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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・36~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 輝也を見送って一眠りし、山下くんには《SUZAKU》には出勤すると伝えた。「今日は休んでいいよ」とは言われたが、休む気にはならなかった。

慌しく変化する『S-five』に置いていかれるわけにはいかないのだ。

 山下くんにはカンタたちが出勤する前に《SUZAKU》に寄ってもらうように伝えておいた。水羊羹を冷やし、コーヒーをドリップしながら、ベッドが消えた床を見ながら自分の半生を振り返ると、かなり恥ずかしかったりする。

「おはようございます」

「お疲れさま!山下くん」

山下くんは笑顔で中に入ってきた。昨日はプリプリしながら帰ったが、今日のご機嫌は悪くない。

「もういいの?大丈夫かい?」

「昨日はありがとうございました。ご心配をお掛けしました」

頭を下げると、「大袈裟だなあ」と山下くんは笑った。

「しおらしいじゃないか?」

あれだけ迷惑を掛ければ、当然ね。

「本当にご迷惑をお掛けしました」

「それ、片岡先生に言いなよ」

「山下くんと綱本さんと三木くんに言いたい。片岡先生には山下くんたちがタップリとお礼を言ったからいいよ」

「もう、何だよ」

チラリと俺を睨むが、「また、また」って顔をしている。

「座って」

「ああ、うん」

準備していたコーヒーと水羊羹を山下くんの前に置くと、山下くんは目を丸くした。いつもなら呼び付けておいて「山下くん、コーヒー淹れてよ」だからな。

「ベッド、消えてる」

山下くんはベッドが置いてあった所を指差した。

「昨日もなかったぞ」

そう言うと、山下くんは考えるような顔付きになる。

「昨日はバタバタしていて気が付かなかったよ」

「そう?」

山下くんも綱本さんも気が動転していたのかな?目端の利く彼がベッドがなくなった事に気が付かなかったなんて。

「どうかしたの?」

小鳥居の一件は耳にしていないのか。

「いや、まあ、何でもいいじゃないか。気分転換」

「うん、良いけど。元々、この店は君の所有物ではないからね」

厳しい一言。ああ、耳が痛いよ山下くん。

「悪かったね。大型の私物を置いて!」

「あははっ」

「山下くんには頭が下がるよ。ホーント、仕事人間。まあ、それでも食べて。小鳥居が見舞いに持ってきてくれたんだ」

「ああ、そうだと思った。これ、美味いよね」

山下くんは羊羹が小鳥居からの貰い物だとわかっていたようだな。

「あのさ」

「うん」

「ここ、カンタに任せようかと思うんだけど。どうでしょう?」

「・・・いいのか?本当に」

意外そうな顔で俺を見返した山下くん。これまで「何があっても俺は《SUZAKU》から離れないからな」と言い張ってきた俺が、自分から「カンタに店を任せる」と言い出したのだから、山下くん的には驚きだろうな。

「ああ。俺、不動産の方に専念するよ。だから《サラダボックス》と《白夜》、《インカローズ》の子会社化の件、話しを進めて」

山下くんは穏やかな顔で俺を見つめた。今までは俺の「異動」の話が出ても「絶対に嫌だ」と言えば、最終的には信吾さんが「仕方がない」と無かったことにしてくれていたのだ。

「そうしてもらえると助かるな」

「高田くんがどう出るか知らないけどね」

「彼が《インカローズ》と《白夜》の2軒管轄してくれれば、今後の事業展開も期待出来るし」

他にも店を増やせる、ってわけだ。

「そうだね」

コーヒーを一口飲んで、山下くんはニコリとした。

「ありがとう」

「こちらこそ。カンタの事、よろしくね」

「圭介くんがサポートしてやればいいんじゃないの?」

「カンタもやり難いさ。俺に遠慮するだろ?俺は離れた方がいい」

「じゃ、黒川の方を」

「黒川は無理」

俺は手で大きなバッテンを作って拒否した。

「どうして?」

「あいつ、俺の言う事は聞かないから。熱烈な山下信者だもん」

「あははっ」

『S-five』は3月末に決算を迎える。今、山下くんと三木くんはいつもの3,4倍は忙しいはず。12月からすでに人事の査定が始まっている。

「ごめんね。ギリギリになって」

「大丈夫だよ。それで、胃は大丈夫なのか?」

「うん。元々胃酸過多だったし。飲み過ぎで悲鳴をあげたんだろうってさ」

「しばらくはコーヒーは控えた方がいいよ。辛い物とかタバコ、酒もね」

「先生にも言われた。俺は一体、何を飲めばいいんだよ?」

「緑茶とか、水羊羹とか?」

山下くんは水羊羹を口に運んだ。

「山下くんは俺を太らせるつもり?わかった。三木くんに何か買って来てもらうよ」

「それがいいね。彼なら最適な物を見繕ってくれるさ。店でも酒は飲まないようにね」

山下くんの周囲には、いつも柔らかな空気が漂っているから好きだ。こういう時の山下くんは、俺に激甘なのだ。

「どうせベニちゃんに逐一報告させるんだろう?」

「あははっ、バレた?」

「こっちのチビ軍曹は山下くんの犬だからな」

「そんな事はないよ。ベニちゃんは圭介くんの事が大好きだからね」

「そうか?」

「ああ」

山下くんはベッドの跡が残る壁と床を見て、「広くなったね」と呟いた。そういえば彼が《イゾルデ》にいる頃は、よく叩き起こされていたな。

「ここ、気に入ってるんだよね」

「ああ、良い店だよ」


『S-five』が《白夜》を開業した頃は、まだ『S-five』という名称もなかった。

俺はまだ大学生で、《白夜》でホストをしてたんだよな。《白夜》が大当たりして、面接に来た三木くんが入社して、俺が大学を卒業して《SUZAKU》をオープンした。

その頃だったよな。誰かが「会社の名前は何にしようか」と言い出したのは。信吾さんの個人資産をあてにして、机上で学んだ経営学しかない俺らが会社を立ち上げたのは。

あの頃は、5人とも若かったな。何軒の店を潰したっけ?2軒かな?3軒かな?失敗なんか怖くなかった。元々何も持たない俺たちが、失う物なんてなかったのだ。まっ、信吾さんは賭けの連続だっただろうけどね。

薄っぺらい経営ノウハウしか持たない有象無象でしかなかった俺らが、気が付けば一丁前に稼いでいる。


「まあ、今となっては『S-five』もそう簡単に倒れないからね」

「そうだよ。まだまだ、先は長いんだ」

「そうだな」

ソファーに置いてあった酸素カプセルやマッサージチェアのパンフレットを広げた山下くんは、「本社にも是非、自腹で買って置いてくれよ」と恐ろしい事を言って帰って行った。


 《SUZAKU》の開店前に、外から悲鳴が聞こえた。エレベーターホールを掃除しているベニちゃんの声だ。

「ベニちゃん!どうした!」

ドアを開けると、ショッキングピンクのバケモノがベニちゃんを壁に押し付けている。

「コラーーッ!バケモノ!離れろ!」

「いや~~ん!圭介さんっ!お医者さんごっこ、楽しかった?華恵、入院したと聞いて心配で眠れなかったのよ?」

華恵はベニちゃんにクネクネと腰を押し付けながら言った。

「一生不眠症になってろ」

足で華恵の尻を蹴り、ベニちゃんから引き剥がしてベニちゃんの手から箒を取り上げ華恵を追い払う。

「きゃ~~~っ!掃き捨てないでぇ!」

華恵は楽しそうに逃げる。こういう遣り取りも今後はなくなるんだよな。

「さっさと仕事に行け!4月から家賃を上げるからな。稼げよ!」

「やだーーーっ!酷いわあ!」

エレベーターに向かって華恵を掃き、箒でエレベーターの呼び出しボタンを押した。

「乗れ!」

ドアが開き、俺は華恵を箒で中に押し入れた。

「あーん!華恵、病院まで行ったのよ?すぐに退院しちゃって~!病院のベッドの上の圭介さんを見たかったわ~!点滴と圭介さん、なんて素敵な組み合わせなの!」

何だ、それ?

「お前の見舞いだけはいらない」

「受け取って~!」

エレベーターの中から華恵の投げキッスが飛んできた。俺はそれを箒で打ち返し、アッカンベーでドアを閉めた。

「圭介さん。病み上がりなのに、メチャ強い」

いや、病み上がりは関係ないだろ?

「ベニちゃんも油断し過ぎです。毎回、やられてんじゃないよ」

「はーい」

「俺がいなくても撃退出来るようにならないとね」

「はーい!」

来月中旬からカンタが店長になる事は、スタッフにはまだ伝えていなかった。


 週末の《SUZAKU》は早い時間から客が入り、午後8時にはホールがベニちゃんだけでは回らなくなった。俺もホールに入り、何とか4人で店は回っている。

俺が抜ける前に誰か入れないとね。今から募集しても見つかるかどうか・・・。大手チェーン店が人員確保が出来なくて閉店する時代だ。

三木くんと山下くんが満足するようなアルバイトが、サクッと見つからないかな。

「いらっしゃいませ」

ベニちゃんの声でドアの方を見ると、シャキッとした小鳥居が入って来た。

*****

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すみません。かなり長い番外編となりましたが、次話で最終回です!今度から「番外編」は付けない!

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