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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・28~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 薫は一度も目を覚まさなかったようだ。章太郎が迎えに来て薫を車に乗せるのを手伝ったが、お姫さま抱っこされた時にパチッと目を開けた。パアッと花が開いたかのような目覚めだったが、薫はすぐに章太郎に気が付き再び目を閉じた。

 そして小鳥居は、今日も閉店までカウンターにいた。「帰れ」とも言えないし。華恵に「連れて行ってくれ」と頼みたい気分だったが、その先を考えるとさすがに気の毒になり止めた。

「帰らないのか?」

スタッフが閉店の準備を始めると、小鳥居は当然のようにジャケットを脱ぎ荷物と一緒に事務所に置いた。

「片付け、手伝いますよ」

「いいよ」

「どうせ帰っても暇ですから」

いや、明日も仕事だから寝ろって。

「今日もタクシー代をあてにしてるんだったら甘いぞ」

「あははっ」

小鳥居は何が可笑しかったのか声を立てて笑った。

「・・・えっ?」

「小鳥居って、笑うんだ」

「・・・俺、初めて笑い声を聞いた気がする」

カンタとベニちゃんは無遠慮な事この上ない、ってくらいの言い方をした。小鳥居は照れ臭くなったのか、急に笑いを引っ込めて真面目な顔に戻る。

そして口の悪いカンタたちに気を悪くするでもなく、「俺だって笑いますよ」と真面目に答えた。

「カンタ、小鳥居に座布団2枚やって」

「はい」

カンタは座布団の代わりにベニちゃんが持っていた箒を小鳥居に渡した。

「はい。後はよろしくね」

「はい」

小鳥居はベニちゃんの代わりに店の中を掃きはじめた。ベニちゃんは、「朝から『滝山クリーン』が入るんで簡単にやってください!それと客席の忘れ物のチェックをお願いします」と指示し、ちゃっかりと自分の仕事を押し付けた。

俺はレジの金を集計して、あと10分でここを出ると決めた。

「圭介さん、良いんですか?」

「何が?」

「小鳥居ですよ」

テーブルの上に椅子を上げて掃除する小鳥居を差して、カンタが心配そうに言った。

「好きでやってんじゃないの?黒川だって気が向けば中に入ってシェイカー振ったり、接客するだろ?あれと同じじゃないの?」

「でも」

「やらせておけよ。何となくさ、わかってきたんだよ」

「何が?」

「小鳥居の扱い方が」

するとカンタは目を丸くして聞いた。

「・・・裸のお付き合いしたからですか?」

「俺は酔っ払ってて、小鳥居の裸は見てないし」

「でも小鳥居は圭介さんの裸を見たんでしょう?」

「多分な」

「拙くないですか?」

「どう拙い?」

「テルですよ」

「テルには謝ったし」

「テルも甘いな」

「いいの!テルは俺にだけはチョコレートの一万倍甘いんだから」

「そうですか。じゃあ、今夜は俺たちと一緒にここを出ますよ?」

「おう」

小鳥居のおかげで後片付けも早く終わり、10分後、俺たちは店を出た。


「ベッドは本当に捨てるんですか?」

「ああ。元々捨てようと思ってたんだけど、後回しにしてたからな」

『滝山クリーン』にはファックスしておいたから、出勤した時にはベッドは消えているはずだ。あれがあると、どうもついついここで一眠りしちゃおう、と考えてしまうのだ。

「ねっ!圭介さん!ベッドがあった所に何を置くの?」

「何も置かない」

「えーっ!俺、マッサージチェアとかリラクゼーション的な物希望!」

ベニちゃんは夜中だというのに元気良く手を上げて希望を述べた。

「じゃ、俺はサウナ」

カンタ、いい加減にしろ。

「勝手に言ってろ」

「俺は」

ここで解散、と思ったらなぜか小鳥居が手を上げた。

「えっ?」

俺の「えっ?」を聞き、小鳥居は「は?」という顔をしていた。自分も言っていいんでしょう?的な。

「俺も」

小鳥居の手は上がったままだ。言う気満々の小鳥居をカンタは物珍しそうに見ている。ベニちゃんは何を言うのかとワクワクしていた。

「おう。小鳥居も言ってみろ」

「酸素カプセル希望です」

「お前、カンタより現実的でベニちゃんよりも夢があるな」

「じゃ、俺も小鳥居さんの夢に乗っかる!マッサージチェアよりもカッコいいし、リラクゼーション効果がありそう」

ベニちゃんは「賛成!賛成!」と、ピョンピョンしながら言った。お前、「リラクゼーション」の意味がわかって言っているのか?

「じゃ、俺も酸素カプセルに一票」

「カンタもかよ?」

「いいじゃないですか?圭介さんのポケットマネーでよろしく!」

「俺か?信吾さん、買ってくれないかな?」

「全店に設置ですか?」

それはないな。山下くんの鬼のような顔を俺は見たくない。俺は、彼にはいつでも優しい、爽やかな山下くんでいて欲しいのだ。

「いいね!店長、酔っ払ってカプセルの中で寝ないでよ?」

「アホか。まだ買うとは言ってません」

「俺、仕事が終わったら、毎日来ますね」

小鳥居の「私」がいつの間にか「俺」に変化していた。すっかり「仲間」みたいじゃないか?

「うちのスタッフでもないくせに、図々しいな」

「手伝いますから。酸素カプセル、よろしくお願いします」

「・・・おう」

流れで話しが酸素カプセル設置の方向に向かってしまったが、それもいいかな、と思えてしまう。小鳥居に懐かれて大出費するのは俺、って所が腑に落ちないけどね。


「あーっ、腹減った」

珍しくカンタが腹を擦った。いつもなら話しの区切りのいい所で「お疲れさまでした」と帰るのに、今日は「店長、何か食わせろ」オーラを発している。

「何か食うか?帰ってもテルはいないし、付き合うぞ」

「行きましょう。小さな店ですけど、朝方まで開いてる所があるんで。飲んだ帰りに寄る人も多い店ですから、圭介さんの繊細な胃に優しいメニューがありますよ」

「じゃ、決定。小鳥居、どうする」

返事は聞くまでもないと思ったが、一応小鳥居を振り返って聞いた。

「行きます」

今一つ表情が読み難いが、今夜の小鳥居は非常にフレンドリーだ。

 小鳥居は俺とカンタの後ろから大人しく付いてくる。小さな飲み屋やスナック、バーが建ち並ぶ横丁の奥の店は、小料理屋と居酒屋の間のような感じ。

メニューの中に雑炊を見つけて注文し、カンタと小鳥居はビールで乾杯した。俺は渋く梅昆布茶だ。

「まだ胃は痛むんですか?」

「痛いというか、キューッとなったりシクシクしたり。腹が減ると余計におかしい時もある。山下くんお勧めの胃薬は飲んでるんだけど」

「それよりも、早く病院に行った方が良いですよ」

「うーん。わかってんだけど。俺さ、《有明の月》を抜けてからの方が忙しいんだよね」

三木くんは明日まで箱根に出張。山下くんは《サラダボックス・B》に掛かりっきり。さっさと黒川に丸投げして欲しいよ。

「昨日、服を脱ぎながら胃の調子がおかしいんだ、とおっしゃってましたね」

「あれだけ飲めば胃は荒れますって。胃だけなら良いけど、肝臓やられますよ」

カンタは俺の袖を引き小声で言った。

「今夜は飲ませませんからね。休肝日」

「わかってるよ。店でも飲んでないだろ」

温かい梅昆布茶を啜り雑炊を口に運ぶ可愛らしい俺を見て、カンタは「よしよし」と言いながら頷いた。
 
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