『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・31~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

「毎年、健康診断の時にしか顔を出さない圭介がねえ」

机の上の画面に映っているのは俺の胃だ。片岡先生はニコニコしながら、俺の胃の状態を山下くんに説明している。

「健康診断以外、用はないから」

「飲んでるわりには肝臓は丈夫で数値も悪くなかったんだが。まさかの胃だよ」

「健康診断で見落としてるんじゃないの?」

「あははっ。そうかもね」

「絶対にそうだ」

病院に着いて、すぐに痛み止めの注射を打ってもらった。すでに一般の診療時間は終わり、病院の廊下は照明が落とされて薄暗い。

「お前さ、ホント可愛くないよな」

「昔っからだし」

「信吾の言う事しか聞かないし」

「当たり前だし」

信吾さんの友人・片岡先生には、創業当時から『S-five』社員の健康診断をお任せしている。信吾さんと片岡先生は星望幼稚園から、俺と先生とは星望学園大学時代からの知り合いだ。

「圭介くん!ちゃんとお礼を言わないと!」

「大丈夫だよ。どうせこの人、後で信吾さんに高額請求するんだから」

「相変わらずの減らず口だな。痛み止めの注射、打ってやらなければ良かったな」

「わざわざ来てやったのに、良くならなかったら問題でしょ?もう帰って良い?」

片岡先生と山下くんは呆れ顔で俺を見た。山下くんは「申し訳ございません」と頭を下げたが、片岡先生は笑顔だ。注射を打ったからと言って、一瞬で痛みが消えるわけではない。まだ痛むのだ。

俺は胃を擦りながら、「ヤブ医者め」と呟いた。

「圭介くん!」

「部屋が空いてるから入院しろ」

はあ?入院なんかしてられるか。今夜こそは輝也と裸で抱き合って寝るんだから。

「親切なお医者さまですこと」

「他ならぬ圭介だからな」

「ありがと。でも、残念ながら先生の痛み止めよりも効く薬があるんで」

「減らず口を治す薬がなかったかな?」

「申し訳ございません」と頭を下げる山下くんに、先生は笑いながら「まあ、まあ」と言いながらパソコンをいじっている。

「入院でお願い致します」

「山下くん!俺は帰るからね!」

「ダメです!」

山下くんがキッと睨んだ。鬼軍曹はお怒りだ。

 まさに「七転八倒」という言葉がピッタリと当てはまる。車に乗ってここに着くまで、俺は唸り声しか出なかった。山下くんと綱本さんの言い合いが煩くて、「静かにしてよ」と言いたいが、その短い言葉が出ないくらいの痛み。

いつも冷静で少々の事では動じない2人がそれくらいの事に気付けないなんて、相当動揺していた、って事だな。

山下くんの「着いたよ」の声が遠くに聞こえた。2人に抱えられるようにして病院に入り、片岡先生の顔が見えた瞬間に「助かった」と思ったのは本当だ。

だが、片岡先生とは信吾さんと同じくらい付き合いが長くて、会うとついついこうなってしまう。

「今日の所は助かりました。ありがとう」

「圭介くん!たったそれだけかい?もう少しきちんと感謝の気持ちを示さないか?」

「これで十分だよ。ちゃんと金は払うんだし」

「君って人は、全く!」

「君が、俺の倍以上言ってるじゃないか」

「山下くん、いいよ。圭介からこれを取ったら何も残らないから。それより、いつも一緒にいる若いツバメはどうした?」

「テルが帰って来ないから胃が痛くなったんだよ」

「逃げられたか?」

「逃がしませんけど。もしそうなったら、今頃ここには居ません。東京湾にダイブしてる」

「あははっ」

「彼は三木くんと一緒に箱根に出張してたんですよ。トレーラーと大型バスが絡む事故がありまして、渋滞にはまってしまったようです」

「そういえば、ニュースでやってたな」

「やっぱりね。渋滞だと思った」

山下くんが「黙れ」とばかりに俺の肩を叩いた。

「近くにインターがなくて、高速から降りられなかったらしいです。もうここに着いてると思いますよ」

「だったら早く支払いしよう!」

横になっていたベッドから勢い良く起き上がった。注射のおかげでのた打ち回るような痛みは嘘のように消えた。いわゆる胃痙攣という症状だった。

「待て、圭介!しばらくはタバコも酒も禁止だからな。油っこい食べ物も控えるように。規則正しい生活を心掛けて」

「わかりました~!」

「ついでに血液検査をしてるからね。明日、胃カメラもやっとこう」

「えーっ!胃カメラ!?」

「圭介くん、ダメだよ。ちゃんと受けて」

山下くんが怖い顔をしている。

「・・・わかった。明日、何時?」

「今夜は食事はなしだからな。明日9時に胃カメラの予約を入れたから、一泊していけ」

「一泊!?嫌だ。帰る」

「今からだと、部屋に戻ってついついビール飲んじゃった、とか言いそうだから入院決定だ」

「それがいいですね。よろしくお願い致します」

「えーっ!」、という俺の抗議の声を無視して、山下くんは勝手に入院を決めた。

「帰る」

「ダメだ。入院しないと輝也くんには会わせないからね?」

「・・・鬼」

「検査しておけば安心じゃないか?それに検査が9時からなら、入院して管理してもらった方がいいよ」

「・・・」

「個室を準備したからツバメくんも一緒に泊まっていいぞ」

「・・・そういう事なら」

渋々入院を受け入れて、書類を入れたファイルを山下くんが受け取り診察室を出た。薄暗い廊下には3人の人影。輝也と綱本さん、三木くんだ。

「圭介さん!」

「テル!」

会いたかった輝也が飛びついてきた。

「大丈夫なの?」

輝也は遠慮しながらも俺をキュッと抱き締めた。ああ、輝也だ。特効薬が戻ってきた。

「うん、まだちょっと痛いかな?」

そう言うと、輝也は少しだけ力を弱めて身体を離そうとしたが、俺は離さなかった。身体を密着させていた方が早く良くなる。

「ごめんね!遅くなって!」

「全く!圭介くんには呆れるよ。検査入院だからね!」

山下くんはぷりぷりしながら、手続きの為に看護師に付いて行った。三木くんと綱本さんは、俺の様子を見てホッとしたような顔をした。

「倒れたと聞いて心配したよ、圭介くん!」

「ごめん、胃痙攣だって」

「回復されて何よりでした」

「綱本さんにはご迷惑をお掛けしました」

「とんでもない」

「もう、死ぬかと思った」

「途中から唸り声が聞こえてくるから、心配しましたよ。明利は『早く、早く』と急かすし」

「山下くんが焦ってるから、俺の痛みも増した」

「それくらい言えるようなら心配はないね」と、三木くんも安堵したように言った。

「俺は入院に必要な物を準備してこよう」

「あっ、俺が行きます!」

俺を抱き締めていた輝也が手を離して、三木くんの替わりに行こうとする。俺は輝也の背中に絡めた腕の力を込めて離さない。

「輝也は圭介くんの傍にいなさい。すぐに戻るから」

「大丈夫だよ!三木くんに任せようよ。彼、こういうの慣れてるから。お任せコースでOKだし」

「こういうのに慣れたくはないんだけど、君たちと付き合ってるとチョイチョイこういう事があるんだよね」

「ほら!本人もこう言ってるだろ?テルが行くよりも買い忘れがなくていいさ!それにたったの一泊の検査入院なんだから、何もなくたって不自由はしないよ」

「でも」

「三木くん、よろしくね!」

輝也がグズグズ言っている間に、三木くんは綱本さんに「1時間で戻ります。後はよろしく」と言い残して行ってしまった。


 5分程待っていると、さっきよりも書類が増えた山下くんが戻ってきた。

「お待たせ!準備が出来たから部屋に案内してもらおう」

痛みは治まりつつあった。《SUZAKU》のカウンターでしゃがみ込んだ時は胃が千切れるかと思ったが、痛み止めの効果は抜群で、今は痛みというよりも不快感に近い。

「テル、抱っこして」

「えっ?ここで?」

「輝也くん、甘やかすな。片岡先生相手に暴言を吐くくらい元気だから」

「暴言とは酷いな」

「歩けるだろう?」

山下くんは、「行くよ」と言って看護師の後に続いた。

*****

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こういう時は次から次へとお話が降りてきてしまうので困ります。新作にも着手してしまい、ヒーヒー言ってますwww

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2018/07/01(日) 17:57 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Mさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Mさま~いらっしゃいませ♪

お久し振りですね~お顔出してくださって嬉しいです~♪

圭介と輝也、皆さまに愛されて幸せです!可愛がってくださって、ありがとうございます!まあ、この二人は放っておいてもそのうちラブラブでしょう。

いつも読んでくださってありがとうございます。関東地方は梅雨明けしたようですが、日高さん地方にはもうすぐ台風がやってくるようです。梅雨明け、羨ましい~!!

暑くなりましたよね、Mさまもご自愛くださいませね!コメントありがとうございました!
2018/07/01(日) 23:35 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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