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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

しっかりしてよ、花岡くん。4

 プレオープンは大盛況だった。

『田原プロ』の田原社長は所属タレントを3人連れて来てくれたし、歌舞伎のおじちゃんは弟子を連れて来た。たくさんのお客さまに来て頂いて、初日の売り上げは目標を軽く上回った。

薫は章太郎さんと2人で来てくれた。章太郎さんは奮発してちょっと高いワインを注文してくれた。ただ、店のどのキャストよりも薫が綺麗だったから、本当は事務所でお茶でも飲んでて欲しかったよ。

多分、章太郎さんは薫を見せびらかしたかっただけだ。はっきり言って営業妨害だし。


「まあちゃん、今日は頑張ってくれてありがとう」

「社長!ありがとうございました!」

「うわっ・・・まあちゃんから『ありがとうございました』、と言われる日が来るなんて!」

信吾社長は笑いながら僕の事を軽くディスっていたけど、今日は許そう。プレオープンが無事に終わったんだから!

 三木店長や佐井寺店長にもちゃんとお礼を言って、最後に輝也に抱き付いた。

「輝也!ありがとう!」

「頑張ったね」

「うん、じゃなかった、はい!」

「明日もこの調子で頑張りましょう!」

「はいっ!明日もよろしくお願いしますっ!」

「さあ、まだ終わりじゃないよ」

「はいっ!」

佐井寺店長たちを見送った後、今日の反省と明日の打ち合わせを兼ねて全体でミーティング。スタッフには輝也に教わったとおりに、お礼と労いの言葉を言った。輝也と山下店長の3人でスタッフを見送って、輝也に教わりながら日報を書き、今日の売り上げをパソコンに入力する。

ネット通販とはちょっと違うけど、数字を入れる所さえ間違わなければ大丈夫。一応メモを取りながら、自分で入力した。

「終わったよ」

「うん。大丈夫だね?」

「はい」

「わからない所があれば高田店長に聞けばいいし」

「・・・あの」

「何だ?」

「ヒロオミさん、どうだった?」

「えっ?別に、いつもとかわらなかったよ」

「・・・来てくれなかった」

輝也は隣の椅子を引っ張ってきて僕の隣に座った。

「真樹はちゃんとやってるか?って聞かれたよ。頑張ってます、って答えておいた」

「そう?」

僕を心配して声を掛けてくれたんだ。良かった。ちょっと切なくなって、今日一日が無事に終わってホッとして、僕に目には涙が溜まっていく。

「高田店長も忙しかったんだよ。土師さんをヘルプに出してるんだからな?」

「うん」

土師副店長はヒロオミさんの右腕だ。黒服の中でも一番キャリアがあって《白夜》の司令塔なのだ。

だからヒロオミさんがここに顔を出せなかったのはわかる。でも、《インカローズ》は《白夜》の目の前にあるんだよ?キリヤさんだって、お客さまをお見送りしたついでに「おめでとうございます」と言いに来てくれたのに。

「でも」

「高田店長が土師さんをヘルプに寄越すのは滅多にない事なんだよ?わかるだろ?」

「知ってる・・・でも・・・ひっ、ひ、ヒロオミさんに、来て、欲しかった」

ヒロオミさんが反対したのに《インカローズ》の店長になって、本当はちょっぴり後悔していたのだ。僕なんかが「店長」で大丈夫かな。売り上げが悪かったらどうしよう、山下店長にまで恥を掻かせる事になる。

売り上げが悪くて半年で閉店、とかなっちゃったらどうしよう・・・。改装資金だって、社長が「予算オーバーだからね!」と何度も言ったし。

そう考えると不安だったのだ。「真樹なら大丈夫」と、言って欲しかった。

「気持ち、わかるよ」

輝也がそっと抱き締めてくれた。涙が止まらなくなって、僕はわーわー声を上げて泣いてしまった。

「まあちゃん。最後に厨房の火の元と鍵の点検が残ってるんだよ?泣いてる暇はないんだからね?」

「うん・・・ひっく」

「涙を拭いて、ねっ?」

「う、ん」

山下店長と輝也が店を閉めるまで僕といてくれた。明後日からは僕が一人でやらないと。

一つ一つ、ペンで○を付けながら戸締りと火の元を確認。3人でチェックして回り、最後に事務所の電気を消し、セキュリティシステムのスイッチを入れてから鍵を閉めた。

「はい、これでお終い。大丈夫かな?」

「はい。明日もよろしくお願いします。山下店長」

「はい。明日も頑張りましょう。《白夜》はまだ終わらないようだね。どうする?先に帰るなら車で送るよ?」

「・・・はい。お願いします」

本当は《白夜》に寄って今日の事を報告したかったけど、僕は輝也と一緒に山下店長の車に乗った。


 玄関にはちゃんと電気が点いていた。

「ただいま」

誰もいないけど、「ただいま」を言うと「お帰り」が帰ってくるような気がする。

「あーあ。暑かった」

蒸し暑い夜だった。ジャケットを脱いで自分でハンガーに掛けて、シャツはクリーニング用の袋に入れて。明日着るスーツの準備をしないと。

気温は高くないけどジメジメした空気は、動くとジワッと汗が滲む。

「あっ、エアコン」

こういうのも、いつもならヒロオミさんがやってくれるからな。

「リモコン、リモコン」

テーブルの上を見たけれどない。探す時は出てこないんだよね。

「リモコン・・・ええっと・・・リーモーコーンッ」

テーブルの下やソファーの上、キャビネットの上とか下とか。

「ないなあ・・・リモコンちゃーん!」

「何のリモコンだ?」

「あーっ」

ヒロオミさんだ。

「お、お帰りなさい!」

「何のリモコンだ?」

言い方が怖いよ、ヒロオミさん。でも、今日もカッコいい。黒いスーツに派手な紫色のネクタイ。大人の男の色気がムンムンしてて、ちょっと胸元を緩めた感じが気だるくて素敵。

「・・・エアコン」

「ああ、壁に掛かってるだろ?」

「あっ、そっか」

僕はテレビとかエアコンのリモコンをポイッと適当に置いてしまう。そして、どこに置いたか忘れてしまう。時々、大捜索しなければならないから、ヒロオミさんは「リモコンの場所」を決めて、僕が放置したらすぐに元の場所に置いてくれるのだ。

まあ、僕の場合「元の場所」を忘れてしまうんだけどね。

 ヒロオミさんは僕の横を通り抜けて、カーテンの横のリモコンをピッと押した。ヒロオミさんが通り過ぎた瞬間、タバコの臭いがした。

「いつもなら帰る途中でスマホで操作して点けるんだが、今日は真樹が先に帰ってると思ってやらなかったんだ」

そうだ。部屋に戻ると冬は温かいし、夏は涼しい。いつもならヒロオミさんがタクシーの中で、スマホを操作してスイッチを入れてくれてるんだった。

「ごめんなさい。僕も今、帰って来たの」

ヒロオミさんはパンツとアンダーシャツに靴下、というマヌケな格好の僕をチラリと見た。

「遅かったんだな」

「うん。輝也を先に降ろしてもらったから」

輝也はお手伝いに来てくれたんだから、と思って先に降ろしてもらったのだ。

「山下の車だろ?」

「うん。お手伝いに来てくれたから、輝也を先に降ろしたの」

「そうか」

ヒロオミさんは何度か頷いて、「風呂は?」と聞いた。

「あっ、まだ。今からなんだ!ジメジメしてるからエアコンを入れて、それからお風呂と・・・」

「一緒に入ろう」

「ああ、うん」

ヒロオミさんはジャケットを脱ぎ、ネクタイをシュッと引き抜く。カッコいい仕草に見惚れていたら、「行くぞ」と先にバスルームに消えた。僕はヒロオミさんがソファーに脱ぎ捨てたジャケットとネクタイを拾った。

「・・・スーツは機械に入れるんだった」

クローゼット型クリーニング機に僕とヒロオミさんのスーツとネクタイを吊るして、スイッチを入れる。

「うん、大丈夫」

いつもはヒロオミさんがやってくれるけど、僕もちゃんと出来る。

「真樹!」

「はーい!」

「おいで!シャワーでいいだろう」

「はーい!」

ヒロオミさんの態度がいつもと同じで、僕は嬉しかった。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

まあちゃんって、基本ダメ人間ですな(笑)以下、どうでもよさそうなオマケコーナーです。お暇な方はどうぞ~♪

【業務日誌】

「高田店長、行かないんですか?」

「どこにだ?」

高田店長は何気ないふうを装ってコーヒーカップを口元に運んだ。

「《インカローズ》ですよ」

「山下がいる」

「まだケンカ中ですか?」

「輝也」

「はい」

「ケンカはしていない」

高田店長は平気な顔で嘘を吐いた。いや、みんな知ってますってば。

「えっ?でも」

「していない」

本人が断言するからそういう事にしておこう。

「そうですか」

「真樹はどうだ?」

「ええ、頑張ってますよ」

「そうか」

気になるクセに。本当は今すぐにでも《インカローズ》に行って様子を見たいんだ。

「まだ反対してるんですよね?」

「いや」

絶対に嘘だ。顔に『大反対』と書いてある。どうしてこう素直じゃないんだろう。

「じゃあ、ちょっとだけ顔を出してもらえませんか?替わりに俺がここにいますから」

役には立たないだろうけど。

「嫌だ」

「どうしてですか?」

「嫌だから嫌だ」

子どもみたいな事を言って・・・。圭介さんと変わらないじゃないか。

「まあちゃん、待ってますよ?」

「俺に期待するな、と言っておけ」

「・・・はーい」

ケンカはしてないけど山下店長には会いたくない。まあちゃんの《インカローズ》異動には納得していないけど、「仕方がないから印鑑は押しましたけど、何か?」、って態度。

複雑だな。本当は一番にまあちゃんの成長を喜びたい人なんだけど。

 まあちゃんが言う『人間国宝の踊りのおじいちゃん』が《インカローズ》の帰りに《白夜》にやって来たそうだ。キリヤさんによると、高田店長は、踊りのおじいちゃんにまあちゃんの店長振りを根掘り葉掘り聞いたらしい。

でも高田店長は《白夜》から動かなかった。通常ならば一番近くにある店の店長なんだから手伝いにも行くのは当たり前だし、せめて挨拶くらいはするんだけど。高田店長は代理としてキリヤさんを行かせた。

「自分で行けばいいのに」

「だよな。素直じゃないからな、うちの店長」

「高田店長と山下店長の中に入ってる三木店長も大変ですよ」

最近、信吾さんと綱本さんは、三木店長を『カッコいい伝書鳩』と呼んでいるくらいだ。

「だろうな。あの2人は気安さもあってさ、よく口論になるんだよ。特に山下店長は、うちの店長には容赦ないからな。いつもなら2日も経てば、『アキが言うなら仕方がない』で終わるんだよ。だが、今回はそうじゃない」

「いつになったら仲直りしますかね?」

キリヤさんは「うーん」と腕組みした。

「そうだな。『アキが言うなら仕方がない』まで、あと一ヶ月」

「そんなに掛かりますか?」

「ああ」

「じゃあ、俺は10日!」

「賭けるか?輝也」

「良いですよ」

「何を賭ける?」

「キリヤさんが勝ったら、《白夜》で俺が指名しますよ」

高田店長の事だ、まあちゃんには激甘だからな。10日もあれば十分だと思うんだけど。

「おっ!強気だな?じゃあ、俺は輝也を連れて《インカローズ》だ」

「楽しみにしてますよ」

「おう!」

こうした賭けが『S-five』全店で行われている事を知らないのは、山下店長と高田店長だけだ。

以上、業務日誌でした!

福原輝也

゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。 

先にまあちゃんのSS(5話完結)をUPし終えてから、『青い朝』を終わらせます。その後は『恋は戦さのようなもの』と武村文樹の『恋文』を連載したいと思います。

昨日の記事で拍手の数に驚いた、と書いたのですが、催促したようになっちゃってましたね。すみません。でも、ありがとうございます♪嬉しかったです♪単細胞なので気分が上がります♪わぁい ヽ(∇⌒ヽ)(ノ⌒∇)ノ わぁい♪

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