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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

さよなら三角、また来て四角・39

「あれ?華恵ちゃん?そんな所で何をしてるんだ?」

「万年シングルの猪俣ちゃんじゃない!」

猪俣の声を聞き振り返った華恵は、立ち上がって大きく腕を広げた。山下が言ったとおりに、猪俣が休憩中に来てくれたのだ。それまで壁を向いてコーヒーを飲んでいた華恵は、猪俣だからいいだろうとばかりに前を向いた。

「動物園の檻ですか、ここは?」

猪俣はカウンターを指差しながら可笑しそうに聞いた。

「ちょっと事情がありまして、その、山下さんが」

「出禁ですか?」

「猪俣ちゃん!動物園だなんて、聞き捨てならないわよ!」

華恵はカウンターをバンと叩く。

「俺だって"万年シングル"は心外だ」

猪俣と華恵は仲が良いようだ。軽快な言い合いを互いが楽しんでいるのがわかる。

「あら!本当の事じゃないの?」

「華恵ちゃんと一緒にしないでくださーい。俺にはまだ運命の人が現れていないだけですから」

「あら?偶然ね。私もよ?」

「華恵ちゃんは諦めが悪いからな」

「現在、神さまが選別中なのよ。華恵の為に最高の人を選んでるんだから!」

「神さま、時間掛かり過ぎじゃねえ?」

「いつまででも待つわ」

「あははっ。待ちくたびれないようにな。檻の中で飲むコーヒーも美味いだろう?」

「キーーーッ!」と、華恵が地団駄踏んで悔しがるのを、猪俣は楽しそうに見ている。

「ふんっ。アキめ、覚えてらっしゃい!」

華恵は腕組みして口をへの字に曲げた。

「華恵ちゃんが派手なピンクを着るからだよ。もう少し大人しめの色にしたら、山下店長も何も言わないんじゃないのか?」

猪俣に「なあ?」と、同意を求められた久木原は頷いた。華恵が着るショッキングピンクは強烈だ。これが客足を遠退かせていたのは証言も得ている。

「これは華恵の勝負色なのよ!」

山下に注意されても信念を曲げず胸を張る華恵に、久木原も猪俣も苦笑いしかない。

「じゃあ、仕方がないね。選別中の神さまも条件が厳しいから大変だ」

「ふんっ」

華恵はプイッと背中を向けた。猪俣はやれやれと言わんばかりの表情で笑い、久木原にファイルを寄越した。

「昨日はすみませんでした。先に帰っちゃって」

「圭介さんから連絡もらいましたんで。大変だったみたいですね」

「ええ、まあ」

「檜山さんにつける薬はないんで。メニューですけど、いくつか考えてはみたんですが」

渡されたファイルを捲る。壁を向いていた華恵も気になるのか首を伸ばしている。山下のフレンチトーストをアレンジしてアイスクリームをのせたものや、シフォンケーキにクロワッサンサンド。

「紹介されたパン職人さんに頼んでシフォンケーキを焼いてもらうのはどうですか?切って飾り付けて出せばいいわけですから」

猪俣はファイルに挟んであった生クリームがかかったシフォンケーキの写真を指した。

「それだとここで販売も出来ますよね」

話している間に、チャリンと音がして若い女性が入って来た。雑貨に興味があるのか、陳列されている商品を熱心に見ている。

「今のところ、飲食よりも雑貨の方がお客さまが多いんですよ。一人でやってるんで、簡単に出せる物の方が助かります」

「パン職人さんとは連絡付かないんですか?」

「今日は橋本さんと一緒に内見に行ってるんですよ。そろそろ戻ってくるんじゃないかと思うんですが」

若い女性はディスプレイ棚を一通り見て回り、先日売れたつる草のオーバル皿を手に取るとカウンターに近づいて来た。

「すみません。これ、ください」

「ありがとうございます」

「実はこれを見てきたんですが」

女性の手元にあるスマホには、《ケサランパサラン》と自分の写真が載っていた。

「ああ、これ。俺です」

その写真は我ながら良い写りだ。

「この人のインスタを見て来たんですよ」

「そうですか!ありがとうございます!」

店内を撮影して回っていた痩せ型の女性の顔を思い出した。早速、インスタの効果が現れて驚くばかりだ。

彼女はライトの加減にこだわり、カウンターに置いてあったグリーンの位置も自分で決めた女性が撮った写真は、普段の自分よりも3割増しだと思う。

「この人、インスタで素敵なカフェとかお店を紹介してくれるんですよ」

インスタの写真の中に、一緒に来店した女性が購入したブルーのつる草のオーバル皿とマグカップがあった。

「このお皿、実は私も探してたんです。このお皿、料理研究家のチャーミーさんが使ってて、人気があるんですよ」

「へえ。知りませんでした」

「オーバル皿を大小3枚ずつ揃えたいんです。注文は出来ますか?」

「ええ!もちろんです。在庫があれば明日にでもお渡し出来ると思いますが」

「お願いします」

女性はカウンターにいた猪俣を見て笑顔になった。猪俣の隣に座りコーヒーを注文すると、猪俣が気になるのか時々視線を送っている。その間に電話で在庫を確認し、明日の午前中に届けてもらえる事になった。


「はあっ」

女性が店を出た瞬間、華恵が大きな溜息をこぼした。華恵は邪魔にならないように隅っこで小さくなっていたのだ。久木原が気の毒になるくらい大人しくしていたので、女性も華恵の存在が気にならなかったようだ。

電話で平井の会社の在庫を確認し、彼女には明日再び来店してもらう事になった。

「すみません、華恵ちゃん」

「壁になるのも大変だわ」

猪俣は「壁の花だね」と、大人しくしていたご褒美のように言った。

「・・・まあ、花なら許すわ」

「完璧に壁に溶け込んでいたよ」

それを聞いた華恵は、「褒められてる気がしないわ」と言って立ち上がった。時計を見るとすでに5時だ。

「今日もお仕事、頑張ってくるわね」

「頑張ってください」

華恵はピンクのバッグから鏡を取り出して化粧のチェックをし、裏口から出て行った。それに倣うように猪俣も立ち上がる。

「今は雑貨目当ての客が多いようだけど、美味いもんを出せばそっちの客も増えますよ」

「まあ、そうなんですけど。俺の技量が伴わないでは・・・」

「うーん。だが努力して得たものは全て自分に返ってきますよ?」

「そう、ですか・・・」

「一ヶ月あるんだ。久木原さんが自信を持って出せるものを考えましょうよ。SNSは侮れないですからね。1日、2日で次の客が来たわけですよね?さっきの彼女が自分のインスタに皿の写真をUPしたら、他にも欲しい人が来ますよ?チャーミーって確か、テレビで献立に困っている主婦をお助けするとかいう企画をやってる人ですよ。さっきの彼女も探してたって言ってましたから、他の人も探してる可能性がある」

「確かに」

「山下店長からも最後まで面倒を見てくれと頼まれていますから、付き合いますよ。シフォンケーキもいいが、納得出来るものを考えましょう」

「ありがとうございます。お願いします」

猪俣は親指を立ててニヤッと笑う。
 
*****

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