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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・27~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 大切な薫の一大事と聞き、木下章太郎がすぐに駆けつけた。だが僅かな時間しか《イゾルデ》を抜けられず、薫は章太郎の仕事が終わるまで預かる事になった。三木くんは箱根に出張中、山下くんは《サラダボックス》の件で忙しく、章太郎の交代要員がいなかったのだ。

「薫は真っ直ぐ家に帰ったと思ってたんですけど?」

ベッドに寝かせた薫の髪を撫で上げながら、章太郎は不機嫌そうに俺を見上げた。

「俺が引き止めたわけじゃないからな?」

この歳になったら自己責任でしょう?章ちゃん。会社の飲み会とかどうしてるんだよ?

「飲ませないでくださいと、言いましたよね?」

完全に言いがかりだが、2杯目でストップを掛けられなかった俺も悪いか。

「ああ、悪い。薫は小鳥居が来たから戻って来たんだよ」

「はあ?」

「薫から聞いていないのか?昨日の一件」

「小鳥居の件ね。聞いてますよ。朝からご立腹でしたから。全く、輝也の事となったらお節介なんだから」

っていうか、朝から薫に報告したのかよ、輝也。章太郎は優しく薫の頬に触れた。この世で一番壊れ易くて愛おしいものに触れる手付きだ。

俺がいなけりゃ、抱き締めて離れなさそうだ。

「薫ちゃんはテルの『お兄ちゃん』ですから」

薫と輝也、まあちゃんの間には俺や章太郎にも踏み込めないものがあるのだ。

「薫には飲ませないでくださいと、何度も言いましたよね?」

また言ってる。しつこいぞ、章太郎。

「ああ、ごめん!薫が飲むと言うから」

「薫が言ってもノンアルで良かったんじゃないですか?ノンアルでもアルコール入ってると言われればその気になって酔っちゃうとか言うじゃないですか?どうせ面白がって飲ませたんでしょう?」

どっちにしろ俺は説教かよ?

「そんな事はないぞ。俺も説教されたいわけじゃないからな?それに飲む前に俺はコーヒーで説教されてるんだぞ?章ちゃんこそ、束縛し過ぎじゃないの?」

「俺がですか?」

イラッとしたのか、章太郎の声のトーンがグーンと下がった。

「ああ」

「束縛してますかね?俺はそんなつもりはないんですけど?」

「独立しろと、毎日言ってるらしいじゃないか?」

「ああ、その事。どうせ『S-five』関連だけの税務を受け持つわけですから、今年度一杯勤務すれば十分でしょう?今の勤務先には、一人前になるまで修行させてくれと言ってるわけだし。あっちも薫には期待はしていないんですから」

薫が税理士として独立しても身内の仕事だけを請け負うわけだ。他所の仕事をやるわけではない。だったら半人前でも良いじゃないか、と章太郎は言いたいのだ。

「そんな元も子もない話しを薫にするなよ」

薫の言う『面倒臭い』の原因はここか。

「でも、薫は最低でも5年は勤務するつもりなんですよ」

「薫が必要だと感じたんだよ」

「2、3年の約束だったはず」

「最初はそのつもりでも、実際に仕事をしてみたらそれでは足りないと感じたんじゃないのか?」

「まあ、そうなんですが」

「薫は完全主義とまではいかないが、自分が納得するまでは独立しないぞ」

薫の自尊心は高い。不完全な自分には満足しないだろう。自分が半人前だと感じるうちは、独立するとは言わないだろうな。

「心配なんですよ」

「誰にも盗られやしないよ」

「わかってるんですけど」

愛おしそうに薫の顔を見ていた章太郎が顔を上げた。

「散々説教されて、いい気味だ」

「はーい!すみませんでした~!」

 章太郎はプリプリしながら店に戻った。薫は朝まで目覚めないだろう。薫の寝顔を見ながら、俺は一番大切な事をしようとしている。輝也に電話だ。

「お前の所為だからな?」

頬を抓んだが、薫はビクともしない。

「でも、ありがとう。小鳥居が来たからわざわざ戻ってきてくれたんだな」

また今夜、俺が同じ事を繰り返さないように。

「薫、俺の心臓は超合金かもしれないけど、胃は繊細なガラス製だぞ?」

俺は抓まれてほんのりと赤くなった頬を、そーっと撫でた。初めて彼らに会った時の、不思議な感情がよみがえってくる。何とも哀れな環境に居た彼らだったが、不思議な事にいつも笑顔だった。

まあちゃんのぶっ飛んだ感覚が影響していたのかもしれない。どん底の生活から、いつかは自由になれるという希望が見えていたのかもしれない。

もし彼らが暗い瞳で俯いていたら、俺は輝也には触れなかっただろう。


 輝也の携帯番号を呼び出して鳴らす。その瞬間から超合金の心臓が激しく鼓動を始め、ガラスの胃はキューッと縮み上がった。ツゥルルルッという軽快な音が耳に響いてくる。

輝也が出たら何と言おうか考えたが、一番シンプルな言葉しか思い浮かばない。

『はい』

「テル?」

『うん。お疲れさまです』

輝也の声が堅い。輝也も緊張しているようだ。

「もう寝てたの?」

『まだだよ。今日はおばあちゃんの家でご飯を食べたんだ。今、部屋に戻ったところ』

「そう。あのな。今朝の事だけど」

『・・・ああ、うん』

輝也も話しの内容は予測出来ていたのだろう。小さな溜息が聞こえた。

「誤解だからな?」

『ああ、うん』

「小鳥居とは何にもないからな?」

『うん』

「言い訳にしか聞こえないとは思うけど、裸だったけどマジで何もないからな?」

『・・・それは、言わなくても良かったんじゃ・・・』

呆れたような言い方。

「まあ、そうだけど!でも何もないからな!」

『・・・ん・・・わかってるんだけど』

「ごめん!」

『うん・・・わかってるんだけど。ずっと前の事、思い出して・・・その』

「誰の足だかわからないが、見た事は忘れてくれ」

『忘れられないんだけど・・・』

何年も前の一瞬の記憶が、どうしても脳裏に焼き付いて離れないのはわかる。それは美味かった記憶だったり、悲しかった記憶だったり、辛かった記憶だったり。それぞれの場面が大した事のない日常の一場面であっても、その日の輝也にとってはその記憶がトラウマのようなものになったのだろう。

「ごめん、ごめん、ごめん!これからは毎晩、俺を迎えに来て!絶対に部屋で一緒に寝るから!」

『・・・うん』

「もう絶対にここには泊まらないから!ベッドは処分する!な?」

『うん』

「明日には引き取りにきてもらうから」

『はい』

言葉少なだったが、輝也は最後に「目覚まし時計、遠くに置いてごめんね」と言ってくれた。

目覚まし時計を遠くに置いたのは、嫌味じゃなくて俺が遅刻しないようにだ。わかってるんだけど、「嫌味だ」と感じてしまうのは俺にもわだかまりがあったからだ。俺と小鳥居とのことを誤解したわけではなく、俺が輝也のキズを広げてしまったのが原因だったのだから。


 店に戻ると、カウンターの常連客とも打ち解けた様子の小鳥居がまだいた。

「まだいたの?」

カンタが目立たないように俺の足を蹴る。

「いっ、たっ」

「はい。清川くんは大丈夫ですか?」

「ああ、悪かったな。あいつ、飲み過ぎるとああなの」

「そう。説教魔になるんだ」

「とても清楚で綺麗な人ですね」

「章太郎の前でそれを言うなよ」

「どうしてですか?褒めてるのに?」

「あいつには褒め言葉には聞こえないんだよ。あいつの耳の中では口説いてるように変換されるから。ハグもしない方がいい」

「へえ・・・嫉妬深い方なんですね、木下店長は」

「嫉妬の塊」

「そう。今も目を三角に吊り上げて、『飲ませないでくださいって言いましたよね?』って叱られました」

俺は章太郎の真似をして、指で両目の目尻を吊り上げてみせた。

「へえ・・・。木下店長はいつもキリッとしておられるのに、恋人にはメロメロなんですね」

「・・・まあ」

小鳥居の口から「メロメロ」とか出てくるとは、思い掛けなかった。

「お前さ、うちに来て1年以上経つのにスタッフの情報、もってないんだね」

「ええ」

「まっ、お前の情報もないけどな」

「そうですか?」

「ない。あの黒川でさえも知らないと言うからな」

「はあ・・・」

「まあ、いいか。うちだけじゃなくてさ、今度は《325》とか《トリスタン》にも顔を出せよ。どうせ飯を食うだろ?」

「はい、わかりました」

小鳥居はその後、常連客とも和やかに話し、大型オカマの華恵に散々絡まれながらも閉店まで《SUZAKU》に居座った。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

梅雨ですね。梅雨ですwww雨です、雨。一年の半分が終わろうとしている恐怖www

PS、昨日の記事(26話)にコメントくださいましたのんちゃんさま、コメント欄と拍手コメントとほぼ同じ内容のコメントがありましたのでレスは一つにさせて頂きました!すみませんっ!

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コメント
拍手鍵コメ・Nさま~いらっしゃいませ♪
拍手鍵コメ・Nさま、わざわざお返事ありがとうございます!!

拍手コメのお返事を拍手コメントの所で書いてしまうと、もう一度拍手を押してレスを読んで頂く事になります。何度も拍手を押して頂くことになりますので申し訳なくて、日高は拍手コメントのお返事はコメント欄で書かせてもらってます。混乱させてしまってすみませんでした!!

それから、ヒソヒソありがとうございました!早速修正しましたよ~♪

例のベッドは処分して、ごめんねコールもしたし!圭介的にはこれで胃もよくなるはず!

明日からバリバリ仕事するよん(笑)←信用出来るのか?

拍手&コメントありがとうございました!
2018/06/21(木) 06:50 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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