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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・26~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

「薫、帰ったんじゃなかったのか?」

そう声を掛けると、薫はムスッとして答えた。ここに居るのは本望ではない、って顔をしている。

「帰るつもりだったんですけど、小鳥居さんとバッタリ」

薫は不機嫌そうに後ろにいた小鳥居を見た。薫がここを出て30分は経っていると思う。その間、2人は外で立ち話でもしていたっていうのか?

「俺、ちょっと章太郎さんの所に顔を出してたんです」

「ああ、それでね」

仕事終わりにやって来た小鳥居と鉢合わせしたってわけか。それがどうして、ここに来るわけ?

「橋本店長、こんばんは」

小鳥居は昨日の事などなかったかのように挨拶してきた。

「お、おう」

「清川くんに呼び止められまして」

いや、「呼び止められまして」じゃねえよ。お前、どうしてここに来るんだよ?

「何か、用?」

俺は憮然として聞いた。ここで愛想良くするのも薫に叱られそうだし、かといって仏頂面も変だ。だが勘繰られても困る。

「いえ、特には」

「圭介さん!あんた、何を言ってるんですか!」

カンタが小声で言いながら俺のシャツを掴み、シャツごと身体を引いた。小鳥居は仕事終わりに飲みに来てくれたんだから、立派な『お客さま』なのだ。

俺を押し退けたカンタは「小鳥居、お疲れ!店はどうだった?」と妙に陽気になって声を掛け、カウンターに座るように勧めた。

「お疲れさまです。店の方はおかげさまで上々ですよ」

普段よりも小鳥居の声に表情がある。普通の会話をしていても彼の感情が伝わってくる事は少ないんだけど、今日は「仕事頑張ってきました」的な雰囲気が伝わってくる。

「そうか。新米店長だから、気を張ってるんじゃないか?」

カンタ、心にもない事を言ってるな。何を先輩面してんだよ。

カンタは薫にも「薫ちゃん、座って!」と小鳥居の隣の一番隅の席を勧めた。《SUZAKU》のカウンターは出会いを求めてやって来るオトコたちが座る。薫をそいつらのターゲットにするわけにはいかないからな。

薫は席に着くと俺をチラリと見て、「圭介さんの奢りでカシスソーダ」と大きな声で言った。


 カシスソーダを作るカンタの手元を見ながら、俺は「少なめ、少なめ」と声を掛けた。氷の入ったグラスにリキュールを注ぐ手を「そこまで!」と止めたい気分だったが、カンタは無視した。

レモンスライスを乗せたそれが薫の手元に渡った時、すでに嫌な予感はしておりましたとも。思ったとおり薫は2杯目をオーダーし、3杯目を口にした頃には目が据わっていた。

一緒に来たにもかかわらず小鳥居と薫の間にはほとんど会話もなかったが、薫は酔いが回るに連れて馴れ馴れしく「ねえ!」と小鳥居に絡むようになった。

まあ、手が付けられなくなったら章太郎を呼べばいいか。

「小鳥居、適当な所で帰れよ」

「えっ?」

「薫の説教が始まったら1時間は覚悟が要るぞ」

「へえ・・・」

こいつ、面白がってるな。

「トイレに行くと言って帰れ。俺は覚悟は出来てるから」

「何の覚悟?」

薫が口を挟んできた。それも小鳥居の肩に手を置き、かなり馴れ馴れしい。警戒心が強い薫だが、酔っ払うとボディタッチが激しくなる。

「何でもない」

「覚悟って、なんなのさ?」

バンバンとテーブルを叩き、「はあ?」と言いながら俺を見上げた。

「いや、ほら。俺は一生テルだけっ!って感じの覚悟だよ」

「はあ?昨日、この人をベッドに連れ込んだくせに、何を言ってんの?」

薫の指はしっかりと小鳥居を差してた。小鳥居は曖昧に笑って肩を竦める。おいっ!お前が否定しろ。

「そんな事はありませーん!」

「嘘だ」

薫は真面目な顔で、「嘘吐きだ」と俺を指差す。

「薫ちゃん、章ちゃんを呼んでこようか?」

「結構です。面倒臭いから」

「いや、今のところお前が一番面倒臭いよ」

「はあ?」

しまった。つい本音が出てしまった。ここでご機嫌を損ねてはならない。

「いえ、何でもありません。失礼しました」

「章太郎さんは呼ばないで。毎日、毎日、早く独立したらどうか、って。煩いんだよ、もうっ」

グラスを掴んで、グイッと喉を反らせて薫はカシスグレープフルーツを飲んだ。爽やかでフルーティーな飲み口に騙されている。度数は高くはないが、薫を説教魔に変えるだけの威力はある。

さっさと章太郎に引き渡した方がいい。

「よし!章太郎には俺から言ってやるから。カンタ、章太郎に電話してくれ」

「はあ?」

あれ・・・火に油か?

薫は俺を睨んでいる。完全にターゲットは俺だよ。カウンターの下でコッソリとカンタに合図を送り、電話してくるように促した。

「それ、圭介さんが言う?」

「あっ、まあ・・・その」

「輝也が新しい店の店長になったからってグズグズ言ってたんでしょう?」

「まあ」

「意味わかんなーい!『大事なテル』って言うわりには、輝也の出世を阻むわけ?」

「阻んだわけではない」

「いーや!違う」

薫は小鳥居の腕をバンバン叩き、肩から首にしがみ付くようにして絡み始めた。

「薫、落ち着け」

「落ち着いていられるかっての!小鳥居さんも小鳥居さんだよ!圭介さんが脱げと言ったから脱ぎました的なイエスマンでどうすんの?」

「すみません」

「すみません、すみませんって、謝ればいいって問題じゃないんだからね?謝って済むなら警察要らないって話し!」

「はい、申し訳ございませんでした」

小鳥居は薫の豹変振りに、笑いながら頭を下げた。笑うな、小鳥居。ここは笑う所じゃない。俺とカンタは小鳥居に目で合図したが、小鳥居には通じなかった。カンタは目立たないように、蟹歩きでそっと事務所に向かっている。

「気持ちが入ってない!」

何と言って良いかわからなかったらしい小鳥居は、とうとう禁句を口にした。

「すみま、せん」

「聞き飽きた」

ああ、今のドスの効いた声。可愛い薫ちゃんのどこからあんな声が出るのだろうか。

「では、どう謝罪したら」

真面目な小鳥居は、真面目に聞き返した。酔っ払い相手に真面目になるな、小鳥居。

「謝罪とか、遅いし」

遅いんだよな。わかってるさ。だが、薫。お前が戻って来なかったら、俺は今頃輝也に電話して「ごめん」を言えてたんだけどな。

「圭介さんっ!」

「はい」

「呆れて物も言えないよ。輝也を泣かすなって、あれ程言ったのに!」

薫は涙を浮かべていた。あれ?泣き上戸も加わったのか?

「俺の言う事なんか、聞いてくれないんだね?」

「聞いてました、ちゃんと聞いてました!浮気はしてません!神に誓ってヤってない!なあ?小鳥居」

「はい」

「ほら!なっ?」

薫はボソッと、「下品」と言った。

「すみません」

俺の「すみません」に薫は「チッ」と舌打ちした。

「浮気してないのはわかってます。問題は、こ、と、り、いっ!名前は可愛いけど、全然可愛くないぞ!ちょっとは笑え!」

「は、はい」

「圭介さんには輝也がいるの!わかってるんだったら圭介さんの周りをチョロチョロしない!」

あっ。薫は小鳥居が《SUZAKU》に来たから、一緒に店に入ったのか?

「はい」

「水羊羹で圭介さんを釣ろうなんて、100年早いよ」

どこから水羊羹の話しを聞いたんだよ、お前。

「圭介さんも圭介さんだよ。すぐに脱ぐんじゃない!」

薫は俺を睨みながら何やらブツブツ言うと、グラスに残った酒を飲み干した。カンと高い音を立ててグラスを置いた時にカンタが事務所に入ろうとしたのに気が付き、「カンタさーん!」と呼び止めた。

カンタ、まだそこに居たのか・・・さっさと電話しろよ。

「はい!」

「おかわり~!」

「薫、もう止めておけ」

「飲む。俺もたまには飲みたいよ」

「そうか?」

「うん」

ヘニャッと笑う薫は本当に可愛らしかった。頬に浮かんだエクボの愛らしい事。だが、これに騙されてはならない。

 それから薫は小鳥居の肩や腕をバンバン叩きながら、俺と小鳥居に説教を始めた。

「あのね、圭介さん。輝也は繊細な子なの。圭介さんみたいに心臓が超合金じゃないんだからね?」

「おいおい!いつから俺の心臓が超合金だよ?」

「知らなーい。輝也はいっつも圭介さんに泣かされてるんだからっ!」

頬をぷうっと膨らませるその仕草は可愛いんだが、酔った薫にはお手上げだ。

「俺がいつ輝也を泣かせた?超真面目人間に生まれ変わった俺を、証明してくれ。カンタ」

「えっ?」

「カンタ」

「ああ、まあ。テルと知り合う前はハチャメチャな私生活だったけど、今は全くの真面目人間だよ。牙を抜かれたライオンさん以下だよ?薫ちゃん」

「あははっ、歯抜けのライオンさん!あははっ」

「あははっ。そうそう!可愛いライオンさんだよ、な!」

「あははっ・・・ライオン、さん」

薫は「ライオンさん」と2度呟いた。

「小鳥居!」

「えっ?」

「薫を捉まえてくれ!」

小鳥居が素早く手を出して支えたから良かったようなもんだ。薫は例のごとく、突然眠ってしまった。

「寝顔は可愛いんだが」

「毎回、お騒がせですよね」

「ああ。カンタ、章太郎に電話して」

「はい」

小鳥居から薫を引き取ってベッドに運び、次は保護者の苦情を聞く準備だ。今夜の俺って、不幸過ぎないか?

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

他の人には無敵の圭介ですが、薫ちゃんには敵わないのです。という事は、薫ちゃん無敵説?

   日高千湖

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コメント
薫ちゃん最強
久しぶりの酔っ払い薫ちゃん最高!
超合金な心臓 大笑いしました
小鳥居に対して皆んな思ってても言えない事ズバズバ言ってくれた薫ちゃんグッジョブ!
圭介さん早くテルちゃんに言い訳して謝らないと、テルちゃん悲しんでる 圭介さんもモヤモヤで胃潰瘍になっちゃうよ
日高さんお忙しい中更新ありがとうございます
毎日楽しみにしてます
2018/06/20(水) 06:10 | URL | のんちゃん #-[ 編集]
Re: のんちゃんさま~いらっしゃいませ♪
のんちゃんさま~いらっしゃいませ♪

お久し振りですね~コメントありがとうございます!!

久々の説教魔・薫ちゃんです(笑)超合金ロボ並みの圭介のメンタルをズタズタにするくらいの薫ちゃんの破壊力www楽しんで頂けて良かったです~♪

> 小鳥居に対して皆んな思ってても言えない事ズバズバ言ってくれた薫ちゃんグッジョブ!

皆、小鳥居くんの不気味(笑)な感じに遠慮してるのでいろいろ言えないんでしょうね。薫ちゃんも飲んでなけりゃ言わないかも?いや、言うか(笑)

心臓は超合金でも胃は繊細な圭介の為にも、早く仲直りしてもらわないと!

ジトジトした気候に負けずに、更新頑張りまーす!のんちゃんさまもご自愛くださいませね!

コメントありがとうございました!(すみません、拍手コメとお返事は一緒に、という事で!よろしくお願い致します!)
2018/06/20(水) 07:08 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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