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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・37【最終回】~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

「半休なのに、定時で上がったんだ?」

午後8時。定時で仕事を終えて、小鳥居は真っ直ぐここへ来たようだ。

「ええ」

「お前、働き足りないだろう?」

隣にいたカンタが慌てて俺の肩を掴んだ。

「圭介さんっ!何て事を言うんですか!小鳥居には昨日も一昨日も手伝わせてるんですよ?」

「そうだったっけ」

これからが忙しいんだよ、うちは。

「小鳥居、空いてる席に座れよ」

すっ呆けた俺を押し退けたカンタが小鳥居にカウンターに座るように勧めたが、小鳥居は座らずにカバンを持ったままで立っている。

働く気満々じゃないか、お前。

「私でよければお手伝いしましょうか?」

カンタが睨むから、俺は一応言っておく。

「冗談だよ」

「そうですか」

気の所為か小鳥居は少し残念そうだ。

「私は構いませんよ。半休を頂いたので体力は余ってますから」

「そう?じゃあ、一段落するまでカウンターに入ってよ」

「圭介さん!」

カンタが慌てている。小鳥居がヘルプに入った分は、後で残業代として清算するから安心しろ。

「小鳥居はやる気満々じゃないか?なあ?小鳥居」

「ええ。楽しいですから」

「えっ?」

カンタは小鳥居の『楽しいですから』に反応したらしい。「あれって、楽しい表情なんですかね?」と、小声で言った。

「本人が言うんだから間違いない。なっ?小鳥居」

「はい」

「いいんですか?圭介さん」

「ああ」

「まあ、ここの仕事にも慣れてきてるけど。後でちゃんとしてやってくださいよ?」

「おう、任せておけ」

小鳥居の表情は楽しそうには見えないのだが、本人が『楽しい』と言っただけあってそれらしい雰囲気は伝わってくる。確かに彼は《SUZAKU》が気に入り、ヘルプで入るのが楽しいのだ。

普段は大人しいが気働きの出来るカンタと人懐こいベニちゃん。鶴ちゃんもそつがないし、うちのスタッフは比較的誰でもウェルカムではある。章太郎が作るような変な敷居はないからな。

「奥に荷物を置いてこいよ」

「わかりました」

クソ真面目に「失礼します」と一声掛けてから事務所のドアを開けた小鳥居を見ながら、カンタは「やっぱり、変なやつ」と呟いた。


 小鳥居に手伝ってもらったのは正解だった。

多くの企業では3月になると新人研修が始まる。同時に異動の辞令が下り、送別会や歓迎会が多くなる。二次会、三次会で流れてくる客も多くなり、週末ともなれば午前1時の閉店時間を越えてしまう事もある。

鶴ちゃんが入ってからは、食事のメニューが増え女性客が増えたし、食事目当てのサラリーマンも多くなった。

 小鳥居は俺らには無表情だが、客には抜群の笑顔で接するから女性客には人気がある。だが休憩に入って客の目に入らなくなると、急に無表情になるシステムのようだ。ソファーに座ってホットミルクを飲む俺の前に座っている小鳥居は、まるで置物のようだ。

昨日、彼に渡された水羊羹の箱はテーブルの上に置かれたままだった。出勤して来たベニちゃんやカンタが食べ、残りは3つだけ。それを見た小鳥居は満足そうだ。

見舞いの礼を言うと、小鳥居は珍しく笑った。目が細いわけではないが笑うとシュッと目がなくなり、どちらかと言うと可愛らしくなる。

「ここ、楽しいんだ?」

「そうですね」

「《有明の月》はどう?」

「楽しいですよ」

あー、イマイチだな。

「副店長は誰に決めた?」

「いえ。まだです」

「山下くんに相談したのか?」

山下くんは、小鳥居には副店長を付けなくても大丈夫だと思っているのだろうな。

「いいえ、まだです。橋本店長は誰が良いと思われますか?」

「俺?」

俺は自分を指差して首を傾げる。

「ええ」

「元店長的には口を出したくない」

「橋本店長は志村店長の後任に、誰を据えようと考えておられたのですか?」

あー、そういう事。俺が目を付けていた人物を聞きたかったのか。

「あのさ、『橋本店長』って堅いからさ、圭介でいいよ」

小鳥居は驚いたのか瞬きをした。そして目がなくなる。遠慮したのかゆっくりと口が開き、カンタたちのように呼んでいいのか悪いのか、考えているような感じで呼んだ。

「・・・圭介さん」

「ああ、それでいい。ここのスタッフはみんなそう呼ぶから」

「あ、はい」

今度こそ完全に小鳥居の目がなくなった。

まるで転校生だ。転校して初めて声を掛けてもらって喜んでる転校生、あれだ。小鳥居は苦手だったけど、何となく扱えるようになってきたぞ。

「《有明の月》は夜はテンちゃんが仕切ってるだろう?テンちゃんの事はよく知らないだろうが、テンちゃんは俺以上にグータラなんだよ。店長会議にも出て来なかったり。副店長のヒガシも以前はここにいたんだけど、テンちゃんと一緒に異動になったんだ。テンちゃんはヒガシがいないとまるで赤ちゃんだ」

「ああ、何となく。引継ぎの時も必ず東浦さんが同席していますよ。天川店長が遅刻しても、東浦さんは遅刻しませんから。私は助かっています」

「あそこまで任せっきりも困るけどさ、テンちゃんはヒガシの事を信頼してるからな」

「ええ」

「お前が一緒に仕事をして楽だと思うやつはいないのか?」

「そうですね・・・。ホール担当の水内くんは動きが良いと思います」

《有明の月》のホールを担当している水内は、しーちゃんの後にホールチーフになった男だ。

「水内とは話す?」

「まあ、時々」

仕事の事しか話した事はない、か。

「しーちゃんの後任は水内をと、俺は考えていたよ」

「ですが・・・彼はまだアルバイトなんですよ。アルバイトに副店長を任せますか?」

「山下くんに相談したら?今、人事は彼が担当だから」

水内も飲食関係に勤務して長い。しーちゃんより少し後から《有明の月》でアルバイトを始めたが、見た目は軽薄そうだ。だが仕事はちゃんとするし、何よりも度胸があるし、威勢が良い。

「はい」

「水内の意向も聞いて、正社員にしてもいいじゃないか?」

「はい。山下常務にお尋ねしてみます」

「うん」

小鳥居の目がなくなる。

「小鳥居、ちゃんと笑えるじゃないか?」

「そう、ですか?」

「ああ」

驚きの混じった顔。小鳥居は気恥ずかしくなったのか、唇をキュッと内側に巻き込んで頷いた。

「不器用だよね」

「えっ?」

「いや、仕事振りを見てるとちゃんとしてるし、頭も良い。でも、人付き合いとか苦手そうだ」

「・・・ええ、まあ」

「接客業に向いてるとは思えないんだけど、客には笑顔で愛想も良い。客からの評判も良いし、何度かここでお前に会っている女性客はお前を『可愛い』と言う」

「可愛い、ですか?」

「ああ。頼りないわけではないが、どこか欠けている感じがするんだよな、小鳥居佑」

「はあ・・・」

「手伝ってくれて、ありがとう。そろそろ落ち着いたから」

「そうですか?」

「助かったよ。ご苦労さま」

俺が礼を言った時だった。ピッと音がして事務所のセキュリティが解除され、ガシャガシャと鍵を回す音が聞こえた。輝也だ。そう思って腰を浮かせた時だ。小鳥居が俺に向かって手を伸ばした。

「何だよ?小鳥居」

その手は確かに俺に向かっていたが、ドアに向かって「テル」と呼び掛けた途端にスッと引っ込んでしまった。

「圭介さん!」

「テル!遅かったじゃないか!」

輝也は一緒にいた小鳥居にすぐに気付いて、大股で近寄って来てすぐに俺をハグした。ギュッと抱き締められると、ただただ嬉しかったりする。

「俺、出勤時間が遅かったんだよ?少しは残業しないとさ」

「三木くんは残業大好きだけど、テルは残業嫌いになってくれ」

「三木店長も残業が好きなわけじゃないよ」

背中をポンポンとしてから輝也はカバンを置き、小鳥居の方に向き直って「今日も手伝ってくださったんですか?」と聞いた。

「ええ」

「店には俺が入りますから、小鳥居店長は上がってもらって大丈夫ですよ」

いきなり来て、小鳥居を追い払う輝也。いつもならこんなツンツンした言い方はしないのにね。まるで番犬だな。

「そうですか。ではカウンターで一杯頂いてから帰ります」

「お好きなだけどうぞ。今夜は圭介さんの奢りですから!」

「ありがとうございます」

小鳥居は得意の無表情を引っ張り出して、俺に頭を下げるとカバンとジャケットを持って店に戻った。


 ドアが閉まると、輝也は急に甘えた表情になる。

「もう」

「何だよ?」

「やっぱり、小鳥居さんって圭介さんの事を好きだよね?」

口を尖らせて、小鳥居が消えたドアを睨む。俺は小鳥居の手が気になったが、何の為に伸ばされた手だったのか確かめようもない。

「懐かれてるだけだよ」

「違う。俺にはわかる」

子どもみたいな輝也。ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外すと自分のギャルソンエプロンを腰に巻いた。

「もう。ヘルプはさせないでよ、あの人に。俺がやるから」

「何を張り合ってんの?」

「張り合ってない」

怒ったように言うと、輝也はさっさと店に出ようとする。

「あのさ」

「なに?」

「ここ、カンタに任せる事になったんだ」

「決めたんだ?」

「ああ」

「そうか・・・俺」

「ここに執着してると、取り残されるぞ」

輝也はわけがわからずに首を傾げた。

「何の事?」

「行くぞ!カンタに休憩とらせないと」

「待ってよ!」


ドアを開けた先は、俺が一番好きな空間だ。

独特の雰囲気。ざわめき。客の話し声。カンタがシェイカーを振る音。静かに流れるモダンジャズの音。

トレーを片手にホールを歩く輝也の背中が見えた。

これからいくつもの夜を迎え、いくつもの朝を迎えるだろう。でも、輝也に似合うのは綺麗な青空だ。


*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

絶対に番外編じゃないよね~、間違ったよね~と呟きながらUPしておりました。まあ、下書きから2、3割増しになるのはいつもの事なんだが・・・。

圭介と輝也の2人でした。常々「《SUZAKU》からは離れない」、と言い張っていた圭介ですが、とうとう観念したようです(笑)謎の小鳥居につきましては、近々短い(重要)SSを、と思っております。明日からは山下くんになります。

このままのペースで推移すれば、7月20日から21日頃60万HITするんじゃなかろうかと・・・。(日高調べ。でも結構正確だよ)

   日高千湖

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ありがとうございました! 
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コメント
ミステリアス小鳥居ww
日高様~~~

そちらは大変なことになっていませんか?
ニュースを見るたび心配しております。

小鳥居くんは謎ですね~
なかなか心の内が見えないというか。
輝也君、ジェラってましたね(●´艸`)
圭介さんも今回は胃まで壊して大変でしたが、雨降って地固まる的な感じかな?

番外編がどんどん伸びていくというのは、乗ってる証拠ですね。
羨ましいです~~~
私のほうは遅々として動きません。
忙しいというのもありますが、なかなか筆が進みません(´Д`;)/ヽァ・・・

文ちゃんのターン、楽しみに待っております。
健気な文ちゃんに素敵なカレシをお願いします\(^0^)/
2018/07/07(土) 01:25 | URL | にゃあ #-[ 編集]
Re: にゃあさま~いらっしゃいませ♪
にゃあさま~いらっしゃいませ♪

> そちらは大変なことになっていませんか?
> ニュースを見るたび心配しております。

ありがとうございます~。ご心配をお掛けしました!!

日高家、一応無事です。しかし水が引かないですね。側の側溝の水が満水で家の前の泥(臭い)を流そうにも流れていかないというwww
午後から晴れるようなので、期待してます!

> 小鳥居くんは謎ですね~
> なかなか心の内が見えないというか。

小鳥居くんは不思議ちゃんです(笑)

> 輝也君、ジェラってましたね(●´艸`)
> 圭介さんも今回は胃まで壊して大変でしたが、雨降って地固まる的な感じかな?

そうですね。飲み過ぎでしょう!ピロリくんが住んでいるのでは(笑)

> 番外編がどんどん伸びていくというのは、乗ってる証拠ですね。

違いますよ、ダラダラしてるだけですwww

> 羨ましいです~~~
> 私のほうは遅々として動きません。
> 忙しいというのもありますが、なかなか筆が進みません(´Д`;)/ヽァ・・・

そうですよねww忙しいと推敲だけでも頭が回らないですからね。
ご無理をなさらないように!!

> 文ちゃんのターン、楽しみに待っております。
> 健気な文ちゃんに素敵なカレシをお願いします\(^0^)/

文ちゃんの彼氏さんは、平々凡々ですよ。←言うな
私も無理はせずに頑張りまーす!コメントありがとうございました!
2018/07/07(土) 06:34 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
拍手鍵コメ・Tさま~いらっしゃいませ♪
拍手鍵コメ・Tさま~いらっしゃいませ♪

最終回まで飽きずに読んでくださってありがとうございました!ええっ?ロスですか?

続きはそのうちですね。今のところ、他のが渋滞してますのでww

輝也にはお母さんがいますからね。お姉さんもね。なかなか「橋本」に替えるのは難しいようです。

またいつか、元気な彼らをお届けできたら、と思っております。

天候不順な折、Tさまもご自愛くださいませ。

拍手&コメントありがとうございました!
2018/07/07(土) 16:30 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
拍手鍵コメ・Tさま~いらっしゃいませ♪
拍手鍵コメ・Tさま~いらっしゃいませ♪

輝也と圭介に関してはリクエストが多いんですよね。そのうちに、とは考えていますが今のところは「そのうちに」としか言えません。すみません。あっ60万HITのキリ番を狙うとか?

まだUPしていないお話がいくつかありますので、そちらでお楽しみ頂ければと思います。

寄る年波には勝てませんで(笑)でもTさまのように気軽に声を掛けてくださる方がおられると、頑張って更新しよう!と思ってしまうのでした~♪

ボチボチ休みを頂きながら続けていきたいと思っています。応援してくださいね!

拍手&コメントありがとうございました!
2018/07/09(月) 23:18 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
拍手鍵コメ・aさま~いらっしゃいませ♪
aさま、いらっしゃいませ♪連投ありがとうございます!

毎日暑いですねwww暑いというよりも熱いですよね。aさまもご自愛くださいませね。

お忙しいのですから、コメントとかはご無理はなさらないでくださいね。お暇な時にチョロッと書いて頂けたら嬉しいでーす!←どっち?

圭介も成長しないとね~(笑)彼は山下くんと三木くんに甘やかされてますから(笑)

これからも日高の子どもたちを見守ってやってくださいね!

拍手&コメントありがとうございました!(リクはよかったんですかね?ありましたら、どうぞ)
2018/07/22(日) 00:09 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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