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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

しっかりしてよ、花岡くん。3

 ヒロオミさんは僕の《インカローズ》異動が決まってから、ずーーーっと機嫌が悪いのだ。

僕に《インカローズ》への異動の内示が出て、会議があって、ヒロオミさんだけが反対した。信吾社長や圭介さん、三木店長たちは一生懸命に説得してくれたけど、ヒロオミさんは首を縦には振らなかった。

みんなが困っていたけど、山下店長だけは全く困ってなくて「放っておけばいいさ」と涼しい顔をしていた。山下店長は「俺に任せて」と言って、いつもの態度を崩さなかった。

ヒロオミさんの決裁印の所は空白のまま話しは進んで、とうとう山下店長とヒロオミさんはケンカになった。殴り合いのケンカとかではないけれど、《白夜》で言い合いになって、それ以後2人に会話はない。

それはそれで僕的には良いんだけど、三木店長は「冷戦だな」と言った。

お互いに口をきかなくなって、顔を合わせてもヒロオミさんは挨拶もしない。ヒロオミさんは山下店長の事を完全に無視したのだ。

 ヒロオミさんは店長会議にも出なくなった。周りの「勘弁してよ~!」の声を無視した山下店長の『ヒロはどこかへ旅に出ました』的設定の下、《インカローズ》の開店の日は近付き、信吾社長が音を上げた。

「もう、いい加減にしてくれないかな!?」と、2人を呼んで話し合いの場を持ってくれたのだ。

結局、その場でヒロオミさんは決裁印を押したんだけど、「勝手に話しを進めた」と憤るヒロオミさんに対して、山下店長は「俺は悪くない。多数決だし、ちゃんと会議に出て来ないヒロが悪い」と言って一歩も引かなかった。

山下店長がこんなふうに頑なになるのは珍しい、と三木店長が言っていた。それは互いに「ヒロ」「アキ」と呼び合う2人にだけ通じる何かがそうさせるのだろう、と僕は思っている。

それ以来、ヒロオミさんは山下店長の事を『アキ』とは呼ばない。まあ、それはそれで僕は良いんだけどね。


 《白夜》と《インカローズ》は向かい合わせに建っているのに、改装工事に入ってからヒロオミさんは一度も《インカローズ》に来ていない。

僕は先月まで《白夜》で勤務していたけれど、6月からは《インカローズ》に異動した。初めて『辞令』というものをもらって、一番にヒロオミさんに見せたけど無視された。

日報の書き方とか、売り上げ報告の仕方とか、わかんない事がたくさんあって、ヒロオミさんに聞いたら「山下に聞け」としか言わないし。

僕が家に帰って「疲れた」と言っても、「仕事をしてるんだから、疲れるのは当たり前だ」と冷たく言われるのだ。いつもなら優しく肩を揉んでくれたり、足を揉んでくれたりするのに。

おかげで通販で買ったマッサージ器が役に立ってるんだけどね。マッサージ器で足をモミモミしながら深夜の通販番組を観ちゃった所為で、"元気一発爽快生活っ"ていうサプリメントと美味しそうなキムチを買ってしまったじゃないか。

山下店長のおかげで僕たちの関係もギクシャクしているのだ。


「なあ、高田店長は相変わらずなのか?」

「うん、今日も来てくれない」

「そうか。でもさ、決裁印を押してくれたって事は『認めました』、って事だろ?」

「まあ・・・そうなんだけど」

そういう事だ、と思っているのが一番だと思う。でもヒロオミさんが納得して、判を押したわけじゃないのだ。

「山下店長がなんとかしてくれるよ!」

「山下店長に何とかしてもらうのも、僕としては複雑なんですけど」

そう言うと、輝也は立ち上がった。

「・・・ちょっと行ってくる」

「どこに?」

「《白夜》に挨拶だよ」

「行くの?」

「ああ。当然じゃないか?目の前なんだから、こっちが忙しくなる前に挨拶してくる」

輝也は「三木店長の一番弟子」と言われているだけあって、ちゃんと《インカローズ》と《白夜》のスタッフへの差し入れも準備していた。

 輝也を見送って僕は大きな溜息を吐いた。

「あーあ」

僕は、ヒロオミさんと僕が楽しい老後を過ごせるように頑張ってるだけなんだけどな。


 オープンの時間は午後19時だ。夕陽が傾き始めて空気の色がほんのりとオレンジ色に変わり始めた頃、《インカローズ》はオープンした。

最初のお客さまは、当然のような顔をしてやって来た元オーナーだった。

「まあちゃん、おめでとう」

「ありがとうございます。オーナー、素敵なお花をありがとう!」

「まあちゃんが好きなピンク色の花ばかりだよ、綺麗だろう?」

「はいっ!こっちに座ってね!」

元オーナーと腕を組んで店の中に入ると、三木店長がキャストの中から元オーナーが好みそうな男の子を選んで席に付けた。僕はオーナーの前に座って、改めて名刺を渡してご挨拶した。

「店長の花岡真樹です。よろしくお願いします!」

「あのまあちゃんが立派になって」

「当たり前でしょう?僕のお店なんだから!」

「あははっ。僕のお店、か。そのつもりでバリバリ稼ぐといいよ」

「はーい」

元オーナーはお祝いにシャンパンを2本開けてくれた。

 それから次々に招待状を渡したお客さまがおいでになって、面白いように高級シャンパンが「ご祝儀」と言って出て行く。踊りのおじいちゃんは人間国宝なのに僕のお膝でゴロンとするのが大好きだったけど、それは今でも変わらないらしい。

「まあちゃんに膝枕して欲しい」とリクエストされたけど断ったら、「明日から10日続けて遊びにきたらね」と約束させられてしまった。

「うーん。おじいちゃん、ここは健全なお店なんだからね?」

「膝枕だけならいいだろう?健全だよ?」

「うーん」

「1回だけ!おじいちゃんはおじいちゃんだから、いつあの世に逝くかわからないんだぞ?」

おじいちゃんはつるつるのハゲ頭を撫で回しながら言った。

「そうだな・・・じゃ、1回だけだよ?」

「よーし!約束だからな?」

「ちゃんと10日間通ってよ?」

僕は、毎日シャンパンを2本とフルーツの盛り合わせをおじいちゃんに注文させるとして、10日でいくらの売り上げになるかを計算してニンマリした。

「絶対だ」

「うん」

本当は健全な店だからそういうのは"なし"なんだけどな。

 「休憩をどうぞ」と言われて事務所に行くと、三木店長が紅茶を淹れて待っていた。三木店長の差し入れはケーキだ。一体何個あるんだろう。ケーキバイキングみたいに並べてあって、休憩時間に好きなだけ食べていい事になっている。

僕はガトーショコラと苺のショートケーキを選んでソファーに座った。

「お疲れさま」

「ありがとう!三木店長、ケーキ美味しいね」

「そうかい?ところで花岡店長」

「・・・はい?」

三木店長が『まあちゃん』ではなく、『花岡店長』と呼んでくれたのは初めてだった。今日の打ち合わせの時も『まあちゃん』だったのに。

「嘉承さんの件だけど」

「カジョウさん」というのは人間国宝の踊りのおじいちゃんの事だ。

「はい?」

「膝枕は良くないね」

「・・・あっ」

「他のキャストが約束したのならわかるが、君が約束するのはおかしいよ」

「・・・ごめんなさい」

「トップが自ら規律を乱してどうする?前の店のキャストの中で客相手にウリをやっていた子は全員辞めてもらったが、まだ他にもいるかもしれない。君が膝枕を許せば、他の者がどう思うか考えながら仕事をしないとね」

そうだった。前の《インカローズ》には暗黙の了解があって、「アフター」と言えば「ホテルに行く」という意味だった。元オーナーはそれには目を瞑っていて、みんな小遣い稼ぎに「アフター」していた。そっちが本業になっているキャストには辞めてもらったけど、本当に小遣い稼ぎで「アフター」していた子もいるはずだ。

そういう子が「膝枕」をどう思うか、僕は考えなければならなかったのだ。

「・・・ごめんなさい。おじいちゃんには断ります」

「それがいいね。嘉承さんは話せばわかってくださるからね」

「はい」

「しっかりしてよ、花岡店長」

「はい」

ションボリした僕に、三木店長は優しい。

「閉店までまだまだだよ?ケーキはたくさんあるからね?食べて元気になってくれよ?」

「はい」

三木店長は僕の肩を軽く叩いてニコリとした。

「膝枕なしでも10日連続で通って頂けるような楽しい店になるといいね」

「はいっ!」

とても、とても優しい目。三木店長は僕が、「健全な店にする」と宣言したから注意してくれたんだね。

「『うん』ではなく『はい』が言えたね。偉いね」

僕は立派な店長さんになって、ヒロオミさんに認めてもらうのだ。

「はいっ!」

僕はケーキを3個食べて、パンパンになったお腹を擦りながら再び戦場に向かった。

*****

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27日の夜、ブログの管理場面を見ていて驚いた。最近、一日で拍手が100を超えた事がなかったのに、昨日の記事は午後10時過ぎには「106」を超えていたのです。あら、ビックリ。

やはり、皆さん山場がお好き?圭介が唸ってるのが萌えた?←違う

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