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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

さよなら三角、また来て四角・29

 ピッと音がして、裏口のオートロックが解除された。合鍵を持っていてパスワードを知っているのは南出だけだ。しばらくすると裏手と店の間のドアをノックする音がして、南出がヒョコッと顔を出した。

「ただいま」

「おかえり。早かったな?」

カウンターに座っている藤田に気付いた南出は、カウンターに座っている藤田に遠慮したのか小声で「チラシの件だけど」と言った。

「南出、こっち来いよ」

「いいのか?」

「ああ。お客さまは誰もいないから。紹介したいんだ」

まだスーツ姿の南出は、藤田に軽く会釈しながら店に入ってきた。あれから夕方の忙しさもあってか、客足はパタリと止んだ。すっかり陽も傾き、道行く人は家路を急ぐ。

「早かったな?」

「出先から直帰したんだ。店はどうだ?」

「うん。雑貨が売れたよ」

「カフェの方は?」

そこの所が残念ではあるが、雑貨を買ったり見てくれた人に"カフェがある"という事が周知されればそれで良いと思っている。

「いつもと変わらないかな?」

「そうか」

2人で話していると、横から藤田が声を掛けてきた。久木原が「紹介したい」と言っておきながら、放置されたので痺れを切らせたようだ。

「久木原さん、紹介してくださいよ」

「ああ!すみません。友人の南出幸成です」

「南出と申します。よろしくお願い致します」

南出が丁寧に挨拶すると、藤田も立ち上がった。

「はじめまして、藤田佳哉(ふじたよしや)です」

「彼が例のパンを焼いてくれる人だよ」

「ああ!そうですか。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく。本当にここはイケメンしか入っちゃいけないんじゃないの?」

藤田は目尻を更に下げて笑った。南出は藤田が久木原の協力者と聞き、手に持っていたチラシをカウンターの上に出した。

「これなんだけど」

「こんな特技があったのか?南出」

「特技というほどのもんじゃないよ。ネットでテンプレートを探せばいいだけだよ」

南出にはすでにメールで山下の宿題の件を伝えておいたので、チラシには《ケサランパサラン》の新装オープンと雑貨とグリーンを販売していることを簡潔に表現されていた。

薄いペパーミントグリーン地に《ケサランパサラン》という店名と新装オープンの文字。反対側の歩道から撮影した写真には、アンティーク調の枠が取り付けられた広々とした窓と茶褐色のレンガ壁が写っている。どこからどう見ても"お洒落なカフェ"という感じのチラシが出来上がっていた。

「凄いじゃないか!?」

「だから、無料のテンプレートを探して写真と文字を入れただけだよ」

褒められて照れているのか、南出は「誰にでも出来るよ」と九木原から目を背けた。

「それがね、明日から藤田さんが焼いたパンもここで販売させてもらえるんだ」

「そう?じゃあ、付け足すよ。リキからのメールの感じでは色々と変更がありそうだったら、今日は印刷は止めて見本をいくつか作ってきたんだ」

南出はファイルの中から、何枚か試作したチラシを出してみせた。

セピア色の写真の上から活版印刷風の文字で店の紹介が書かれたものや、周囲をアイビーの葉で囲んだ清々しいもの。仕事を放り出してチラシ作りに精を出していたのではないかと、久木原は心配そうに南出を見た。

「お前、仕事したのか?」

そう聞くと、南出は呆れたように言った。

「バカか。仕事はちゃんとしました。で、どれがいい?俺は一番最初のが気に入ってるんだけど」

「うん。全部良いと思うよ」

「全部かよ?」

「ああ」

「僕にも見せてください」

「どうぞ」

藤田は受け取った見本をカウンターに並べた。藤田は立ち上がって少し離れてチラシを見ている。

「うーん。僕も南出さんと同じ。これかな?」

「雰囲気いいですよね?」

藤田が「じゃあ、決まり」と言って一番最初に見た見本を取り、他のは横に避けてしまった。

「リキは?」

「最初に見たやつが印象に残ってるな。他のも良いんだけど、これが今の《ケサランパサラン》だ、と訴えてる感じがするんだよね」

「じゃあ、これで決まりな。『パンも販売中』と付け足しておくよ」

「よろしくな」

南出は藤田に軽く会釈すると裏へと下がった。


 ドアが閉まると同時に、藤田は「南出さん、美人だなあ」と呟いた。

「ええ」

「彼とはご友人ですか?」

「ええ」

最初に『友人』と紹介したにもかかわらず、藤田は念を押してきた。

「本当に?さっき『おかえり』とおっしゃいましたよね?」

「ちょっと事情があって、しばらくの間一緒に住む事になったんですよ」

「一緒に?久木原さんはここに住んでるんですよね?」

「ええ」

「ふうん。彼、何歳ですか?」

「大学の同級生なんです。南出は誕生日が3月なんですよ。だからまだ34、かな?」

「へえ。もっと若いかと思った」

藤田は裏へと通じるドアをじっと見つめていた。

その後、南出が店に出てくることはなく、藤田は「南出さんによろしく」と言い残して帰宅した。閉店までに、雑貨を見る為に店に入ってきた女性が4人。冷やかしだろうが何だろうが、久木原には嬉しい客だった。


 久木原がシャッターを下ろす音が聞こえたのか、南出が閉店の手伝いに来た。久木原がモップで床を拭き、掃除機をかけ、南出はトイレと洗面台を掃除した。

機嫌が悪いと椅子に座って足をブラブラさせるだけで、何もしなかった岩本を思い出した。

今なら岩本の不満もわかる。"仕事"をしたくても"仕事"にならなかった店の存在は、重石にしか感じられなかったに違いない。いきなりカフェ経営に乗り出したが、閉店寸前の惨状に辛い思いをしていたのは自分だけではなかったのかもしれない。

自分たちは、互いに不満ばかりを抱えてぶつかっていた。歩み寄る事はなく空中分解してしまった2人が、再び理解しあえる日は来ないだろう。

「すぐに《SUZAKU》に行くのか?」

「ああ、行くよ」

姿見の前で黒いシャツに着替えた久木原に南出が声を掛けてきた。姿見の上部に南出の整った顔が映り込む。

端整な顔立ちは学生時代から変わらない。南出の派手ではないが整った顔立ちに惹かれる女子も多かったし、2人が一緒にいるとキャンパスはざわついたものだ。

「何時からだ?」

「すぐに出る」

「晩飯は?」

「まかない、あるって聞いたから」

「そうか」

南出は残念そうに、「ふうん」と言った。

「あ、飯、南出一人で食う事になるけど。寂しいか?」

「ガキじゃあるまいし。一人で食うよ。っていうか、いつも一人だし」

「そっか」

「一応、カレー作ったんだけど」

「カレーか」

一人暮らしでカレーを作れば、数日間はカレー浸けを覚悟する事になる。嫌いではないから温め直して3日間連続でカレーというのもありだが、煮込むのも時間が掛かるので避けていたメニューだった。

南出が鍋の蓋を開けると、カレーの匂いが鼻をくすぐった。急激に腹が減り、胃がカレーを要求し始める。

「食べたいな」

「ホント?ちょっとだけ食わない?」

「じゃあ・・・一口だけ」

南出は嬉しそうに皿にご飯をよそった。特にスパイスに拘ったというわけでもなく、長時間煮込んだわけでもない。豚肉とジャガイモと玉ねぎ、ニンジンと市販のルーを入れただけの普通のカレーだ。

「美味いよ。ありがとう」

「良かった」

何の変哲もないカレーだったが、改装初日の緊張感で張り詰めた久木原の心を緩ませる威力は十分だった。

*****

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コメント
おはようございます
クッキー頑張ってますね
藤田くんが南出くんに興味を持ったようで、今後が気になります!
なんだか南出くん、健気なんですよね…
幸せにしてあげたいです
2019/05/24(金) 08:07 | URL | はるりん #-[ 編集]
Re: はるりんさま~いらっしゃいませ♪
はるりんさま~いらっしゃいませ♪

クッキーも頑張っておりますよ。
パン職人もやってきましたが、どうやら南出くんに興味があるようですね。クッキーは鈍いからなあ(笑)

南出くんの報われない感じと藤田さんがどう絡んでくるのか、お楽しみに~♪コメントありがとうございました!
2019/05/24(金) 15:01 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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