『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋文・3

 奥さまから頂いたたくさんのお土産を抱えて部屋に戻ると、花子がニャーンと鳴きながら僕を迎えてくれた。

足元に擦り寄ってくる花子の存在は、この温かな家でも埋められなかった部分に沁みた。

信吾さんが買ってくれた白黒のマンチカンは足が短くてとても可愛い。でも信吾さんは、花子を見る度に『ブサイクちゃん』と呼び、花子に「フーッ」と威嚇されるのだ。

 戸籍上は信吾さんの「弟」の怜二くんは、月に2回くらい滝山家にやって来る。とても綺麗な人だ。信吾社長と並んでいると、まるで映画か雑誌の中から飛び出してきたかのように様になっている。

彼らが揃っていると、僕は嫌でも河野組の若頭と加々見敬治を思い出す。

敬ちゃんと怜二くんの「どちらが綺麗だと思う?」と、信吾さんは期待した瞳で聞いてくるが、「同じくらいです」としか答えられない。本当に甲乙付けがたいのだ。

怜二くんの趣味はお菓子作りだ。僕にも手作りのクッキーやマドレーヌをお土産に持ってきてくれる。もちろん、花子のおやつも手作りだ。 

「ただいま!花子」

「ニャア」

「奥さまにおやつを頂いたんだよ、ほら!」

花子が大好きなおやつはちょっと高くて、毎日はあげられない。それを知っている奥さまは、外出の度に花子のおやつをお土産に買って来てくださるのだ。

袋を見た花子は、僕の足に伸び上がって催促した。

「ニャアッ」

「痛いよ、花子!今は一つだけだからね?」

「ニャアッ」

花子はお客さまがいらっしゃる時は部屋から出さないようにしている。

前に義道会長の足に飛び掛って驚かせた事があったからだ。義道会長に怪我はなかったけれどいい顔はしなかったし、スーツに付いた毛を神経質そうに玄関で払ってお帰りになった。

奥さまたちは「気にしなくても良い」とおっしゃったけれど、僕の私的な猫なのでなるべく迷惑を掛けないように気を付けているのだ。

 おやつに夢中になっている花子を見ながら、僕は漸く外の世界へと足を踏み出せる幸福を噛み締めていた。

「花子、僕、ちゃんと一人で買い物に行けたよ」

「ニャ」

僕を見上げる花子の丸い瞳が、「頑張ったね」とでも言っているようだった。


 僕は来年の大学受験を目指して勉強を開始した。小学校までは施設から通ったが、中学に入学する前に僕は《SWAN》へと移された。

加々見家では、中学3年から高校1年くらいまでは勉強が進んでいた。

あの時は、短時間でよく頑張ったと思う。同時に進められる英会話の授業や経済の勉強。一般的な教養として朝からクラッシック音楽を聴きながら食事をし、歌舞伎や能といった伝統芸能にも触れ、美術館や博物館の所蔵目録を見るのが日課だった。加々見家が所有する絵画や彫刻も鑑賞したっけ。

ピアノのレッスンだけは敬ちゃんが、「嫌だ」と言って困らせたから後回しになったな。「お上品の勉強、大嫌い」と言う敬ちゃんを宥めながら学んだ事が、ここでは意外と役に立っているのだ。

何度も練習させられたお茶の作法や華道。歌舞伎や能の知識。それから敬ちゃんが「ブラームスは聴きたくない」と駄々をこねたクラッシック音楽。 

旦那さまや奥さまと一緒にピアノやバイオリンのコンサートに行っても苦にはならないし、「この曲を知っている」と言うと奥さまがお喜びになるのだ。これは突然始まる、塚原さんの「曲名と作者を答えよ」クイズのおかげだ。

 滝山家にお世話になるようになってから、奥さまたちに「信ちゃんが『良い』と言ったら大学に行ったらどうかしら」と勧められていた。

一体いつになったら自由に外を歩けるかわからなかったが、その日の為に僕は参考書や問題集を買って少しずつ勉強を続けていた。大学、とはいかなくともせめて一般常識と高校卒業程度の学力だけは付けたかったからだ。

旦那さまと奥さまは、僕を「星望へ入学させましょう」と張り切っていた。将来的には「『滝山産業』で働いてちょうだいね」、と奥さまに言われた事もある。

「ニャア」

花子のおやつが空になった。花子は僕が持っていた空の容器をペロペロと舐め、もう一つと催促している。ザラザラとした舌が指にあたってこそばゆい。

「もうダメだよ」

「ニャッ」

花子は僕の手から容器を奪うと中を何度も舐め回し、容器を前足で蹴ったり転がしたりして遊び始めた。


 花子の可愛らしい様子を見ていると、河野組での生活を思い出す。

「敬ちゃんと庭掃除、楽しかったな」

僕たちの箒に河野組の花子が纏わり付いて暴れ、枯葉が散らばって僕たちは笑い転げた。長い廊下で雑巾掛け競争して、雑魚部屋の秋元さんに何度も怒鳴られたし。敬ちゃんは「片付けが出来ない」と、先輩たちにゲンコツを食らわせられてたっけ。

「敬ちゃん、元気かな?」

もしかしたら、あの頃が一番無邪気で、陽気で、楽しかったかもしれない。


 花子のしっぽに顔を撫でられて目が覚めた。

「おはよ」

「ニャーッ」

花子は毎朝、僕の顔の近くをウロウロして起こしてくれる。

「今日も起こしてくれてありがとう」

「ニャーッ」

「はい、はい」

花子は朝一番にリビングに行くのが日課なのだ。

 洋子さんは朝早く起きて、ストーブに火を入れてリビングルームを暖める。花子はストーブの前で丸くなって、旦那さまや奥さまが起きてこられるのを待つのだ。

ドアを開けてやると、花子はタタタッとリビングに向かって行く。

「さあ、僕も起きなきゃ」

急いで洗面と着替えを済ませ、部屋を出ると廊下は凍て付くような寒さだ。信吾さんや義道会長は「家中を床暖房にしよう」とおっしゃっていた。

 底冷えがする廊下を歩き、僕はリビングに向かった。窓の向こうには寒々しい冬空が広がっていた。

「おはようございます」

「おはようございます、文ちゃん」

「今日も寒いですね」

「また雪が降り始めたのよ」

リビングの広い掃き出し窓から外を見ると、確かに白い物が落ちてくるのが見えた。

「わあ・・・」

「ニュースで言ってたんだけど、今日も大雪になるかもしれないんですって」

「またですか?」

「そうよ。お庭の雪がまだ完全には解けていないのにね」

「そうですね」

「旦那さまは今日は本社に顔を出す、とおっしゃっていたの。取り止めになさるか、早めに出られるか、聞いてきてちょうだいね」

「わかりました」

旦那さまは午前5時に起きて新聞を読み、時間になったらラジオ体操をする。暖かくなったら国府田さんと運転手さんと僕の4人でお庭でやるのだ。今は寒いから、旦那さまはご自分のお部屋でラジオ体操をしている時間だ。

 旦那さまのお部屋をノックすると思ったとおりラジオ体操の曲が聞こえてきた。

「どうぞ」

「おはようございます」

「おはよう、文ちゃん。雪が降っているね」

旦那さまはラジオ体操をしながらこちらを見た。

「はい。洋子さんが本日のお出掛けは取り止めでしょうか、それとも早めに出掛けられますか、とお尋ねです」

「早めに行くよ」

「承知しました」

ドアを閉めようとすると、「文ちゃん」と声を掛けられた。

「はい」

「ちょっと中に入りなさい」

「はい」

中に入るとドアを閉めるように促された。

「文ちゃんも、体操しなさい」

「はい」

旦那さまに勧められて僕も一緒にラジオ体操を始めた。テレビの中の女の人と同じように身体を動かすと、冬でも汗ばむくらいだ。

「文ちゃん、勉強はどうだい?ほいっ、ほいっ」

旦那さまは「ほいっ、ほいっ」と掛け声をかけながら腕を大きく広げて屈伸を始めた。

「頑張ってます」

「一人では楽しくないだろう?家庭教師でも呼んだらどうだい?」

「家庭教師ですか?贅沢ですよ!」

「それくらい私が出してあげるよ。ほいっ、ほいっ」

「そんな!大丈夫ですから」

「遠慮しないで。ほいっ、ほいっ」

「お給料も頂いてますから」

「信吾に話しておくからね。あれが適当な人を探してくるだろう」

「でも!」

「はい、決まり」

旦那さまも奥さまも結構マイペースな方で、こうと決めたら即、動かないと気が済まない性質のようだ。ラジオ体操も終わりに近付き深呼吸。旦那さまは忠実に体操を終えて、両手を脇で揃えた。

「今は寒いから外でやってはいけないと信吾たちが煩いから部屋でやってるが、今度から文ちゃんと一緒にリビングでやろう。ご飯が美味しいからね」

「・・・はい」

「花子が待ってるよ」

「はい」

家庭教師を雇ってくださると言うお気持ちは嬉しいけれど、そこまで甘えていいものかな?

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

完全にじいまご話(笑)

   日高千湖

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コメント
ほのぼの・・・
日高様~~~きゅうきゅううっっ(≧∇≦)

いやぁ、ほのぼのしてますなぁ。
文ちゃん、滝山家で可愛がられているとはいえ、やっぱり遠慮してるのね。
そりゃそうですよね、赤の他人のお家にお世話になってるんですもん。
小学校しかまともに通えていない、かなりハードな生い立ちの文ちゃん。
敬ちゃんの影にまるでひなげしのように咲く、可愛らしい文ちゃん。
外に出られずに3年も籠っていたら、ストレスもたまりますね。

これからは外出もできるし、家庭教師も来るし、人生の新しい扉が開くのかな。
大学受験もあるしね。
幸せになってほしいな(^O^)
2018/07/13(金) 01:07 | URL | にゃあ #-[ 編集]
Re: にゃあさま~いらっしゃいませ♪
にゃあさま~いらっしゃいませ♪

ホノボノ第3弾でーす(笑)おやじとじいと孫(笑)登場人物の平均年齢高めで頑張ってまーす!

> 文ちゃん、滝山家で可愛がられているとはいえ、やっぱり遠慮してるのね。
> そりゃそうですよね、赤の他人のお家にお世話になってるんですもん。

そりゃそうですよ。色々あると思います。でも、頑張ってるよ。

> 小学校しかまともに通えていない、かなりハードな生い立ちの文ちゃん。
> 敬ちゃんの影にまるでひなげしのように咲く、可愛らしい文ちゃん。
> 外に出られずに3年も籠っていたら、ストレスもたまりますね。

3年間は滝山のじいちゃんばあちゃんたちとはお出掛けしてるんですよ。ただ、一人ではダメ、というだけです。今回、初めての一人お出掛け(笑)後ろから、国府田さんがそっと見守っていたかも?

> これからは外出もできるし、家庭教師も来るし、人生の新しい扉が開くのかな。
> 大学受験もあるしね。
> 幸せになってほしいな(^O^)

自由に出られるけど、彼にはカルチャーショックの連続ではないでしょうか?電車にもバスにも乗った事がないんですよ?大変!

幸せになれるかしら~応援してやってくださいね!コメントありがとうございました!
2018/07/13(金) 09:23 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018/07/13(金) 14:10 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Rさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Rさま~いらっしゃいませ♪いつもご訪問ありがとうございます♪

黒川嘉美という名前はですね、もう、どう考えてもピッタシなんですよ(笑)

ツイッターで名前を入れるとその人に合うニックネームを付けてくれたり、BL小説のタイトルを付けてくれたりするお名前メーカーだったかな?的な物があるんですが、「黒川嘉美」と入れると間違いなく「悪魔」「ドS」「魔王」「鬼畜」などという文字が並びます。ちなみに今日見つけたお名前メーカーの「あなたのラスボス適性度」は黒川100%でした(笑)「あなたに神様が宿っている所」では「黒川嘉美の左手には破壊神が宿っています」だったり。

意外と「お名前メーカー」で診断すると、キャラのイメージにピッタリだったりしますから面白いです。

BL小説のキャラの名前って、結構なさそうなものが多いじゃないですか。あれがどうも嫌なんですよ。なので、日高家のお子様たちは平凡な名前が多いです。(ありそうな名前、という意味です)

中、高校生の頃は「西園寺」とか憧れましたよ~日高も。しかし、日高の旧姓は漢字二文字ですが珍しかったので、それが嫌でした。「山下」とかが良かった(笑)

調べてくださってありがとうございます~!日高は以前はキャラの姓名判断とかUPする前にやってましたよ。←暇

「恋文」は「文ちゃんのじいちゃんばあちゃん孝行日記」みたいになってますが、よろしくお付き合いくださいませね。
アキちゃんのほうはまあ、こんな感じですが、恋はそのうち、どこかで回収されるかと・・・。←大丈夫か?

日高は好きなんです、こういうお家騒動(笑)もう、皆さまには目を瞑ってお付き合いいただくしかない!!

いつもありがとうございます♪またお気軽にお顔を出してくださいね!コメントありがとうございました!
2018/07/13(金) 14:54 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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