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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・34~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 検査が終わり、結果を聞き、処方箋を出してもらった。先に清算を済ませ薬を出してもらう間に、病室に置いていた荷物を整理して帰る準備だ。

帰宅すると言ってもたった一泊だから荷物はないと思っていたが、三木くんが買ってきた品物が増えていた。

「荷物、増えてるし」

「当たり前でしょ?」

「役に立ったのはティッシュペーパーだけじゃん」

そう言うと、輝也は俯いた。

「大丈夫だったぞ?片岡先生は何も言わなかったし。テルも映像観ただろ?いなかったぞ、おたまじゃくし」

「そういう問題じゃなくて・・・もう、忘れよう」

落ち込んだ輝也が着替えた下着やティッシュの箱を紙袋に詰め込んでいると、またノックが聞こえた。

「まただよ!」

俺が眉間に皺を寄せると、輝也は「シッ」と言った。

さっきから用もないのに看護師さんたちが、代わる代わる「お大事に」と言いに来る。その度に輝也は手を止め、丁寧に「お世話になりました」と挨拶するから時間をとられていたのだ。

「そうカリカリしないでよ。みんな圭介さんの退院を知って挨拶に来てくれてるんだから」

「はあ?知り合いとか一人もいないんだけど?」

この部屋には担当の看護師がいるにもかかわらず、病棟担当の看護師たちが入れ替わり立ち代わりやって来るのだ。

当直が終わったから、とわざわざ挨拶に来た人もいたし、今朝も検温に来た人と体調など聞く為に来た人は違う人で、胃カメラの説明に来た人も違っていたし、検査室に案内した人も違う人だった。

たったの一泊だから部屋は散らかってもいないのに、掃除のおばちゃんは2人でやって来た。

それを片岡先生に言うと、「特別室には超イケメンが2人もいる、と言って昨日から大騒ぎなんだよ。彼女らは目の保養をしてるだけだから許してやってよ。害はないから」、と大目に見てるし。

「全員、名乗っていったけど、一人も覚えてない」

律儀な事に輝也は、彼女たちに名刺と『S-five』のパンフレットを渡し「ご来店をお待ちしております」と挨拶するのだ。全く、三木くん並みだよ。信吾さんは「君たちは"歩く広告塔"だからね」と言うが、三木くんの一番弟子はちゃんと実践していますよ。

「あははっ。いいじゃない。誰か一人でも食事に来てくれれば売り上げに繋がるんだし。どうぞ!」

「失礼します」

てっきり看護師がまたしょうもない用で来たのだろうと思っていたら・・・。

ドアが開くとそこには小鳥居が立っていた。

「えっ?小鳥居?」

「小鳥居、さん?」

「おはようございます。受付で退院なさると聞きました。おめでとうございます」

小鳥居は両手を脇に揃えて丁寧に頭を下げて挨拶をした。輝也の顔が引き攣っている。

「ああ・・・ありがと」

『おめでとう』を言われるほどの入院でもないが。

一体何をしに来たんだよ、お前は。大体、輝也が変な感じで箱根に行ってしまったのは、お前の所為だからな?

「どうしてお前がここに来るんだよ?」

「圭介さん!失礼だよ!」

俺らの遣り取りを見ていながら、小鳥居に動じる様子はない。対したものだ。

「出勤する前にお見舞いを、と思って来たのですが。受付で退院なさると聞きまして、直接病室に来させて頂きました」

「そうか。まあ・・・ありがとう」

小鳥居の手には紙袋が握られていた。見覚えのある袋、水羊羹だよ。

「小鳥居さん、昨日は《SUZAKU》にヘルプに入ってくださってありがとうございました」

輝也はちょっと強張った表情のままで小鳥居に頭を下げた。輝也が礼を言うのも変なんだけど。

「いいえ。少しはお役に立てましたでしょうか?」

「ええ。もちろんです」

輝也らしからぬツンとした物言いだ。まるで「近付くな」と威嚇している番犬のようだ。

「小鳥居、ありがとう。心配掛けたが、もう退院だから。また店に来いよ。お礼にご馳走するから」

隣にいた輝也の頬がピクピクした。

「ありがとうございます。これからご帰宅ですか?」

「ああ、うん」

「俺、車なんで。ご自宅までお送りしますよ」

「えっ・・・」

輝也は不満そうに俺を見た。

「・・・じゃあ、頼む」

断るのも変だし、角は立てたくないからな。


 その日の午前中に退院した。三木くんから「迎えに来ようか」と電話があったが、これ以上ギャラリーを増やしたくはなかった。病院の出口には、看護師や掃除のおばちゃんたちが勢揃いしていたのだ。俺たちは彼女らに見送られ、車寄せに停めた小鳥居の車に乗ったのだった。

「ご自宅でよろしいでしょうか?」

「いいけどさ。お前、店は?」

「今日は元々半休をもらってましたので」

「半休?」

「ええ」

小鳥居は半休の理由は言わなかった。

「そうか」

「じゃあ、三木店長が《有明の月》ですか?」

「いいえ、山下店長です」

「どこかで三木店長を捉まえないと」

輝也はスマホをいじり始めた。小鳥居にはわだかまりがあるようで、いつもなら『S-five』のスタッフにはガンガン話し掛ける輝也が小鳥居には話しかけない。

居心地が悪いな。タクシーで良かったんだけど。


 お通夜のような車内の重圧に何とか耐えたが、胃痛が復活しそうだった。復活する前にマンションに到着したけどね。小鳥居には、この前も持ってきた水羊羹を「どうぞ」と言って渡された。

「ありがと。これ、美味かったよ」

「どう致しまして。これなら胃には優しいかと思いまして」

「うん。ベニちゃんたちと一緒に食べるよ」

前の座席に同じ袋がもう一つ置いてあったが、それは小鳥居が今から済ませなければならない用事の為に購入した物だと思う。


 遠ざかる小鳥居の車を見送り部屋に着いた。

「ああ・・・やっと我が家だ」

「うん。薫からもメッセージが来てた。心配してるよ」

「そう?夜になったら電話する。胃痛の原因は薫ちゃんだから」

「ええっ!?」

「冗談だよ。説教されただけ」

「えっ・・・もしかして」

輝也は薫が《SUZAKU》で暴れた一件を聞いていないようだ。

「薫から聞いてないのか?」

「聞いてないよ」

「薫のヤツ、恥ずかしいから黙ってやがる」

「もしかしなくても《SUZAKU》で?」

「ああ」

「またか」

「薫に叱られ、章太郎に怒られて、俺の胃は限界だったんだよ」

「それは違うでしょ?」

「あははっ。冗談だよ」

「あははっ・・・。でもさ」

輝也は首を傾げた。

「何だ?」

「小鳥居さんって、何を考えてるんだろうね?」

「知るか」

「多分、圭介さんと裸で寝てた事とか、大した事ではないんだね。俺を見ても顔色一つ変えないし」

少しは「申し訳ない」とかいう雰囲気でも醸して欲しかった、ってわけか?

「いつもの感じだろ?」

「まあ・・・。俺、小鳥居さんの事はよく知らないから。でもさ!普通は弁解しないかな?」

いや、輝也。現場を抑えたわけじゃないだろ?ここはスルーだよ。

「俺ならしない」

「圭介さんはどうか知らないけど、普通はさ・・・」

「まあ、いいじゃん!あいつも悪いヤツじゃないんだから。ヘルプに入ってくれるし」

「圭介さん、ヘルプに入ってくれる人はみんな良い人なの?」

「ああ」

俺は自信を持って頷いた。

「じゃあ、華恵ちゃんは?」

「あれはバケモノだから。『人』じゃない。それにヘルプに入ってもらった覚えはない」

「掃除とか手伝ってくれるじゃないか?可哀相に」

「可哀相なのは俺だろ?」

「違う。俺だよ」

輝也はカバンの中から昨日の残骸を取り出した。

「あははっ」

「もう」

「なあ」

「何だよ?」

輝也は口を尖らせた。

こういう表情をすると、歳相応という感じになる。薫やまあちゃんとわちゃわちゃしていた頃の、可愛いテルだ。「店長」と呼ばれて、身の丈よりも背伸びして、三木くんや山下くんに追いつき追い越せで背筋をピンと伸ばしている。そんな輝也は、時々こうして昔の「可愛いテル」に戻るのだ。

「ベッド、行こう」

「俺、出勤するんだよ!」

「ダーメ!」

俺は嫌がる輝也をベッドルームに引き摺って行った。輝也は足で踏ん張り、手で柱を掴んでベッドルームに入る事を拒否した。力持ちになりやがって。若い分、こういう時は俺も敵わなくなるのだ。

「また胃痙攣になるからな!」

「ダメだって!俺、本社で三木店長と合流しないと!伊織さんが一人で挨拶回りしてるんだよ!山下店長と小鳥居さんが交代したら、三木店長は伊織さんと合流するって言ってる。俺も一緒に」

「10分だけ!」

「絶対に10分じゃ無理だし!」

「じゃ、20分!」

「ダメですって!」

「15分!」

「圭介さん!」

よーし、こうなったら・・・。俺は手を伸ばして輝也の脇を擽った。

「キャハハッ、ダメ、ふわっ・・・あーっ、も、ダメだよ!ずるいよ!」

脇を擽ると、輝也の腕の力が抜けていく。ベッドルームの入り口の柱を掴んでいた手が、スルッと簡単に外れた。その隙に輝也の腕を掴んで、ベッドルームに引っ張り込む。

「マジで、やめ」

「いいじゃないか!どうせ着替えるんだろ?脱ぐんだろ!?」

「俺、本社に行きますって、あははっ、連絡、ひひひっ、したもん」

「着替えを手伝ってやるから!」

「着替えだけじゃ済まないでしょうが!」

俺は輝也をベッドに転がして、ギブアップと言うまで脇から脇腹に掛けて擽り続けた。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

ええ、おわかりだと思いますけれども、圭介はアホですwww

台風で更新の準備が出来ないかもしれないので、推敲が甘いなとは思いつつも早めに予約投稿しておきますね。もし誤字、脱字、ここは文章が変じゃないか、日高よ。と思ったら目を瞑って、そーーーっと教えてくださいね。台風が過ぎ去ったらひっそりと修正しますから!

明日の更新は微妙ですけど、寄ってみてくださいね~♪

   日高千湖

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コメント
こんにちは、きりんです。
やっとどんよりした雰囲気から抜け、平常運転に戻ってきてくれて嬉しい限りです。あっちのアキちゃんの方はまだまだ目が離せないとこですが(離す気はありませんが(^_^))取り敢えずテルと圭ちゃんが幸せ楽しそうで良かったです。
それにしても、お子様圭介がテルを子供にする…。
2018/07/04(水) 10:55 | URL | きりん #-[ 編集]
Re: きりんさま~いらっしゃいませ♪
こんにちは~きりんさま♪

> やっとどんよりした雰囲気から抜け、平常運転に戻ってきてくれて嬉しい限りです。

ええ、平常運転ですね。しかし今回はテルもちょっと手を焼いてます。

>あっちのアキちゃんの方はまだまだ目が離せないとこですが(離す気はありませんが(^_^))取り敢えずテルと圭ちゃんが幸せ楽しそうで良かったです。

何だかんだ言っても、二人はラブラブですv-10
アキちゃんの方はちょっとお待ちくださいね。圭介をエイッと先に終わらせます。

> それにしても、お子様圭介がテルを子供にする…。

テルにとっては破壊力抜群ですよ(笑)もう子どもになって対抗するしかない!←違う

台風一過で晴天です。また雨が続くようですが、お気を付けくださいませね。コメントありがとうございました!
2018/07/04(水) 16:58 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
エイっと…などとおっしゃらず、どうぞどうぞごゆっくり♡
いつもの一生懸命背伸びしてるテルが我儘圭ちゃんのせいで若いありのままの姿をさらけ出してる様子が楽しいので。
夏真っ盛り…はまだまだこれからですのでせめて夜降った雨上がりの涼しさを楽しむ事にします。夏バテしない夏をお迎え下さいね。
2018/07/05(木) 06:29 | URL | きりん #-[ 編集]
Re: きりんさま~いらっしゃいませ♪
きりんさま~いらっしゃいませ♪

> エイっと…などとおっしゃらず、どうぞどうぞごゆっくり♡

いえ、エイッと終わらせます(笑)

> いつもの一生懸命背伸びしてるテルが我儘圭ちゃんのせいで若いありのままの姿をさらけ出してる様子が楽しいので。

みなさんが覗いていないテルはこんなものなのかもしれないですよ?
圭介や薫、まあちゃんの前では今でも「可愛いテル」でまあちゃんにも負けない甘えん坊なのかも。

> 夏真っ盛り…はまだまだこれからですのでせめて夜降った雨上がりの涼しさを楽しむ事にします。夏バテしない夏をお迎え下さいね。

お互いに夏バテしないようにしましょうね~!台風8号も出来ちゃったし!
梅雨明けまであと1週間は掛かりそうです。関東地方は戻り梅雨だとか。雨にはお気をつけて!

コメントありがとうございました!
2018/07/05(木) 07:07 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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