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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

さよなら三角、また来て四角・26

 華恵が一人でしゃべり続けてコーヒーを飲み終えた頃、チャリンとドアベルが鳴り山下が男性を一人伴ってやって来た。

「山下さん!昨日はありがとうございました!」

「いいえ」

山下は昨日とは打って変わってスーツを着ている。

昨日のジャージ姿でも十分美しかった彼だが、オーダーメイドと思われる上質なスーツを着ると余計に品が増して優雅に見える。後ろから付いて来た男性は控え目な様子で山下とは付かず離れずの距離を保っているが、その彼も端整な顔立ちの美形だ。

彼らを見て久木原は、『S-five』には一体どれだけのイケメンがいるのだろうか、と首を傾げたくなる。

 ドアベルの音を聞き振り返った華恵は、親しげな様子で山下に手を振った。

「あ~ら!アキじゃないの!昨日はお疲れさま。稲村ちゃんもお元気?」

「はい、ありがとうございます」

稲村ちゃん、と呼ばれた青年は表情を変えずに穏やかに答えたが、穏やかではなかったのは山下だ。

「華恵ちゃん」

ピンと張りのある声は、山下の機嫌が悪いと教えてくれた。それは稲村が思わず後ろから山下の顔を覗き込むほどだ。

「はい?」

「そのピンクのジャージでここには来ないでくれよ」

微笑んではいるが山下は、華恵に厳しい一言を投げ付けた。華恵は心外だとばかりにダンとカウンターを叩いた。カウンターの上に並べられていた物が、一斉にガシャンと音を立てる。

「はあ?どうしてよ?」

「この店には全くそぐわないから」

「アキ?」

華恵以上にポカンとしたのは久木原だった。

大切な常連客の華恵に、「来るな」と言われるのは困るのだ。店に入り難い原因と言われた華恵には、頭が上がらない状態であるのは否めない。

それをわかっていながらズバリと言ってしまう山下にヒヤヒヤしながら、ここは何とか穏便に済ませたいと思うのが人情というもの。久木原は動向を見守る事にした。

「わかんないかな?そのショッキングピンクのジャージはどこでも浮くんだよ」

「浮く?」

「浮いてる。なあ、稲村くん?」

話しを振られた稲村は、どう返事をして良いかわからずに「はあ」と言葉を濁した。

「コーヒーは奥の物置部屋で飲めば?」

山下はカウンターに座り、稲村にも椅子を勧めた。華恵は隣に座った山下に食って掛かった。

「何を言ってんのよ!華恵は売り上げに貢献しようと思って!」

山下は華恵のジャージを指差して言った。

「貢献どころか、それは営業妨害だよ。この店のどこにそんなショッキングピンクが置いてあるんだ?怜二くんが設えた窓とウッドブラインド、棚だって棚受けだって、彼が拘って集めてきた品だ。店だけではなく外壁のレンガも歩道や街路樹も含めて古いヨーロッパの風を感じられるように考えてあるんだよ。それに恭子さんがセレクトした雑貨だ。500メートル先から華恵ちゃんだとわかるようなピンクは、ここには必要ありません」

「酷いわ!500メートル先はあんまりだわ!見えるわけがないでしょう!」

「俺、本当の事しか言わないし」

「噓!アキの噓は聞き飽きたわ!」

「俺、華恵ちゃんに聞き飽きるほどの噓は吐いてないからね」

「まあ!この子ったら!」

華恵は腕組みして「意味がわかんないわよ!」と抵抗した。

「とにかく、ここへは地味な服装で来てくれよ。ピンクとか紫とか禁止。黒にしろ、黒」

「嫌よ!黒なんて!お葬式でしか着ないと決めてるのよ!それにピンクは私の勝負色なのよ?」

「誰と勝負すんだよ?」

「・・・っ。色々よ!今も超口の悪いアキと戦ってるじゃない?」

「俺と?勝てるとでも思ってんの?」

山下は優しげに微笑んではいるが、攻撃の手を緩める事はなかった。

「・・・うっ。私は・・・リキくん!あんた何か言いなさいよ!」

いきなり援軍を振られた久木原は慌てた。

「えっ」

だが久木原が何か言う前に山下が口を開く。

「俺、《花信風》の時も言ったよな?派手な服は禁止だって。それを無視して派手な紫のジャケットを着て、罰としてここの掃除をさせられたの、忘れたの?」

「忘れてないわよ!ちょっと!思い出しちゃったじゃないの!私はここに内見者が来る前に大掃除をさせられたんだからね!」

華恵の視線が久木原に巡ってきた。華恵は久木原に「何を着ても良いですから、来てくださいね」と言わせたいのだ。

「えっ?そうなんですか?」

「そうよ!華恵の白魚のような手が洗剤でボッロボロに荒れちゃったんだから!」

「どこが白魚だよ?どう見ても野球のグローブだろうが」

「失礼しちゃうわ!キーーーッ!」

華恵が暴れている。両手両足をバタバタさせて悔しがっていた。

「本当の事を言ったまでです。とにかく!ここでコーヒーを飲みたいのなら、黒、紺以外の服は着るな。ついでに静かにしろ」

「えーーーっ!それじゃお葬式じゃないの!」

「文句があるなら来なければいい」

さすがの華恵も怒ったのか、「ふんっ」と鼻息を荒く吐き、ピンクのバッグからコンパクトを取り出すと化粧を直す。驚くくらいの粉が華恵の顔の周りで飛んでいる。山下はその粉を撥ね退けて眉間に皺を寄せた。

華恵は髪を撫で付けバッグを小脇に抱えると立ち上がった。

「・・・帰るわ」

「さようなら」

山下は笑顔で手を振った。

「ふんっ。リキくん、コーヒーはアキの奢りでよろしく!」

「・・・はい。ありがとうございました」

ドスドスと足音を響かせながら、華恵が去って行く。外に出ると窓の方に移動し、恨めしそうにこちらを見ている。「全く、騒がしいんだから」と言いながら、山下が手を振ると華恵は「キーーーッ!」と奇声を発して駅の方へと走り出した。

「すみません、山下さん」

「こちらこそ、すみませんでした。華恵ちゃんは貴重な常連客ですよね?」

「ええ、まあ・・・」

「大丈夫ですよ。華恵ちゃんはコーヒーが飲みたいから明日も来ます。でも、ピンクは止めません。だから裏からインターフォンを鳴らしますよ」

「そうでしょうか?」

「ええ。華恵ちゃんは打たれ強いから大丈夫です」

久木原は不安でしかないが、山下は笑顔を絶やさずに「お客さまの反応はいかがでしたか?」と聞いた。

 
 久木原は準備したコーヒーを2人の前に置いた。

「朝からお客さまの数はいつもの倍です。雑貨とグリーンが売れています」

「そうですか。飲食の方は?」

「まあ・・・いつもと変わりません」

朝からポツリポツリと訪れる客は、新しい店がオープンしたと知り物珍しさに入ってみた、という感じの人が多かった。好みの物が見つかって購入してくれる客もいれば、商品を一通り見ただけで出て行く人もいた。

考えてみればサンドウィッチもフレンチトーストもオーダーされたのは1回だけだ。

「そうか」

「男性客が減って、代わりに女性が立ち寄ってくれています」

「そうでしょうね。今日、私が立ち寄ったのはあなたの事でお話があって」

「俺、ですか?」

「ええ。《SUZAKU》とのダブルワークは大変でしょう?雑貨を置くとなると、昼休みも取れない日もあるでしょうから。橋本からはあなたが《SUZAKU》でも働きたいとの意向だと伺ってはおりますが、店の営業に支障が出ないかと思いまして」

「いいえ!働かせてください!俺は本当に金が要るんです。《SUZAKU》で働かせてもらえないと、本当に家賃も電気代も払えなくなるんです!」

久木原は必死だった。この難局を乗り切れば何とかなるはずなのだ。雑貨とグリーンの売り上げだけで今日は2万を越えている。

「そうですか」

「一ヶ月でも二ヶ月でも!代わりのスタッフが見つかるまででもいいですから!」

山下は久木原の必死な様子に負けたのか、渋々という表情で「良いでしょう」と頷いた。

「ただし、条件があります」

「条件、ですか?」

「ええ。期間は一ヶ月。その間にあなたはうちのスタッフから料理を習って、この店のオリジナルメニューを作り上げる事。あれもこれもでは失敗しますから、何か一つで良いんです。この店にモーニングタイムやランチタイムは必要ありません。すぐに廃止しなさい。そのうちもっと雑貨の売り上げが多くなります。ついでにドリンクを飲まれるお客さまが増えるでしょう」

《ケサランパサラン》オリジナルメニューが出来上がるまで、山下のサンドウィッチとフレンチトーストは「お貸ししましょう」と微笑まれたが、久木原には不安しかなかった。
 
*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

久木原に宿題を置いていくアキちゃん。散々な言われようの華恵ちゃん。大人しい稲村くん(笑)久木原くんの受難は続くのであった。

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2019/05/18(土) 08:47 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Hさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Hさま~いらっしゃいませ♪

> 今日は更新されてるかな?とランキングを見るのが日課です

ありがとうございます!すみません、ちょっと家の事情で毎日更新が出来なくなっていますww

山下くんは物静かな人なんですが、華恵ちゃん相手となると大変辛辣です。かなり昔からの仲間ですからね。山下くんと高田くんと華恵ちゃんの3人は頼る人もおらず、互いに助け合って生きてきたので。

クッキーの甘さは山下くんにはお見通しのようなので、ちゃんと宿題が出ております。どうなるでしょうか?この難局を一人で乗り切るのは難しいでしょうからね。また「何とかしてくれる人」が現れるかな?

更新を楽しみにしてくださってありがとうございます。ちょいちょいお休みを頂いてるので申し訳ないです。またお気軽にお立ち寄りくださいませね。コメントありがとうございました!
2019/05/18(土) 23:34 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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