております。今回は隼人社長が直々にお引き受けになられたようですので、隼人社長の顔を立てる為にも滝山にはあなたから依頼して頂けませんか?」

『わかりました。ですが、山下さんの方からも口添えをお願いしたいのですが』

「申し訳ございません。私は滝山の事情も熟知しておりますので、私の方からは申せませんよ」

『本当にそれで良いんですね?』

何だ?その脅すような口調は。

「ええ」

『わかりました』

蔵野の口調にムッとした。プッと雑に、先に電話を切られた事にもムッとしたが、『滝山産業』である事を笠に着たとしか思えないような口振りが気分が悪い。

「頼んでるのはそっちだろうが」

スマホに向かって文句を言うと、運転している秀人が笑いながら言った。

「どうした?」

「いや、蔵野の口調がかなり権高な感じでね。信吾さんに直接聞けと言うと、本当にそれで良いのか?と聞くんだよ」

「『田原プロ』の社長からの話しだろうか?」

「今まで田原社長からの依頼を何度も断ってるんだよ。だからこの3、4年は田原社長から話しが持ち込まれた事はない」

「じゃあ、やはり蔵野か?」

「そうだろうね」

「どうも好きにはなれないね、彼は」

「その通りだが・・・。なあ、隼人のヤツ、完全に蔵野に引っ張り回されてないか?」

「蔵野をもう少し調べよう。おかしな事になる前に隼人社長とは引き離した方が良いと思う」

「ああ。それがいいね」

だが、所詮は『滝山産業』内部のいざこざでしかないのだ。我々が出る幕ではない、というのが俺の正直な考えだった。この時まではね。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

すみません。圭介の話を先に終わらせたかったものですから。こっちはかなりのお久し振りとなりました!

ちなみに信吾と義道さんの父子関係は、山下くんたちも知りません。

   日高千湖

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コメント
ああっ!何でそこで膝に乗せないのだ綱本よ!だから票が取れないんだよ!
と、朝から残念な思いでいっぱいです。
でも良きパートナーですね。公私共に2人手を繋いでいるんだな、なシーンでした。
ありがとうございました😊
2018/07/08(日) 10:03 | URL | きりん #-[ 編集]
Re: きりんさま~いらっしゃいませ♪
こんにちは~きりんさま♪

> ああっ!何でそこで膝に乗せないのだ綱本よ!だから票が取れないんだよ!
> と、朝から残念な思いでいっぱいです。

綱本にダメ出しありがとうございます!!メモメモφ(・ω・`)...

> でも良きパートナーですね。公私共に2人手を繋いでいるんだな、なシーンでした。
> ありがとうございました😊

そうですね。仕事に関しては真面目な綱本です。いつもキリッとしてるのに時々アホですが(笑)
この2人が一番安定してるのではないかと思っています。波風立たないし(笑)

こちらこそ、コメントありがとうございました!
2018/07/08(日) 16:25 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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