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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・30~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 手回しの良いベニちゃんは、酸素カプセルやら肩専用、足専用のマッサージ器のパンフレットを入手していた。それから「店長、これが良いと思うよ」と言って渡されたのは、マッサージチェアのパンフレットだ。大型家電量販店まで行き、色々試してきたそうだ。

買う気満々じゃないか。

ここは長いこと俺が大切にしてきた店だ。ここを引き継いでくれる彼らへの置き土産として、買っても良いかな・・・。


 《SUZAKU》の開店時間と、輝也が知らせてきた帰宅予定時間は同じ。

優しい三木くんが伊織くんよりも先に輝也を送り届けてくれるに違いない。いや、伊織くんをここで降ろせばしーちゃんも喜ぶじゃないか。と期待しつつ店を開けた。

「今、何時?」

カンタは持っていたマドラーでカウンターをタンタンと叩き、そのマドラーで壁の時計を指した。

「店を開けてたったの5分しか経ってませんが」

いえ、わかってますよ。わかってますけど聞きたかったんですよ。

「あっそ。今日は時間が経つのが遅いね」

「いつもと同じですけど?」

それもわかってる。毎日違う速度で時間が流れていたら大変だろうが。

「そうか?」

カンタには俺が時間を気にしている理由がわかっているから、全く相手にしてくれない。

「はあっ」

わざと大きな溜息を吐くと、入り口付近にいたベニちゃんが大きな声で言った。

「テル、遅いなあ」

「ベニちゃん、お前さんが言う台詞じゃない」

「店長の心の声を代弁したんです~ぅ」

「そりゃどうも」

「18時に到着予定」とメッセージがあったのに到着しないという事は、伊織くんを先に降ろしてるに違いない。それとも渋滞にはまったか?電話してみようかな?

「テルより先に小鳥居が来たりして!」

「カンタ、冗談は程々にしてくれ」

「あははっ」

いや、あり得るな。

そうだ。箱根から戻って来たからって、あの三木くんが直帰するとは思えない。先に本社に寄って報告書を出す、とか言うかもしれない。それから、となれば輝也の帰宅時間は確実に2時間遅くなる。

そう考えると、胃が痛む。キューッと縮み上がったようになったり、差し込むような痛みがあったり。そっとみぞおちの辺りを擦った。

輝也が来たらすぐに早退して、ベッドの上で優しく胃を撫でてもらおう。あっ、でも、鬼軍曹がすっ飛んできて部屋から引きずり出されるかもな。

「俺、電話してみようかな」

電話して声を聞けば、胃の痛みも治まるかもしれないじゃないか。

「圭介さん、余裕を持ちませんか?」

「余裕ね」

全くないんだけど・・・と思いながらカンタを睨み、俺は明日、《SUZAKU》の件を山下くんに報告する為にパソコンで自分のスケジュールを書き換えた。


 週末とあって店には客が入り始めたが1時間経っても輝也は現れず、このままでは本当に小鳥居の方が先に来てしまう。

いや、まあ、小鳥居の「昨日も来ます」はお愛想で、来ないかもしれないけどね。

 三木くんが先に帰宅したいから、輝也に報告書を書かせているに違いない、週末だから渋滞しているのだろう、そう考えながら気を紛らわせていたが2時間が経つ。

胃全体をキューッと絞られているような感じがして、俺はみぞおちの辺りを擦った。擦っても痛みは治まらないし症状は変わらないが、擦らずにはいられなかったのだ。

「圭介さん?顔色、悪いですよ?」

「ああ・・・カンタ」

「元々色白だけど、変ですよ?」

「カンタ、俺、胃が変だ」

胃の部分だけ掴み出して放りたいような気分だ。「仮病ですか?」と、ベニちゃんが聞いた。おい、ベニちゃん。今、カンタが「顔色が悪い」と言ったじゃないか?

やっぱり、しーちゃんの方が優しいし、気が利いてて思いやりがある。ベニちゃんのおでこにデコピンを食らわせたいが、手が出ない。片手をシンクに付かないと、立っていられないくらい痛みが酷くなっていたのだ。

「いえ・・・マジな方です。ベニちゃん」

「山下店長に電話しますけど?」

チビ軍曹・ベニちゃんは、俺の胃なんかどうでもいいんだな。マッサージチェアは却下だからな。

「してもいいけど、マジで変。っていうか・・・呼んでくれ、山下くん」

ベニちゃんはニヤニヤしながら言った。

「テルが来たら一発で解消しちゃうレベルでしょう?どうせ」

「・・・テルでも、無理、かな」

シンクに付いていた手に力が入らなくなった。

「えっ?」

「ごめん、も、無理」

隣にいたカンタの腕が俺の腰に回ったから倒れずに済んだが、俺はその場に座り込んでしまった。キューッとなっていたのがギューッに変わって、胃が捻じ切られそうなくらいに絞り上げられている感じがする。


 立ち上がる事が出来ないくらい胃が痛かった。カウンターにいた客には、カンタが「何でもないですよ」と言って、カウンターの中で探し物をしているふりをした。

漸く仮病ではないと気付いたベニちゃんが「救急車」と言うのをカンタが止め、俺をそっと事務所に入らせてくれた。

「客は気が付いたか?」

事務所に入ってドアを閉めた瞬間、膝から力が抜けた。カンタに支えられてソファーに座ったが、強烈な痛みは治まらない。

誰かに胃を捉まれてる感じ。そのまま持ってってくれよ。そうしたら楽になりそう。

「大丈夫ですよ。今、鶴ちゃんが山下店長に連絡してます」

「そう」

「ベッドを撤去した日に必要になるなんて!」と、カンタが慌てていた。

「あははっ、やっぱ、あれ、要るのか?」

ソファーに横になったが、ギューッと絞られるような感覚は消えない。

「痛たたたっ」

「早く病院に行けばよかったんですよ!」

「暇なくて・・・マジで痛い」

「それは言い訳!面倒臭がりなんだから!」

擦ってもキリキリした痛みはとれない。時々ギューッと、雑巾のように絞られる。あーっ、もう・・・脂汗が出てきた。

 カンタが冷たいおしぼりをくれて、俺はそれで歪んでいる顔を隠した。鶴ちゃんが事務所に入って来た。

「山下店長がすぐにおいでになりますから!今、小鳥居店長がお見えになってヘルプに入ってくださるそうです」

「っ・・・悪いな。カンタ、店、戻っていいぞ。もうすぐ、山下くんが来てくれるから」

「テルは遅いですね」

「うん、ここで待つから。痛ったぁ・・・大丈夫」

鶴ちゃんが心配そうに顔を覗き込んだ。

「大丈夫ですか?薬で良くなるレベルじゃないですよね?」

「大丈夫、だよ」

山下くんの薬では治まりそうにない。山下くんに言われた時に病院に行けばよかったな。

「マジで救急車呼びますか?」

「それだけはダメだ。俺はいいから、店、頼む」

「じゃ、戻りますからね」

「うん。ごめん」

カンタと鶴ちゃんは心配そうに何度も振り返りながらドアを閉めた。大好きなはずの店のざわめきが、耳障りな雑音にしかならない。


「圭介くん!大丈夫かい?」

「・・・んっ」

聞き慣れた山下くんの声。輝也じゃないのがちょっと悲しい。

「歩ける?片岡先生が診てくださるそうだよ、行こう」

「肩、貸して」

胃を擦りながら起き上がって、山下くんと綱本さんに肩を借りて車まで歩いた。この時はもう、身体を横にしても縦にしても、何をしても胃は絞られるように痛くて、単語しか出なくて・・・。

「死ぬ、かも」

「バカな事を言わないでよ。死なないから」

「でも、痛い」

「ちゃんと病院に行かないからだよ」

「ご、め・・・っ」

「秀人、急げって!」

珍しく山下くんの声が焦っていた。

「これでも法定速度を軽くオーバーしてるんだぞ。黙って任せなさい」

「俺が運転するから、代われ」

「任せろと言ってるだろう。君は黙っていなさい」

前の座席で始まった夫婦喧嘩を聞きながら、輝也に会いたくて堪らなかった。
 
*****

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コメント
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018/06/28(木) 00:05 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Eさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Eさま~いらっしゃいませ♪

圭介好き過ぎて重病希望(笑)..・ヾ(。 ̄□ ̄)ツ ギャァ!!おかしすぎますよ~(笑)
やはり皆さまこういう展開がお好き?

胃痛は同調しないでくださいよ~日高も先日えらい目にあいましたwww

コメントありがとうございました!
2018/06/28(木) 06:57 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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