FC2ブログ

『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・20

「参ったね」

寿さんの部屋に入った俺は、部屋の主には失礼だとわかっていたがソファーに深く沈み込んだ。


 隼人の話しは小1時間続いた。

隼人が憤慨するのもわかるが、あの件に関してはどうしようもない。「決まり事」というだけならば「今回だけ」と目を瞑ればいいが、雑誌に取り上げられ信吾さんの身辺を調べられたり、インターネット上で私生活を暴かれたりするのは困るのだ。

『滝山産業』の御曹司として生まれ、幼稚園から大学まで名門・星望学園を進んだ実業家。人も羨むその経歴に加え、恵まれたビジュアルは芸能人にも劣らない。そんな彼の小さなキズを洗い出して叩く輩はネット上には五万といる。

「隼人社長か?」

「ああ。信吾さんに例の対談の件を直談判したら、門前払いだったそうだ」

「信吾社長から聞いたよ。遅い時間に来て騒ぐから玄関先で追い返した、とおっしゃっていた」

「何度も無理だと言ったんだが。恨みを買ったかな?」

『S-five』の不文律を知りながら『滝山産業』の力をチラつかせるような隼人の態度に、俺は少々腹を立てていた。

「そんな事はないよ、明利くん。隼人社長は一時的にカッとなっているだけだよ。隼人社長は、元々大らかな性格だからね。そのうち何でもなかったように元にお戻りになるよ」

「まあ、そうなんですが」

俺にもそれはわかっている。隼人は名家の生まれだが、それを鼻に掛けるような所がない。義道会長からは絶対的な威圧感を感じるが、隼人にはそれがない。

お坊っちゃん育ちの甘ったれた部分が目立つが、人が好い。

『S-five』にいた時も信吾さんの甥だからと甘えた行動は多かったが、俺らやスタッフを見下した態度を取る事はなかった。むしろ「『滝山産業』の後継者」と呼ばれ、それ相応の態度を求められる事には嫌悪感を抱いていた感じ。義道会長のような威圧感もないし、金離れが良くて後輩には気前良く奢る。だからといって偉ぶる事はないから、同じ年頃のスタッフからは慕われていた。

よく「信ちゃんが親父の跡を継いでくれれば俺は楽で良いんだけど」、と暢気な事を言って信吾さんに怒鳴られていたよな。

義道会長がいわゆる「信吾派」に肩入れし、隼人ではなく信吾さんを後継者にと考えている事を知った母親の成美さんが反乱を起こした時も、母親ではなく我々に協力してくれたのは記憶に新しい。

隼人が早々に父親側に付いたからこそ、成美側の勢力の結束はあっという間に崩れ逆転出来たのだ。あの時の騒動を思い出すと、今でも嫌な気分になる。


 俺は隼人の所に春山くんを送り込んで、寿氏の部屋に逃げてきた。

隼人が春山くんの復帰を喜び、昼食に誘ったのだ。もちろん俺らも「一緒に」と誘われたが、「寿さんと先に約束している」と断った。食事しながらまで隼人の愚痴を聞きたくはないからね。しかも、あの蔵野付きだ。

「大丈夫かな、春山くん。隼人の愚痴を聞いてウンザリしてるんじゃないかな?」

せっかくの高級フレンチの味も台無しじゃないのかな。

「春山くんも俺らといるよりは隼人社長の方が良いんじゃないのか?」

秀人はノンビリと言った。寿さんが準備してくれた松花堂弁当をいただきながら、俺は春山くんの事が気の毒になった。

「若い者同士で明利の悪口でも言い合ってストレス発散だよ」

「それでストレス発散出来るんなら、いくらでも言ってくれて構わないんだけど」

俺の悪口くらいならお好きなだけどうぞ、だ。


 隼人と春山くんは《花宴》で一緒に働いていた事がある。

当時の隼人は大学を卒業してすぐだったし、春山くんは現役大学生。隼人が星望大在学中から、彼らは木下章太郎を中心に行動していた。当時の彼らの派手な遊びっぷりには、信吾さんが苦言を呈するほどだったのだ。

「俺は何と言われても良いんだけどね。ただ、ランチに蔵野が合流したのが気になってさ」

「蔵野部長も同行したのか?」

秀人は寿さんの個室とあってリラックスしていたが、「蔵野」の名前を聞き箸を止めた。

「ああ」

秀人は俺の不安の種に気が付いたようだ。

「父さん、蔵野部長について何か知っている事があれば教えてください」

「蔵野部長、ね」

寿さんは箸を置き、溜息を吐いた。

「例の成美奥さまの事件を覚えているね?」

「ええ、もちろんですよ。忘れもしません。おかげで私は明利という素晴らしいパートナーを得る事が出来ましたから、成美さんには感謝したいくらいですよ」

隣にいた俺は、思わず秀人の脛を蹴る。

「いっ・・・乱暴だな。君は」

「シッ」

秀人を一睨みするが、肩を竦めただけで全く反省の色はない。

「その当時、義道会長と共に信吾社長を推す一派があったのは2人とも知っているね?」

「ええ」

それが現存している事もね。

「根深いものがあって、義道会長が一線を退いたのと同時に"信吾派"と呼ばれていた方が数名、閑職に追い遣られたんだよ。滝山一族が数名ね」

「義道会長自らが、ご自分と考えを同じくしておられた親族を数名、降格させたとは聞きましたが」

彼らは本社を離れ、義道会長が経営する別荘販売の会社や介護付き有料老人ホーム、介護付き高級マンション等を運営する会社に移ったと聞いている。

「そのとおり。だが、最近になって義道会長が急に隼人社長の仕事振りに口を挟むようになられてね」

「急に、ですか?」

「それというのも老人ホームや介護付きマンションの評判が上々でね。業績も右肩上がりなんだよ」

最近になって信吾さんにその会社の株が譲渡され、施設で催される新年会やクリスマスパーティー等の行事には『タチバナ』にケータリングを依頼される事が多くなったのは確かだ。

「理由はそれですか?」

「義道会長自身が早く退き過ぎた、とお感じになったようだ」

「それは、ご自身が社長職に復帰したいと?」

「いや。隼人社長から実権を奪い返したいようだね」

「うーん」

隼人に代表取締役社長の座を譲る事で「信吾派」を排除し、後継者は「隼人」である事を明示したわけだが・・・。

「まだ信吾さんを捨て切れない?」

「それでご自身の会社の株を譲渡なさったのか?」

それでは父子の確執を産むだけではないか。

「隼人社長の小さなミスを、逐一報告する者がいるんだよ」

「それは、一々報告しなくともいずれはわかる事じゃないですか?要するに"信吾派"の一部が本社に戻っているという事ですか?」

「いるんだよ。義道会長は"信吾派"だった親族を重用しはじめている。この数年間、彼らは隼人社長に恭順の意を示しつつ陰で力を蓄えていた、と考えて間違いない」

「そうですか・・・知らなかったな」

気が付かなかったのは、信吾さんや俺たちが『滝山産業』から遠退いていたからだ。

「ですが・・・。雑誌の対談にしろ《サラダボックス》の出店にしろ、隼人の方からの申し入れなんですよ?それを隼人が知っているのなら、『S-five』を除外するのが当然ではないですか?」

「隼人社長は何もご存知ないかもしれない」

「では"隼人派"を纏めているのはどなたです?」

「ご先代さまの妹の孫にあたる方だ」

「その血縁関係、近いと言えば近いし、遠いと言えば遠いね」

秀人が手元にあったノートパソコンを開いて何やら調べ始めた。

「そうだね。名字が『滝山』ではないから、君たちには判別が付かないだろう」

『ご先代』とは信吾さんの祖父・太一郎氏の事だ。

「ご先代にはお2人の妹がいらっしゃった。お2人ともすでに亡くなっている。妹さんの方は森実(もりざね)家に嫁がれたが、事業が上手くいかなくなって『滝山産業』が吸収合併したんだよ。それがアミューズメント部門の前身だ」

「そうなんですね。知りませんでした」

「信吾社長が高校生の頃の話しだからな。信吾社長も詳しくはご存じないだろう」

「そうですか」

「その方の孫にあたる方が則武(のりたけ)さんと誠豪(せいごう)さん。彼らは仲が悪くてね。長男の則武さんは隼人社長の"太鼓持ち"と呼ばれているし、誠豪さんは義道会長にべったりなんだよ」

森実則武という人物が「隼人派」を纏めている人物と言うわけか。

「それって、兄弟喧嘩の延長戦だね」

「そうなんだよ。困ったものでね。2人は悉く対立して、意見が揃う事はまずないんだよ。今は誠豪さんが老人ホームの方の取締役をなさっているから接点がないが、義道会長が本社においでになる時は必ず同行してくる。兄の則武さんが義道会長に頭を下げるのを見るのが嬉しいらしい」

「ガキか」

「あははっ、全くね。誠豪さんは信吾社長とは星望で同級生だったんだ」

「じゃ、完全に"信吾派"ですか?」

「もちろん。彼が中心になって"隼人派"を切り崩しに掛かっているという噂だ」

「その噂の信憑性は?」

「私がただの噂話を口にするとでも思っているのか?秀人」

「すみません」

秀人が寄越したパソコンの中の『森実誠豪』は不敵に微笑んでいた。
 
*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

あらら、日高さんの好きな展開だね~と思って、堅苦しいお話ですけど読んでくださいね(笑)「恋」はどこに行った?と思ったそこのあなたっ!どこでしょうねえ?日高も捜したいと思いますwww

文中に『五万といる』とありますが、日高くらいの年代の方には(何歳だ、お前。というツッコミはご遠慮ください。ちなみに皆さんはもっとお若いですよねww)「ああ、『たくさん』って意味ね」とおわかりだと思います。がっ!息子世代になると「50,000人」と思うらしいのです。ちょうど自治体が「郡」から「市」になれる人口だね(笑)

ネット民を誰が数えるんじゃ、バカ息子!お前の勉強不足じゃ!というわけで、今日の日高の愚痴でしたwww

ちなみに最後の方で名前が出てきた「太一郎」のお話は雪にまじりて見えずともとなります。←宣伝中

   日高千湖

ランキングに参加しております、良かったらポチッと押してやってください♪
   ↓
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村  
携帯電話の方はこちらを押して頂けると嬉しいです♪
   ↓
ブログ村 BL・GL・TLブログ
ありがとうございました! 
関連記事
スポンサーサイト
コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

日高千湖

Author:日高千湖
日高千湖のBL小説ブログへようこそ♪

こちらはオリジナルBL小説ブログです。BLという言葉なんて知らない、嫌悪感を抱くとおっしゃる方は回避願います。

旧ブログ『薄き袂に宿る月影』をご愛顧頂きました皆さまには、ご迷惑をお掛けしております。

旧ブログ内で公開しておりました作品につきましては順次こちらでも公開して参ります。また、旧ブログで公開中の作品は今のところそのまま残しておりますが、こちらへは改稿した上でUP致します。こちらへ移転後は旧ブログでの公開は見合わせたいと思いますのでご了承下さいませ。

左上の【Sitemap】をクリックして頂きますと過去3ヶ月の更新記事がお読みになれます。お久しぶりの方、読み逃がした方はこちらが便利です♪

サイトマップ代わりに【目次と登場人物紹介】というカテゴリを作成しましたので、そちらをご利用下さい。

★拙作ではございますが、著作権は放棄しておりません。お持ち帰りはご遠慮願います。

★大変お手数ではございますが、リンクをご希望の方はコメント欄にてお知らせ頂けると嬉しいです♪よろしくお願い致します。


ランキングに参加しております。良かったら押してやって下さい!
  ↓

にほんブログ村


ありがとうございました!

★尚、拍手コメントくださいました方へのお返事は、コメントを頂いた記事のコメント欄にて書かせて頂いております。ご確認下さいませ★

では、ごゆっくりどうぞ♪

最新記事
カテゴリ
最新コメント
FC2カウンター
リンク
QRコード
QR
フリーエリア