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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

さよなら三角、また来て四角・36

 「いつものように」、というのは難しいものだ。そうしようとすればするほど、久木原の態度はギクシャクしてしまうのだ。

今の久木原にとって『南出との関係をいつものように』というは至難の業であるが、南出は表情を面に表さない事によってそれをしようとしているようだ。

サンドウィッチを頬張りながら濡れた髪をガシガシと拭く南出とは、いまだまともに話しを出来ないでいる。

久木原は南出との関係に向き合わなければ、と思っていた。それにはまず、彼の想いに気付けなかった事を謝らなければならない。そう思うのだが・・・。

「あのさ」

「今夜は残業」

タイミングを窺う久木原の微妙な動きを察知した南出は、久木原に「あのさ」の後を言わせなかった。そして頭を拭いていたタオルを首に掛ける。

「そうか。あのさ」

「皆が退社してからチラシを印刷するから遅くなるよ。紙は持ち込むが、私的な事に堂々と会社の備品を使うわけにはいかないからな。人がいなくなってからコピー機を借りるよ」

「そうか。でも、大丈夫か?」

「大丈夫。みんなもPTAのお知らせとかポスターとか、仲間内の旅行の栞とかやってるから」

「そうか。よろしく頼むよ。紙代は俺が払うから、請求してくれ」

「わかった」

久木原が真剣に話そうとすると南出が雑談をはじめる。切欠が掴めないままで朝食を食べ終えようとしていた。

南出としては"昨夜の件には触れるな"という事らしい。「忘れろ」とは言われたが、久木原はその件に触れずにはいられない。

「あのさ」

南出はキッと久木原を睨んだ。

「・・・何だよ?」

剣のある口調で返事をした南出は不機嫌だ。綺麗な顔をした南出が冷やりとした空気を纏うと、久木原は怯んでしまう。

「その、色々と、ごめん」

南出の眉がピクリと動いた。

「あのさ、謝られると俺が惨めになるから、止めてくれない?今度"ごめん"を言ったらぶちのめす」

「・・・ご、あっ、すまん」

「"すまん"も"ごめん"と同義語じゃないか。この、バーカ」

南出の首に掛けてあったタオルが顔に飛んできた。それは久木原の頭の上にポスッと納まった。

「・・・そ、そうだな」

「準備するから。飯、美味かったよ」

自分が使った皿とマグカップをシンクに持って行く南出に、「俺がやるからいいぞ」と声を掛ける。

「じゃあ、よろしく」

「任せろ」

南出はシンクに皿とカップを置くと、洗面所へ移動し身支度を始めた。

 南出は昨日の件に関しては平常心を保ったままで食事を終えた。久木原の発する「話し合わないか?」という雰囲気は一切無視している。

ダイニングテーブルにいる久木原から見える南出は、こちらには背を向けて歯を磨いていた。これまで気が付かなかったが、南出の腰は案外細かった。身長は岩本よりも5、6センチは高いだろう。日本人の男子の平均くらいだろうか。学生時代からガッシリとした身体つきではなかったが、それは今でも変わらない。

ダイニンクテーブルを拭きながら、椅子の背に掛けられていた南出のスーツのジャケットを見た。昨日から、全く"らしくない"南出が不思議で堪らなかった。

おかしな展開になってしまったのに、南出はここへ戻ってきてくれた。南出の計画が変更されようとしているのは間違いないのだが、久木原にはそれが予想も付かないのだ。

「あーあ」

テーブルに向かって溜息を吐く。こぼれ落ちた溜息をダスターで拭き取り、綺麗になった所にまた溜息をこぼす。3度目の溜息の後に、「こら」と南出から声を掛けられた。

顔を上げると、歯磨きが終わった南出がドアの所で腕組みをして立っていた。

「はい?」

「溜息を吐くな」

「はーい」

「溜息しか出ないんだよ」と言い返したかったが、南出の不機嫌さは久木原の溜息も言い訳も許さなかった。

「ジャケット、取って」

「おう」

久木原がジャケットを手渡すと、南出は「ありがとう」と微笑んだ。

「どう致しまして」

「あのさ」

「何だ?」

「こっち」、と南出が手招きしている。

「はあ?」

久木原が一歩近付くと、南出はいきなり久木原の腕を引き寄せた。

「何だよ?」

「バカ」

南出の整った顔が近付いてくる、と思った時には目の前に彼の瞼があった。

「・・・んっ」

軽く唇を合わせた南出は、驚くべき速さで顔を離して久木原の胸をドンと押す。押されてよろけた間に、南出はジャケットを羽織った。

「行ってきます」

まるで初めてのキスに戸惑う中学生のように口元を手で覆った久木原は、大きく目を見開いて南出の背中を見送った。南出の後ろ首から耳まで赤くなっているのを確認した久木原は、思わず「可愛い」と呟いた。


 開店したが、久木原の心はここに在らず。

 9時には藤田が食パンを届けてくれた。裏からやって来た藤田は、中を見回して言った。

「南出さんはもう出勤されたんですか?」

「ええ」

「車があったんで」

「通勤は電車ですよ」

「そうですか」

『南出』という名を聞いただけで顔がピクリと反応してしまうのを、初心な中学生のようだと自分でも情けなく思っているのに、藤田は容赦なく「昨日、ケンカでもしましたか?」と追い討ちを掛けてきた。

「いいえ!まさか!」

「そうですか?」

心当たりのある久木原は、探るような眼差しから逃れた。

「ええ」

藤田は訝しげに久木原の顔を覗き込んだ。

「昨日の夜中、ここでケンカしていたのは、もしかして久木原さんと南出さんかな、と思ったんだけど」

「してませんよ!」

「まだ0時にはなってませんでしたけど、下からケンカのような声が聞こえたんで外廊下に出てみたら、この車の辺りから声がしていたので」

ここまで言われては認めないわけにはいかない。

「ああ、すみません。まあ、色々ありまして」

「ふうん」

「お騒がせしちゃって」

藤田はニヤリとした。

「警察、呼ばれちゃいますよ」

「はい。以後、気を付けます」

藤田は納入した食パン以外に、食パンの3枚入りを5袋とクロワッサンを20個「お願いします」と言って預けていった。

今日は橋本と一緒に店舗を見て回るのだそうだ。「楽しみだな」とワクワクしている藤田を羨ましく思いながら、久木原は《ケサランパサラン》をオープンした頃の新鮮な気持ちを思い出そうと苦労しながらカウンターにパンを並べた。

 藤田は商品を並べる白木のトレーを準備していた。それに「天然酵母」「北海道産の小麦粉100%使用」と、アピールポイントを丁寧に書いたPOPを貼り付けてある。

 モーニングコーヒーを目当てに来てくれていた壮年の男性客が店の変わりように驚き中に入ってくれなかったのだが、呼び止めるタイミングを失ってしまったのは、考え事をしていて彼に気付くのが遅かったからだ。

その代わりと言ってはなんだが、子どもを幼稚園に送った帰りのママ友3人組が入ってきて、雑貨を手に取り「これ、可愛い」「こういうの欲しかった」と賑やかだ。

店に1時間程居座った彼女たちは、レジの横のマスキングテープを2つ、3つ買い、藤田のパンを手に取ってくれた。午前中はそういった具合でポツリポツリとやって来る客の相手をし、コーヒーは5杯注文された。

まずまずの滑り出しだったが、私生活の詰まりが時々頭をもたげて久木原を翻弄するのだった。

*****

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コメント
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2019/06/05(水) 07:37 | | #[ 編集]
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2019/06/05(水) 17:56 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Hさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Hさま~いらっしゃいませ♪

南出くんとしては話しを蒸し返されるのはちょっと苦しいですよね。それで平常心、平常心と唱えながら頑張っていたのではないでしょうか?

岩本と比べてお行儀の良い南出くんですが、バカを言い過ぎて軽くパニックです(笑)軽くチューして出勤しちゃいましたが、駅まで駆け足でしょうかね?

恋に不器用な2人のようです。しばらくは「もーーっ!!」とヤキモキしながらお付き合いくださいませね。コメント、大変嬉しいですよ~♪お待ちしております!!ありがとうございました!
2019/06/05(水) 23:59 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
Re: 鍵コメ・Mさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Mさま~いらっしゃいませ♪

南出くん、可愛いですよね。きっと真っ赤になって走って駅まで行きましたよ。

圭ちゃんはチョイチョイ出てきます、華恵ちゃんとコンビで(笑)テルはどうでしょうかね?圭介が「テル、テル」言うので出てきた気になってください。←違う

いつも応援ありがとうございます!コメントありがとうございました!
2019/06/06(木) 00:03 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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