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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

さよなら三角、また来て四角・31

 「ご馳走さまでした」と挨拶する南出に、檜山は「エレベーターまで送ってよ」と言った。

檜山が要注意人物扱いされている事など知らない南出は、奢ってもらったという負い目があるから気軽に「いいですよ」と返事をした。檜山を見送ろうと南出が立ち上がったのを見た橋本が、すぐにインカムで指示を飛ばした。

「ベニ、一緒に行っておいで」

『はーい』

ホールにいたベニちゃんが呼び戻されて、話しをながら店を出て行く2人の後ろから付いて行く。

 檜山も南出もかなり飲んでいたが、足元がふらつくと言うほどでもない。

カウンターに座っていた2人は他愛もない話しをしていたが、檜山は常に湿り気のある粘つくような視線で南出を見ていた。誰が見ても檜山の下心は見え見えで、さすがに心配になった久木原は橋本に尋ねた。

「大丈夫でしょうか?」

「ベニちゃんがいるから大丈夫だと思う」

「俺も行った方がいいでしょうか?」

「クッキーが行くと檜山さんがヘソを曲げてしまうから。ここはベニちゃん任せたほうがいいよ」

橋本は「子どもじゃないんだから」と、楽観的だ。

「はい」

檜山とは長い付き合いの橋本が言うのだからここは任せるしかない。橋本の言うように南出も子どもではない。ベニちゃんがいれば、檜山は手出しは出来はしない。

 そう考えていた矢先だった。

全員のインカムにベニちゃんの「助けて、店長!」という声が飛び込んできた。その瞬間、真っ先にカウンターから走り出たのは橋本だ。久木原は何も考えずに後を追った。

橋本の後に付いて店を飛び出したが、エレベータホールには誰もいない。エレベーターが1階で停止しているのを見た橋本は階段の方へ向かった。

久木原もそれに続いて階段を駆け上った。

「圭介さん!」

「急げ」

上階から、「店長に言いつけますからね!」というベニちゃんの声が聞こえてきた。

上で何か拙い事が起きているのは久木原にもわかった。階段を二段飛ばしで駆け上って行くにつれ、ベニちゃんの「ダメですよ!」と叫ぶ声が徐々に大きくなる。

エントランスホールに出ると3人がビルの出口付近で絡まるようにしてもみ合っているのが見えた。

檜山のジャケットを引っ張って「止めてください!」と制止するベニちゃん、檜山は南出を背後から包むようにしていた。南出は「ちょっと、ちょっと」と繰り返しながらよろよろしている。

橋本はそれを見てパンッと大きな音をさせて手を叩いた。ベニちゃんの「店長ーっ!遅ーいっ!」と言う声と、檜山の舌打ちは同時だった。

忌々しそうに橋本を見た檜山は、しれっと「あれ?圭ちゃん。わざわざ見送ってくれるのかい?」と言った。南出は檜山の腕の中だ。

「檜山さん、また出禁になりたいんですか?」

橋本は微笑みながら近付いていく。

「何を言ってるんだい、圭ちゃん。大袈裟だなあ!」

橋本は笑みを湛えたまま檜山たちに近付くと、檜山の腕から南出を救出した。

「彼が気分が悪いと言うのでね。介抱していたんだよ。なあ?ベニちゃん?」

檜山はジャケットの襟を正し、しゃあしゃあと言ってのけた。

「違います!」

ベニちゃんは橋本の後ろに隠れ、口を尖らせ目を三角にして怒っている。

「エレベーターを開けて檜山さんたちを先に乗せたら、檜山さんったら俺をエレベーターから押し出したんですよ!俺だけ置いて上に上がっちゃったクセに!」

ベニちゃんはそれだけ言うと、サッと橋本の背中に隠れた。

「誤作動だよ。誤作動。そうだろう?ベニちゃん?」

「違う!ぜーーったいに違う!」

橋本はベニちゃんの肩を叩いて「黙ってろ」と注意した。

「そうですか。大変申し訳ございませんでした。今すぐにエレベーターの管理会社を呼び点検させますので。お怪我はございませんでしたか?」

「大丈夫だよ。圭ちゃん、後はよろしく頼むよ。危ないからね。じゃあ、私はここで!南出くん、今夜は楽しかったよ」

声を掛けられた南出は目を合わさなかったが、頭を下げた。ベニちゃんが代わりに「ご馳走さまでした!」と大声で言うと、檜山は橋本に見送られて満足そうにタクシーに乗った。


「大丈夫か?南出」

「ああ」

動揺しているようではないが、南出の顔からは楽しそうな雰囲気は消え強張っている。

「南出くん、大丈夫か?」

タクシー乗り場まで見送った橋本が戻ってきて、南出の顔を覗き込んだ。

「ええ、大丈夫です。ご心配をお掛けしてすみません」

「悪かったね」

「いいえ」

「あの人、最近は落ち着いてたんだけど。余程、君を気に入ったんだね」

「ご馳走して頂きましたし、楽しかったですよ」

「そう?ごめんね。もう少し俺が抑えられたら良かったね。ごめん」

「何があったんだ?南出」

「何でもないよ。ふざけて抱き付いてきただけだよ」

ふっと目を逸らした南出は、酔いが冷めたのかいつもの南出の顔に戻っていた。


 「店は落ち着いたから、今夜は上がっていいよ」と橋本に言われて、南出と一緒に帰る事になった。

事務所に入った久木原がロッカーから私物を取り出していると、橋本がロッカールームに入ってきた。

「お疲れさま」

少し酒が入った橋本は目元がほんのりと赤くなり色っぽい。

「ありがとうございました」

「さっきの檜山さん」

「ええ」

「ちょっと問題あるんだけど、最近おりこうさんにしてたんで俺も油断してた。ごめんね」

「南出はなんとも思っていないようですから」

「そうか?」

「ええ」

「ふうん。まあ、あの人もしばらくはここへは来ないと思うけど」

「後ろから抱き付いていたくらいですから、大丈夫ですよ。それよりも大事なお客さまだったんじゃないんですか?」

「まあ、そうだけど。昔、あの人が他所の店で揉めた時、うちの社長が中に入って治めた事があってさ。それでうちには頭が上がらないんだよ。ここが嫌なら来ないけど、大丈夫。他に行く店はないからね。そのうち何事もなかったような顔でやって来るさ」

「そうですか」

「それより、山下くんの宿題、大変だね。今、猪俣が来てるんだけど、今日のところは南出くんを連れて帰れ」

「えっ?でも」

「とにかく今日は帰れ。店も落ち着いたし。ありがとう」

橋本のキッパリとした口調に逆らう事は出来なかった。


 猪俣に一言挨拶がしたいと言ったが、「俺から事情は話すから、今日は帰れ」と言って、橋本は裏口から久木原を追い出すようにして帰らせた。

地下駐車場に出ると、外には南出が待っていた。軽く手を上げた南出は、何事もなかったかのようだ。

「リキ!悪かったな。せっかく猪俣さんが来てくれてたのに」

「うん。今日は帰れって言われたんで」

「ごめん」

「俺はいいよ。南出は大丈夫か?」

「平気だよ。橋本さんも何度も謝ってくださったんだけど、俺は全然気にしてないぞ」

「そうか?ベニちゃんが慌ててたからさ、何かされたのか?」

「何も」

「ベニちゃんはエレベーターから押し出されたと言っていただろう?」

「何もないって!いきなりハグされただけだ」

「そうか」

「うん。っていうか、俺も男だぞ?おっさんにハグされてくらいで大騒ぎすんなよ!それより、帰ろう。俺も仕事だし、お前もだろ?」

「そうだな」

「何杯飲んだ?」とか《SUZAKU》の雰囲気が気に言ったとか、雑談しながらさっき全力で駆け上がった階段を並んで上る。南出はとっくに酔いが醒めたのか、ふらふらする事もないし口調もいつもと変わらなかった。

「リキ」

「なんだ?」

「この町、いい感じ」

「そうだな・・・。店が上手くいかなくて腐ってたけど、捨てる神あれば拾う神あり、って感じ。以前は『S-five』の社長が喫茶店をやっていたと聞いてパワースポットかもしれない、なんて軽い気持ちで借りたんだけどさ、完全に頼り切ってちゃってるんだよな」

「ははっ」

「しばらくは乗っかってようと思う」

「だね」

「うん」

時間が時間だけに人通りは少なくなったが、行き交う人はいまだ多い。肩を並べてマンションまで歩いた。駅前通りの木々が、風に揺られてザワッと音を立てるくらいの静かな夜だった。

 マンションの裏手に回った2人は南出の車の陰にしゃがみ込んだ男の姿を見て、自然と足が止まった。

*****

すみません。土曜日から急にネットが繋がりにくくなり、記事を保存出来なかったりしてましたwww漸く原因がわかりました。

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2019/05/28(火) 15:10 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Hさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Hさま~いらっしゃいませ♪

すみません、昨日の夜からまたネットが繋がらなくなりましてwwwドタバタしております。

南出くんも考える所があるようですね。おっさん檜山は、ずーーーっと前からこの調子なので(笑)圭ちゃんも手を焼いているようですが、長いお付き合いですからね。

またもや登場、のようですね。何をしに来たのかしら?一波乱ありますでしょうか、次話をお待ちくださいね。というか、日高の家のネット環境に喝を入れてください(泣)

レスが遅くなり申し訳ございませんでした!!コメントありがとうございました!
2019/05/29(水) 14:57 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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