『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・23~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

「圭介さん、どうかしたんですか?」

「どうかって?」

「いや、珍しいなと思って」

「どこが珍しいんだよ。これが平常運転だろうが?」

「・・・どこが平常運転ですか?」

「全面的に」

《イゾルデ》の店長・木下章太郎は、事務所に入るなり「ジャガイモなしのまかないを食わせろ」と言った俺を迷惑そうに迎えた。

「三木くんは箱根だし、山下くんは《サラダボックス》で忙しいだろ?だから、せめてこっちだけでも俺が動いてやんないと」

もっともらしい事を言う俺を、章太郎は「熱でもあるんですか?」と心配そうに覗き込んだ。

「熱はない」

胃はおかしいが熱はない。

「圭介さんが今まで、そういう殊勝な事を言った事はなかったじゃないですか?」

「失礼なヤツだな」

「絶対に三日坊主だな」

「はあ?最近の章ちゃんは生意気ですね」

「ありがとうございます」

「褒めてないし」

「褒められてるかと思った」

木下章太郎とは、彼が大学生の時に《銀香》でアルバイトを始めて以来の付き合いだ。星望学園大学を卒業し『S-five』に就職した彼は、黒川の異動に伴って《イゾルデ》の店長と三木くんが社長を務めるケータリング会社の『タチバナ』の専務を兼任している。

彼はアルバイトの頃から信吾さんのお気に入りで、いわば我が社の「生え抜き」だ。

「俺は今まで《有明の月》と《SUZAKU》の2軒を受け持ってたんだぞ?」

「俺なんか、ここと『タチバナ』を兼任ですからね?」

「章ちゃんは若いからいーの!俺らが25,6歳の頃は、マジで過労死するかもってくらい働いてたからな?《SUZAKU》終わって《白夜》にヘルプで入って、三木くんなんかそのまま《銀香》を開けてたんだぞ」

「それは俺も知ってます。三木店長は《銀香》を開けてたかもしれないけど、圭介さんは寝てましたよね?」

「忘れた」

「あははっ。都合の悪い事はよく忘れますね」

「煩い」

《イゾルデ》のまかないはチキンカレーだった。胃に優しくはないかもしれないが、ジャガイモ攻撃よりはマシだ。絹さやとアスパラガスのグリーンが胃に優しい気がするし。

「圭介さんが不動産の方を引き受けてくれたら、山下店長も三木店長も楽になると思いますよ」

何だよ、その言い方。まるでお前の方が先輩のようじゃないか?

「ていうか、お前がやれば?」

「圭介さん。これまでもあなたが寝てるから、という理由で不動産の方の仕事を回されてたのは俺なんですからね?」

ああ、墓穴を掘ってしまったか。

「章ちゃん、カレー、美味いね」

「ホント、聞こえないふりとか大人気ない」

忙しいランチタイムにヘルプに入ってやったので、章太郎は機嫌良くまかないを振舞ってくれた。おかげで久し振りにスーツを着る破目になってしまったが、カレーにジャガイモは見当たらないから良しとしよう。

「最近、薫はどうしてる?元気か?」

「ええ、おかげさまで。俺とは休みが合わないんで、さっさと独立して欲しいです」

「お前も信吾さんと同じような事を言うな」

「それは当然でしょう?休みが合わないのはすれ違いの原因ですからね。その点、圭介さんと輝也は職場も同じ。仕事の事もお互いに理解があって、ケンカの原因もないでしょう?」

いえ、ございますよ。

「まあな」

章太郎に詮索されるのも癪なので、ここは「本当は今すぐでも箱根に行って、仲直りしたいです」なんていう本音は隠しておく。

「なあ、章太郎は《花宴》にいた小鳥居を知ってるか?」

「小鳥居ですか。俺もよくわからないですね。最近入った《花宴》や《シェーナ》のスタッフの事は、あまり知らないんですよね。三木店長に聞けばいいじゃないですか?三木店長が引き抜いてきたんでしょう、彼」

「それくらいは俺も知ってるけどさ、イマイチ掴み所がなくてさ」

「黒川店長は重宝していたようですよ」

「変人が変人を気に入ってるの。参考にならないだろ?」

「そう言う圭介さんもかなりの変人ですけど」

「章ちゃん、口を慎め」

「はーい。俺よりも引継ぎしたから圭介さんの方が小鳥居には詳しいと思いますけどね」

「まあ、そうなんだけど」

「気になるんですか?」

「気になるというか・・・」

ここから先はシークレットだ。昨日の話しを章太郎にすれば、薫がすっ飛んでくるじゃないか。


「じゃ、章ちゃん。明後日ね」

「本当に明後日も来るんですか?」

「当たり前だ」

「期待しないで待ってますから」

「マジでムカつくな、お前」

「ははっ。お疲れさまでした」

どうせ俺のやる気なんか三日坊主で終わると思っている章太郎に見送られ、俺は《花信風》まで足を延ばした。車で行こうと思ったが、「足腰弱りますよ」と章太郎にバカにされたので意地でも歩いて行く。

3月とは言え紫外線量は侮れないから、日傘を差してノンビリと歩き出した。

 駅前通りは緩やかな坂道になっている。以前《銀香》があった場所は《はるか》という店に替わったが、《はるか》を経営していた酒井さんが店を閉めて現在は空き店舗になっている。

《銀香》だった頃の名残を濃く残している煉瓦の壁の前を通り過ぎ、欅の木陰を歩き《花信風》までは約10分。涼やかな木陰に隠れるように建っている《花信風》は、山下くんが凝りに凝っただけあって敷地に足を踏み入れた瞬間から別世界だ。

木々に覆われた小径に入ると、気温が2、3度下がる。アプローチに添って植えられた紫陽花が青々とした新芽を吹き、モミジの緑が鮮やかになった。

「ここに来ると春を感じるな」

「ええ。山下店長が四季を感じる庭にしたいとおっしゃっていましたが、そのとおりになりましたよ。蝶々が飛んで、蜂が飛んで、蝉が鳴いて、こおろぎが鳴いて、ビオトープには氷が張って」

「田舎に来た気分になるね」

しかも目の前は星望学園中・高等部だ。ここから更に坂を上った先にある学園は、外部と遮断するかのように鬱蒼とした木々が生い茂る丘の上に建っている。

ここから星望のある方向を見ると、まるで山の中の一軒家にいるような気分になるのだ。

「ゆっくりしてってください」

「そう言ってくれるのは佐井ちゃんだけだよ。章ちゃんは意地悪だからね」

佐井ちゃんは三木くん仕込みの玉露を淹れてくれた。甘さのある緑色を口に含むと、10分も歩いた身体にじんわりと沁みる。

「美味い。佐井ちゃん、お願いがあるんだけど」

「はい?」

「帰りは車で送って」

「歩いてお帰りください」

「ケチ」

「俺も歩いて来てますから」

「そうか。残念」

「亮輔の自転車ならありますけど」

「佐井ちゃんと二人乗り?」

「まさか!圭介さんが漕いで行くんですよ」

「無理。俺、15年以上自転車には乗ってない」

「大丈夫ですよ。そういうのは身体が覚えてますから」

「いい。歩くから」

「健康の為にね」

「ああ。ところで小鳥居って知ってる?」

「ああ、《有明の月》の?」

「そう」

「挨拶程度」

「だよな」

白磁の湯飲みを茶托に置き、僅かに底に残る鮮やかな緑色に目を奪われる。

「彼、いつも新年会とか顔だけ出してすぐに消えますよね?」

「そうなんだよ」

「黒川に聞いてくださいよ」

「もう聞いた」

「黒川に聞いてもわからないんじゃ、誰に聞いてもわかりませんよ」

「だな。まあ、いっか」

「気になるんですか?」

「懐かれてるんで」

「圭介さんが、ですか?」

佐井ちゃんは目を丸くした。みんな同じ反応だな。

「そう」

「へえ」

「何だよ?」

「珍しいですね、圭介さんが懐かれるなんて」

えっ、そっちか?

「どうせ俺には珍獣華恵しか寄ってこねえよ」

「あははっ。そんな事はないでしょう」
 
仕事があって良かった。気も紛れたしね。カレーを食べ過ぎたかな、また胃がモヤモヤしている。

*****

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