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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・22~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 冷蔵庫を開けると、真正面にジャガイモの煮物とポテトサラダが鎮座していた。

「量、多くない?」

これは一人で食べる量ではない。半端ない量だ。輝也がいない間は、このジャガイモシリーズで飢えをしのげというのか。そうか・・・俺が昨日から胃が痛いのを輝也は知らないからな。俺は思わず冷蔵庫に向かって呟いた。

「胃が痛いんですけど」

誰に言うでもないが、ただ訴えたくて冷蔵庫に向かって言ってみた。

「輝也のヤツ何を考えているんだろう?」

鍋の中の味噌汁もジャガイモと油揚げ。輝也は俺の体内を澱粉まみれにしたいのだろうか。

「これは嫌味かな?」


それともどこかでジャガイモの大安売りをしていたとか・・・いや、嫌味だな。

ジャガイモと嫌味がどう繋がるのかわからなかったが、とにかく嫌味だと思う。輝也の勘違いを訂正しないまま送り出してしまった俺への罰だ。

そう考えたが、俺がこれを食べ終える頃には輝也は帰って来るわけだ。帰ってくれば誤解は解ける。俺はそれくらいにしか考えてはいなかった。


「はあっ」

普段ならば、「起きた?」と確認の電話をしてくるのにそれもない。俺を起こす、という重大任務を目覚まし時計ごときに任せてしまっていいのか、輝也。

昨夜の飲み過ぎを反省しながら、俺は胃を擦った。

「痛いわけじゃないんだけど・・・変な感じ。病院に行こうかな。それとも胃薬を買うか?」

山下くんにもらった胃薬の名前なら覚えている。ドラッグストアに行けば手に入るだろう。それにただの飲み過ぎかもしれない。

「まあ、今日のところは薬を買う方向で」

今日の俺は忙しいのだ。2週間振りに『滝山不動産』第二営業所に顔を出さなければならない。それから《イゾルデ》と《ビストロ・325》、《花信風》に顔を出す。その後は午後5時までに《トリスタン》に寄ってから《SUZAKU》に入って店を開けて・・・。

山下くんと三木くんがやってくれていた事は、今度から俺がやらなければならない。こうなったら一蓮托生だ。高田くんを起こして半分受け持ってもらえないかな・・・なんてね。

「なんか、メチャクチャ忙しくないか?俺」

病院に行く暇はないじゃないか。そして味噌汁を温めながら、ふと気が付いた。

「あれ?テルは何を怒ってるんだろう」

俺と小鳥居との間に何かあったと思っているのは間違いない。「勘違いするなよ」って、言ったよな、俺。

「そうか・・・言ってない、か」

完全に勘違いしている、って事か?ジャガイモ攻撃はそういう意味か?

「まいったな」


大体、小鳥居が悪い。カンタたちも「放っておいていい」と言ったはず。例え俺が「お前もここで寝ろ」とかなんとか言ったとしてもだ、お断りするのが筋ってもんだろ?


「やっぱ、あいつとは合わないな」

考え事をしていたら味噌汁は沸騰寸前。慌てて火を止めたが、それさえも小鳥居の所為としか思えない。熱すぎる味噌汁をお椀に注ぎ、すでに炊かれていたご飯を一口分だけ茶碗によそって手を合わせた。

「いただきます」

ありがたいはずの輝也の朝食が味気ない。本当は美味いはずの味噌汁だったが、輝也がいないと俺の世界は色を失って味もわからなくなってしまうのだ。


 ドラッグストアの開店と同時に胃薬を買い飲んだ。『滝山不動産』第二営業所のドアを開けた瞬間、自分の机がある事が奇跡のようだ、と思いながら俺は席に着く。

俺が出勤しないから、ここの営業も経理も全て所長任せになっていた。所長は本社が移転するずっと前から『滝山不動産』を任されていた60代前半の男だ。他には営業が1人と経理と事務処理を担当する女性が2人。

気紛れにやる気を出してここに顔を出す俺よりも、お土産を持って来る三木くんや爽やかな山下くんの方が、彼らも彼女らも嬉しいに決まっている。と、俺的には都合良く考えていたわけだ。

隣には『滝山クリーン』の事務所があり、そちらにも俺の机はある。どちらの事務所にも俺専用の湯飲みとグラスとマグカップがあり、いつでもここで仕事をしてくださいよ、という状態だ。

 本社ビルにある『滝山不動産』は『滝山産業』の物件や他所の物件も取り扱うし不動産取引もやるが、ここは信吾さんが所有するマンションや駐車場、ビルの管理が主だから、比較的ノンビリしている。

管理はここだが、外廊下の電球が切れたとか、駐車場が散らかっているといった管理人や住人からの報告があれば『滝山クリーン』に電話をするだけ。あとは住人同士や住人と近隣住人とのトラブル処理が多い。

こんな俺でも一応は「専務」なので、そういうトラブル処理に呼ばれる事もあるが案件の大多数は三木くんと山下くん、木下章太郎が担当してくれていた。

俺はそれらしい立派な印鑑を持たされていて、時々それをバンッと押していればいいって感じ。基本的に所長に全てお任せなわけだ。

11時までは事務所にいるつもりだったが、特に仕事はない。飛び込みの客も来ないし、電話は引っ切り無しに鳴るが俺が出るわけではない。ついでに輝也の事が頭から離れなくて、イライラしてくる。

電話をしようか、それとも掛かってくるのを待つか・・・。

《天つ空》には桜祭りの準備の為に行ったわけだ。三木くんがわざわざ輝也と伊織くんを連れて行ったのだから力仕事に違いない。「電話」という誘惑と戦いながら、俺は昼まで電話を待つ事にした。

「じゃ、俺は店に顔を出してきますから。後はよろしくお願いします」

「はい。お任せください」

所長も事務員さんも俺がいるのは迷惑だろうし。まずは《325》に行って、しーちゃんの働きぶりでも見学しますか。


 《325》はまだ開店前だ。中を覗くと、しーちゃんと猪俣がホールの真ん中で何やら話しをしていた。

「しーちゃん!おはよう!」

「あーっ!圭介さん!おはようございます」

「会いたかった」

しーちゃんをハグすると「会いたいのはテル、でしょう?」と生意気にも俺の本心を読む。

「当たり前だろうが。三木くんにも困ったもんだよ。伊織くんだけ連れて行けばいいのにさ、どうしてテルまで連れて行くんだよ」

おかげで仲直りも出来ないじゃないか。

「俺も箱根に行きたい」

「僕も箱根の《天つ空》に行ってみたいですよ」

そうだよ。どうせなら、しーちゃんと伊織くんを連れて行けば良かったんだよ。だが・・・。

「しーちゃんは行かなくてもよろしい」

「えーっ!どうしてですか?」

「どうせ伊織くんと露天風呂にでも入って星を眺めたい、とかロマンチックな事を考えてるんだろ?エロいよ、顔」

しーちゃんは目を丸くして自分の頬を両手で覆った。俺が言った事がズバリと的中したのだ。

「て、店長」

「俺、エスパーだから」

「もう!」

しーちゃんは乙女のように頬を染めて、俺の肩をバシッと叩いた。

「可愛いからエッチな妄想も許す」

するとしーちゃんは唇をキュッと引き結んで、「知りません!」とむくれてしまった。

「しーちゃん、俺もここでまかない食っていい?」

「ダメです!」

「どうしてだよ?」

「店長の分までありません。大箱の《イゾルデ》でどうぞ」

「厳しいな。猪俣、よろしく」

「うちの可愛い店長がダメだと言うので、ダメです」

「ケチ」

「さっさとお役目を終わらせて上に行ってくださいよ」

「・・・はーい」

プリプリとお怒りのしーちゃんは、俺の背中を押して事務所の中に押し込んだ。


 お役目、と言われてもな。《325》の売り上げをチェックして、再来週のランチやディナーの内容を確認してOKを出す。食材の発注にミスがないかチェックして・・・俺の仕事は多過ぎはしないか?

輝也の席だった椅子に座って、輝也の事を考えているので仕事は捗らない。

「なあ、猪俣」

「はい」

「今日のまかないは?」

「ジャガイモの」

「あっ、言わなくていい。やっぱり《イゾルデ》で食うわ」

「今、うちで食う気満々で聞いたでしょう?」

「ああ。でも俺、ジャガイモアレルギーなの」

「そんなのあったっけ?」

「あります」

「そうですか」

こうなったら《イゾルデ》の章ちゃんに、「ジャガイモが入っていないまかないを食わせてくれ」とお願いするしかない。

*****

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圭介のアレルギーが増える、の巻。

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