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恋とは戦さのようなもの・19

 新人研修の様子や諸事情を考慮して、春山伸樹の配属先が決まった。

『滝山産業』内の《サラダボックス・B》には2号店と兼任で佐井寺くんを置き、春山伸樹を補佐に決めた。西谷くんには引き続き《花信風》に勤務してもらい、2号店の副店長として佐井寺くんを補佐してもらう。

「補佐」とはいえ、春山くんの肩書きは3号店の「副店長」。アルバイトとして大学時代から勤務していた実績と2年間の勤務実績を考慮したが、春山くんとしては意外だったようだ。

 春山くんは隼人と年齢も近く、大学も学部も同じ。同じ時期に《花宴》で働いていた事もある。話しも合うだろうし、何より『滝山産業』内には同年代の気の置けない存在がいない隼人にとっては「後輩」が近くにいるのは悪い事ではない、と考えたからだ。

だが、それには信吾さんが「遊び相手が増えるだけではないか」と難色を示した。

春山くんのご両親は『S-five』には良い感情を抱いてはおられない。いずれは《サラダボックス・B》は子会社化する予定だから、ご両親のお気持ちを考えれば《サラダボックス・B》に勤務してもらった方がいい。

 《花宴》で内々に、と配属先を伝えると、春山くんは手を叩かんばかりに喜んだ。黒川が春山くんには特に厳しい、と伝え聞いていたが、それの所為か。

「春山くんには他の人とは別メニューで研修してもらう事にしたよ。しばらくの間は、佐井寺くんか俺と一緒に動いてもらうからね」

「はい」

「隼人とは仲が良かったよね?」

「ええ!《花宴》でアルバイトしていた頃は、よく遊びに連れて行ってもらいました」

「そう。隼人には社内に同じ年頃の気安く話せる人間がいないようだからね。君なら大学の後輩だし、話し相手になれるかと思ったんだ。だが、昔とは違って隼人にも立場があるからね。遊びは程々に頼むよ」

「わかりました!よろしくお願い致します」

春山くんは頬を輝かせた。そして「両親に良い報告が出来ます」と嬉しそうだった。


 隼人と信吾さん、元メジャーリーガーの対談は実現はしなかった。信吾さんの自宅に押し掛けた隼人は、剣もほろろに断られたらしい。

隼人は俺と同行して来た秀人と春山くんを秘書室に待機させ、俺だけを社長室に呼んだ。

「インターフォンを鳴らして、用件を言う前に断られたんですよ?山下店長、信ちゃんには何と伝えたんですか?」

隼人は憤慨していた。俺が対談の件をおかしなふうに伝えたかのような言い草だ。

隼人には信吾さんのような頭のキレも、義道社長のような押しの強さもない。祖父の貢氏のような、鷹揚に構えて静観するようなしたたかさも身に付いてはいない。

周囲の支えがあってやっとの事で『代表取締役社長』という重責を担っていた若い隼人は、「分相応」という言葉を理解していたと思うんだが。この頃は少々過信が過ぎるようだ。

そして今日の隼人は、信吾さんへの不満を一気に俺へと向けていた。

「元メジャーリーガーと3人で対談」

「俺の顔を見た瞬間に『お断りだからな』だよ?俺の話しなんか聞く耳持たない、って感じでさ。あんまりじゃないかな?玄関先で追い返されたんだからね?」

腕組みして社長室をウロウロしながら、隼人は怒っていた。

「仕方がないじゃないか。取材NGは開業した時からの決まり事なんだよ」

「だからって、俺を門前払いはないだろう!?」


店の取材を受ければ客が増えるし、それが売り上げに直結すると我々だって百も承知だ。

だが『S-five』には性的マイノリティーが多い。誤解を受けたくないという理由でうちには入社したくないという者もいれば、性癖が理由で入ってくる者もいる。そして彼らには、偏見の目に晒されたくはない、という気持ちもある。

ただでさえ『スタッフがイケメン揃いでヤバイ』と、度々SNSを賑わせている『S-five』なのだ。その度にマスコミからは取材依頼が殺到し、予約が取り難くなって常連客に迷惑を掛ける事になるのだ。

そういった事情を、隼人も理解していると思っていたんだが。


「対談の場所は《サラダボックス・B》の店内だよ?『滝山産業』と俺の顔を立ててさ、少しは協力してくれたっていいじゃないか?楠家は知ってのとおり、去年メジャーを退団して帰国。今は解説やバラエティー、雑誌でも引っ張りだこだ。彼との対談は《サラダボックス》にも、うちにもメリットがあるんだよ?」

「それはどうも。だが、楠家氏と隼人の2人の対談で十分じゃないのか?信吾さんは必要ないだろう?」

「・・・」

隼人はジッと俺を睨んだ。こういう顔をすると、「修行」と称して『S-five』に預けられていた頃の隼人に戻ってしまうな。

「星望の友人に声を掛ければ替わりはいくらでも見つかるんじゃないのか?《サラダボックス》ではなく《初花》で対談してくれ。あの店、隼人が企画して実現したじゃないか?素敵な店だよ」

ちょっと持ち上げてみたが、隼人はムスッとしたままだ。

「『滝山産業』も以前みたいに不動産一本じゃないんだ。俺が飲食に力を入れてるの、知ってるでしょう?」

隼人は『滝山産業』に勤務するようになってから、『滝山産業』が運営しているボーリング場やアミューズメントパーク内のイートインコーナーやファストフードコーナーを充実させてきた。その事業展開には「顧問」として信吾さんが名を連ね、時には俺や三木くんも会議に参加し、アドバイザーとして助言してきた。

更に数年前から動き出していた「高架下プロジェクト」が本格展開している今、『滝山産業』の飲食部門も正念場、という事か。隼人としても、社長に就任して初めてのビッグプロジェクトを是非成功させたい、と意気込んでいるのだろうな。

「ああ、高架下ね」

「そうだよ!高架下が滝山の土地だった為に鉄道会社も手が出せなかった所が何箇所もあるんだよ。ビジネスチャンスが転がってるんだよ?」

「ああ、わかってる。これからも《サラダボックス・B》は、高架下での営業展開を予定しているよ?」

「山下店長!俺は今までは父や祖父の残した事業を引き継いでいくのがやっとだったんだ。漸く自分にも自信が付いてきたんだよ!今回の高架下プロジェクトは、父がやり残した事業じゃないんだ!俺が最初から関って、ここまで育ててきたんだ。絶対に成功させたいんだよ!」

やはり、父親との確執があるようだな。

「うん。それも知ってる」

俺の気のない返事を聞き、隼人が不満そうに睨む。

いまだに社内には『信吾派』と呼ばれる一派がいる。彼らを一掃してしまえるだけの実力が伴っていない隼人には焦りもあるのか。

「ああ、ごめん。怒るなよ?そりゃ、俺らもビジネスチャンスは掴みたいさ。でも、マスコミはちょっとね。隼人もうちにいたからわかると思うけど、うちはいまだに一次審査は写真だけだからな。そういう時代錯誤な所とか、スタッフの性癖とか、ツッコミ所満載だろ?幹部は全員、パートナーが同性だ。しかも信吾さんには怜二くんがいる。彼が表に出るのは好まないよ」

「怜二くんの取材じゃないでしょう!?」

「自分が雑誌に載って注目されるのは困るんだよ、信吾さんは」

2人の関係は滝山家の親族にも認められていて、戸籍上は『兄弟』だ。

2人は関係を隠す事はないが、それを吹聴して回る事もない。一本の雑誌が導火線となって怜二くんの存在が世間の注目を浴びるのを、信吾さんは最も恐れているのだ。

取材を受けるのは簡単だ。信吾さんの事だから上手に話しを回して、元メジャーリーガーと不動産業界を牽引する『滝山産業』の若きリーダーの対談を上手く纏めてくれるに違いない。

だが、そう簡単にはいかないさ。それで隼人だけに注目が集まれば良いが、隼人と信吾さんが並ぶとどうしても隼人が霞んでしまうのだ。

2人は顔もよく似ている。隼人の体格も信吾さんと並んで遜色ない。だが、持って生まれた『華』が違うのだ。

「世間にも性的マイノリティーの存在は認められつつある。それを逆手に取っていけば、それを受け入れる『S-five』の功績にもスポットが当たるじゃないですか?」

だからと言って、我が社は差別を受けて行き場もない、能力もない者を寄せ集めているわけではないのだよ、隼人くん。

「そう簡単に言うなよ。じゃあ聞くが、『滝山産業』ではそう公言している社員がいるのかい?もしいたとして、その社員を社内外の差別や偏見の目から守って、定年まで勤め上げられるように出来るのか?」

「・・・それは」

隼人は口籠もった。社会の目にはまだまだ厳しいものがある。ネットで酷く叩かれている事もあるんだよ、うちの会社は。

「答えろよ」

「山下店長、マジで何とかならない?」

隼人は手を合わせた。

「お願い!」

《イゾルデ》や《花宴》に勤務していた頃、こうしてよく俺や三木くんに頼み込んでいたよな。急に「海外旅行に行くから有給を取りたい」とか、「デートの約束があるから早番にしてくれ」とか。

信吾さんからは『隼人には厳しくしてくれ。他に示しが付かないから』とは言われていたが、俺らも甘やかしたのは否めない。

「なっ?普段は絶対にマスコミNGの信ちゃんが初顔出し、それだけでもインパクトがあるんだよ?」

「あの人、学生時代はモデルのバイトしていたから、その頃の写真はネットに出回ってるだろ?今でも検索すれば出てくるじゃないか?」

「違うよ!あの頃の信ちゃんと今の信ちゃんでは箔が違うよ。それに『S-five』のスタッフのビジュアルのレベルの高さは有名だ。有名税だと思って諦めてくれないかな?」

「諦めるのはお前の方だよ。俺らは人寄せパンダじゃない。真面目に働いて、真面目に稼いでるだけだ。隼人の『S-five』に少しでも貢献してやろうという気持ちは嬉しいが、俺らは地道に良い店を作って営業してるだけだからさ」

「はあっ」

隼人はドカッとソファーに座り込んだ。

目の前のコーヒーカップを手に取り口に運ぶ。その姿はどこからどう見ても"品の良いお坊っちゃん"だ。不機嫌な顔のままで、隼人は俺を威嚇するように睨んだ。 

「インスタやツイッターで発信される情報は侮れないんですよ?テレビや雑誌がそれを追い掛ける時代なんだ」

「ああ、知ってる。だが、それに振り回されたくないんだよ。わかってるだろう?うちの事情は」

「わかってますけど」

「一度火が点けば消せない事もね」

「・・・」

「せっかくのお膳立てだ。悪いとは思っているよ。でもね、『S-five』も以前のような自営業の延長のような形態じゃなくなっているんだ」

会社は少しずつ成長している。資本金も増え、社員も増えた。隼人の言うようにSNSの力は侮れないと十分承知している。たった一件の投稿が店を、会社を潰しかねない事もね。

「信ちゃんは株式上場する気はないのかな?」

隼人がボソッと聞いた。

「全くないね。それにうちはそこまでの規模ではないよ」

「いずれは、って気持ちもないのかな?」

「ないね」

コーヒーカップを置いた隼人は前のめりになって話し始めた。

「今でも他所からの投資は断ってるんだって?」

「ああ。要らぬ口出しはされたくないからね」

「そうか」

「以前はあったが、今は『滝山産業』からの資本金提供でさえ断ってるんだ」

「そうだよね」 

隼人はムスッとしたままで腕を組んだ。

*****

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まあ、面白くもない回だなwww

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コメント
いやいや…
こんにちは。
『面白くない』なんてことないです!
何回も読み返して
ハラハラドキドキして
早く次のページをめくりたくなります!!
2018/07/10(火) 12:50 | URL | あんじゅ #-[ 編集]
Re: あんじゅさま~いらっしゃいませ♪
あんじゅさま~いらっしゃいませ♪

お久し振りですね!今でも読んで下さってて感激です~!!たまにはお顔を出してくださいませよ♪

日高の呟きにコメントありがとうございます!!いやなんだか、怒ってる隼人とお坊ちゃまの相手は疲れるぜ的山下くんという平凡な回だったのでwww

> 何回も読み返して
> ハラハラドキドキして
> 早く次のページをめくりたくなります!!

本当にありがたいお言葉をありがとうございます!!
更新を続けていられるのも、あんじゅさまのように応援してくださる方がおられるからです♪頑張りますね!

コメントありがとうございました!
2018/07/10(火) 14:51 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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