『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋文・4

 食事は三食リビングで食べる。立派な『ダイニングルーム』と呼ばれてる広い部屋もあるけど、広過ぎて嫌だという理由で今は使われていない。義道会長や信吾さんたちがお揃いになる時だけはそこで食事をするのだ。

『リビング』と呼ばれている部屋の窓から見える庭は、大座敷から見える庭とは違ってどちらかと言うと洋風だ。季節になると奥さまがお好きな薔薇が咲き乱れる。

リビングの先には庭に張り出したサンルームがあり、サンルームにも大きなソファーやロッキングチェアが置いてある。花子はいつもサンルームでお昼寝させてもらっている。

 リビングには大きなダイニングテーブルがあり、旦那さま、奥さま、洋子さん、僕の4人でテーブルを囲む。

旦那さまは『滝山産業』の最高顧問という役職に付いておられて、週に2、3回本社に出勤される。その他の日はご自分が経営なさっているゴルフ練習場とテニス場の会社等に出勤なさるから、月曜日から金曜日まで日中はお屋敷にはいらっしゃらない。

そして週末は、ゴルフや温泉、パーティーと本当にお忙しい。ご自分では「隠居生活」とおっしゃるが、辞書で調べた『隠居』の意味とは懸け離れた生活だ。ゴルフや温泉には僕もお供するし、私的なご旅行にも僕を同伴してくださる。

おかげで京都、奈良、沖縄と北海道は3度観光したし、箱根と草津、軽井沢には何度も行った。


 朝はお味噌汁とご飯、焼き魚とお漬物、目玉焼きや玉子焼きが並ぶ。

食事は加々見家の方が豪華だったと思う。洋子さんは料理上手で、僕は洋子さんから味噌汁や目玉焼きの作り方を習った。

それからパンを焼いたり、煮物を作ったり、ご飯を炊いたり・・・。僕にも自炊が出来るかもしれない、と思うくらい色々な物が作れるようになった。河野組でも雑魚部屋の下っ端の仕事の一つとして食事の作り方は一通り習っていたが、洋子さんの場合は「スーパー家政婦さん」なので出汁の取り方や野菜の切り方、魚の捌き方、盛り付けまでが本格的だ。

「文ちゃんの玉子焼き、上手になったわね」

「ありがとうございます!」

奥さまに褒めて頂けて、朝からテンションが上がる。

「洋子さんの味に近くなったよ」と、旦那さま。という事は、あと一歩、だな。

「頑張ります」

「あら、これで十分よ」

「ありがとうございます。奥さま」

「文ちゃんは努力家ね」

「他に取り得がないですから」

「そんな事はないわよ!こんなに可愛らしくて、優しくて、お行儀も良い若い人は他にはいなくてよ?」

「そうですよ!うちの文ちゃんに対抗出来るのは、怜二坊っちゃんくらいです」

えっ・・・怜二くんと比べるの?洋子さん。

「あ、ありがとう、ございます」

褒められて嬉しいけど、「可愛い、優しい、お行儀が良い」だけで一生を終われるわけじゃない。僕は漠然と、旦那さまと奥さまが亡くなった後の事を考えている。


 雪が降る中、玄関で旦那さまを見送った。

 今日は奥さまは午前中はサンルームで刺繍をなさる。食事の後片付けを終えた洋子さんは、ストーブの前に椅子を置き編み物を始めた。

出勤して来た伊戸さんがリビングから掃除をはじめ、僕は自分の部屋と廊下に掃除機を掛け、大座敷の方までハタキで塵を落としていく。それを後から伊戸さんが掃除機を掛けるのだ。

旦那さまのお部屋と奥さまのお部屋は洋子さんが掃除する決まりだ。

 一通り掃除が終わって、僕は国府田さんと玄関から正門まで凍結防止剤を撒く事になった。本宅は坂の上に建っているから、こうしておかないと雪かきも大変だし、旦那さまの車が上って来られなくなるからだ。

緑色の作業服に着替えてタオルを首に巻き、帽子と軍手をしたら準備完了だ。すぐに身体が温まるから薄着でも大丈夫。

「じゃあ、始めましょう」

「はい」

玄関前から車庫、それから国府田さんたちの家がある所から裏口へ。その後は玄関の前から順に撒いていき正門まで。

雪は降り止むどころか、ボタボタと落ちてくる。風も強くなって寒さは増していく。勝手口から道路に外に出ると、道路の隅には薄っすらと雪が積もっている所もあった。

「旦那さまは戻って来られるのかな?」

「えっ?そんなに降りますか?」

「ああ。一昨年だったかな?10センチくらい積もって大変だっただろう?」

「そうでしたね」

「雪で戻れないかもしれないな。無理な時はホテルにお泊りになるだろう」

去年の成人式だったかな?振袖姿の成人たちが雪の中を式典に向かう姿が、今朝のテレビでも放送されていた。

「大雪警報が出ているからね。旦那さまも予定を早めてお帰りになるだろう」

「そうか」

「タイヤもスタッドレスに替えたからね、心配は要らないよ」

正門の外にも余った薬剤を撒き終えた頃には、頬に当たる風も気にならなくなる。

「人通りも少ないですね」

「急な用事でもなければ外には出たくないからね。小、中学生は登校していたが、午前中で臨時休校になるかもしれないね」

「そうですね」

《SWAN》の小さな窓から雪を見て、触れてみたいのに手が届かなくて涙がこぼれたのを思い出した。

「文ちゃん、行くよ」

「はーい!」


《SWAN》から逃げ出そうとして捕まって、折檻されて、ここで死ぬくらいならせめて外で死にたい。そう思った。死んだ気になって僅かにしか開かない廊下の窓から飛び降りたっけ。

僕がいない事に気付いた警備員たちが何人か走って行くのが見えた時は、生きた心地がしなかった。捕まったら、殴り殺されると思った。

隣のビルのゴミ箱とゴミ箱の間に身を隠し、朝方まで待った。警備員たちが僕を諦めてビルに入り、周囲が寝静まって《SWAN》が静かになった頃、朝日が昇る前に僕は暗がりから飛び出した。

足がおかしかったけど、左腕が脱臼してダランとしていたけれど、僕は走った。走って、走って、走って、転んで、走って、転んで、もう立てなくなって蹲っていたのを槌屋補佐に助けられたのだ。


「文ちゃん、私は妻を駅まで迎えに行って来るよ」

坂道を上っていると、国府田さんがスマホのメッセージを見て言った。

「電車が停まるかもしれないそうだ。信吾さまが帰宅命令を出されたんだよ。文ちゃん、何か用はあるかい?駅前でいいなら連れて行ってあげるよ?」

「良いんですか?」

「ついでだからね」

国府田さんは人の良い笑顔を見せた。

「じゃあ、僕も一緒に行っても良いですか?」

「ああ、もちろんだよ」

「わあ」

「そんなに嬉しいのか?そうだよな。ここには文ちゃんの話し相手になるような歳の人がいないからね。うちの息子がここで働いていれば文ちゃんの話し相手になれるんだが、庭師になんかなりたくないと言うんだよね」

「へえ」

国府田さんは、3代続けてお世話になっている滝山家の庭を他人の手に任せなければならなくなる事をずっと悔いている。「文ちゃん、庭師にならないか?」と、僕を誘う事もある。

庭師もいいかもしれない、と思う事もある。でも、旦那さまたちがいなくなったらここはどうなるのかな?

「じゃあ、少し早く行こうか?文ちゃんも一人でゆっくり買い物とかしたいだろうし」

「はいっ!」

国府田さんは、「妻が着くまで私はパチンコをしているから気にしなくてもいいよ」と笑った。

「パチンコは内緒ね」

「はい、言いませんよ!」

こうして僕は雪の降る中、国府田さんの運転する軽自動車に乗り込んだ。


 着替える間も惜しかった。国府田さんも緑色の作業着のままだったし、僕もそのままだ。ただ「外は寒いわよ」と洋子さんが言うので、作業用の緑色のジャンパーを羽織りマフラーだけは巻いた。

 車のワイパーが忙しなく左右に動き、白い雪を横に除ける。

「これはかなり積もるかもしれないな」

「そうですか?」

「ああ。一昨年も朝は降っていなかったが、昼過ぎから急に外が暗くなって、あっという間に積もったんだ。西の空に雪雲が見える」

「どこ?」

「ほら、あれだよ」

国府田さんの指差す方を見ると、雨雲のような真っ黒な雲が空を覆っていた。


「妻は14時5分に着く電車に乗るそうだ。14時にここで待っているよ。何かあったら携帯に電話してください」

「はい!ありがとうございました!」

国府田さんとは駅前で別れた。国府田さんは駐車場に車を置いてからパチンコに行くという。国府田さんの車が見えなくなった瞬間、どこへ行こうかとワクワクした。もちろん車の中でもどの店に入ろうかと考えていたんだけど・・・。

「よし!」

一時間以上は時間がある。僕は駅前で一番大きなビルを目指した。


 冷たい風に混じって雪が降る。首に巻いていたタオルをマフラーに替えて良かった、と周囲の人たちの服装を見て思った。同じ年頃の人たちは皆、流行のコートを着て、カッコいいブーツを履いて、洒落たニット帽を被っている。

「僕の事なんか誰も見てないし、知らないし」と自分に言い聞かせながら、3階にあるメンズコーナーに向かった。エスカレーターに乗る時はいつもドキドキする。奥さまがご一緒の時は手を繋いで乗るけど、今日は手すりをしっかりと掴んだ。

下りる時もしっかりと下を見て、ちゃんと床に着地する。「慣れた」、と言うほどエスカレーターには乗っていないのだ。

3階をザッと見ながら一周し、何となく気に入った薄手の淡いピンク色のニットを半額で買った。店員さんが何度も「お似合いですよ」と言うから、胸の所にあててみた。似合うか似合わないかわからないけれど、僕の顔が明るく見えたから。

半額なのに紙袋を「店の外までお持ちします」と言う店員さんに恐縮し、エスカレーターで8階まで上がった。ペットショップで花子のオモチャを買い、自動販売機を見つけて温かいコーヒーを買った。

自動販売機でコーヒーを買うのは初めてだった。ミルクと砂糖入りを押し忘れて苦いコーヒーを飲む破目になったが、ちょっと大人になった気分だ。

「どこに行こうかな?」

思ったより時間を持て余している。

国府田さんに誘われた時は商店街にあるメロンパンが美味しいと有名なパン屋さんに行って、ペットショップに行って花子の玩具を買って、と張り切っていたのに。

スマホで時間を見ると、約束の時間まであと40分。ベンチに座った僕は、一人では何も出来ない子どもだった。


 コーヒーの紙コップをゴミ箱に捨て、エスカレーターを降りる。下りは上りよりも気を遣う。下りるタイミングが掴めなかったら恥ずかしいから。

ビルを出て商店街を目指したが、着いた時よりも雪が積もっていた。さっきは見かけなかった学生服を着た中・高校生が何人もいる。臨時休校になったんだ。

急いで商店街に行きメロンパンを10個買った。それから・・・。

「そうだ。ノート」

商店街にある文房具屋さんまで行く時間はない。僕は目の前にある『春香堂書店』を目指した。

*****

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2話~4話はまるで老人会のお世話をする青年のストーリーですね(笑)今回はLOVEの「L」くらいまでは、と思ったんですが、長過ぎたので5話へと続く。←相手は国府田さんじゃないよ。

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