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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

さよなら三角、また来て四角・66

 電話を切った久木原は、南出の残していった荷物を見つめて呆然としていた。

 確かに彼はここで生活していた。ここに在る荷物は"当座の荷物"であって、彼の部屋にあった全てではない。数日分の下着やパジャマ。シャツが数枚とスーツが2着。革靴が2足とスニーカー。何日間かここで生活するには不自由ない分量のものしか、ここには持ってきていない。

「どういう事だ?」

スマホを開いてみても、メールの返信はなし。着信もない。南出自身の意思で退職して行方をくらませたのだとは思うが、不可解な事ばかりだった。

「実家の手伝い?あいつの家って自営業だったっけ?」

普通のサラリーマン家庭だったと記憶しているが、親が退職して起業したとも考えられる。それにしても久木原に一言も言わずに退職し、出張と偽って出て行って連絡も寄越さないとは・・・。

「俺、すでに捨てられたわけ?」

たった一回のセックスで飽きられてしまった、という事なのか。それとも南出の言う10年間の想いが遂げられたから、もう思い残す事はないという事なのか。

「わからん」

ガックリと肩を落として、久木原は店に戻った。


 その後、華恵が来たが相手をする気にもならず「今日はごめんなさい」と断った。ふわふわとした心地で気持ちが落ち着かない久木原は、ミスを連発していたのだ。

気落ちした久木原の只ならぬ様子に、さすがの華恵も目を丸くして「缶コーヒーを買うから、気にしないでちょうだい!」と言って帰った。華恵には練習に作ったサンドウィッチと試作品の玉子焼きを持たせた。

それでも客には笑顔で接しなければならない。写真を頼まれれば引き攣った顔で応じ、心で「平常心」と繰り返しながら営業を続けた。

後は南出がここへ戻って来てくれるのを願うしかない。


 サンドウィッチどころではなくなった。

南出とは連絡が付かないまま閉店時間を迎えた久木原は、このまま《325》へ行けば確実に猪俣たちに迷惑を掛けるという自信があった。

「はあっ」

昆布で出汁を取りながら、深い溜息を吐いた。スマホには時々、不要なセールスのメールが届くのだ。その度に急いでメールを開き、思いっきりガッカリする。

午後9時を過ぎてもここへ戻らない南出に痺れを切らせた久木原は、こうなったら南出の部屋に押しかけてやると決意した。猪俣には「急用で」と断りの電話を入れ、急いで電車に乗った。

 南出が住んでいるマンションには、何度か行った事がある。

とはいえ岩本と付き合い始める前の事だから、かれこれ4年程前の事だ。引っ越したという話しは聞いていないから、前の部屋に住んでいるに違いない。

会ったら何を言おうか、まずは電話やメールを無視し続けた事への文句を言ってやる。勇んで電車を降り、南出の住むマンションへと向かった。

 駅の周辺は、以前ここへ来た時と大した変化はないようだ。ファストフードの店がうどんのチェーン店に替わり、古い建物がファッショナブルなビルに建て替わった。

駅から徒歩15分くらいの閑静な住宅街の一角に、南出の住むマンションは建っている。駅から遠い方が駐車場が安く借りられると、話していたのを覚えている。

マンションの奥の駐車場を見ると、確かに南出の車が置いてある。ここに「いる」、と確信して久木原は南出の部屋の番号を呼び出した。

『はい』

「南出?」

『あっ』

「あっ、じゃないよ!開けろ」

『あははっ』

笑い声と重なるようにしてロックを解除する音がして、自動ドアが開いた。


 エレベーターに乗ると、沸々と怒りが込み上げてくる。インターフォン越しに聞こえてきた南出の笑い声にムカついている。何か事故にでも巻き込まれたのではないか、と心配して損したと久木原はエレベーターのドアを睨む。

「笑ってやがる。何がおかしいんだよ?」

ドアが開くのを待ち切れずに半分開いたところで強引に外に出ると、一目散に南出の部屋を目指した。エレベーターホールから部屋の方を見ると、南出がドアを開けて顔を出した。

「よう!」

いつもと変わらぬ態度で笑顔を見せる南出に、さっきまで感じていた怒りに安堵感が混じってくる。無事でいた事がまずは嬉しかったのだが、無視され続けていた事への怒りがそれをはるかに上回る。

「何が、よう、だよ!」

「ごめん、ごめん!」

堪らず走り出した久木原はドアを掴んで勢い良く全開にした。

「お前!」

南出は「シーッ!」と唇に指を当てた。

「もう夜ですから。お静かに」

南出は微笑みながら久木原を部屋に引っ張り込んだ。


 ドアが閉まった瞬間に、久木原は南出の身体をギュッと抱き締めて胸一杯に南出の匂いを吸い込んだ。

「どこにいたんだよ!」

「苦しいよ」

「言えよ!出張とか、噓ばっか言いやがって!」

「ここにいたよ」

「ここに?」

「ああ」

あっさりと「ここにいた」と言う南出に呆れてしまう。南出は久木原を押して腕から逃れると、「上がれよ」と久木原に靴を脱ぐように言った。

「本当にここにいたのか?出張は?」

「何度も聞くなって!出張は噓だよ。俺は退職したのに出張するわけがないだろうが」

からかわれているのだろうか。

「本当にここにいたのか?」

「お前はバカか?ここだってば」

南出に付いて短い廊下を進み、1Kの部屋に案内された。

「ごめん、ソファーないんだ」

その言葉どおり、ソファーがない。

ソファーどころかあったはずのベッドもない。部屋から家具が消えていた。ある物は部屋の隅に畳んで置かれた布団とダンボール箱。南出がいなければ誰も住んでいないようにさえ見える。

「ここで何をしていたんだよ?」

「内緒」

「内緒?」

「噓」

南出はクスッと笑った。さすがにムッとした久木原は苛立ちを露わにした。

「お前、噓ばっかだな?」

思わず睨むが、南出は嬉しそうに笑っているばかり。

「お前、会社に電話したんだって?」

心配して掛けた電話だったのに、逆に咎めるように言われて腹が立ってくる。

「した。悪いかよ?」

「女の子から電話があった」

「何で辞めたんだよ?」

「辞めたかったから」

「それ、理由になるか?」

「なるさ。退職金130万円也」

南出は「ジャーン!」、と言いながらクリアファイルを見せた。

「安いよな。10年以上働いたのにさ。失業保険って、いくらもらえるんだろう?」

「退職金はどうでもいいだろう!」

「大事だろ?お前、失業保険はいくらもらった?」

「南出!」

南出は退職金の明細書が入っているクリアファイルを久木原の胸に押し付けた。

「失職したからお前が雇ってよ」

「はあ?」

「ここには住めないから、本格的にお前んちに引っ越しまーす!」

あっけらかんと言われて呆れた。

「バカじゃないのか」

「バカじゃない。お前だっていきなり辞めただろ?」

「それは・・・」

「後先考えずにスッパリ辞めたじゃないか?」

「それは」

「岩本のバカは雇えても俺は雇えないのか?」

「それは」

「それは、しか言ってないぞ。理季」

南出はクリアファイルに入っていた退職金の明細書の後ろから違う書類を取り出した。

「俺とお前は違うだろう!?」

「違わない。お前が何だかんだ言ったって、もう辞めちゃったんだからさ。どうしようもないだろう?俺、すでに職なしだぞ?お願いします、雇ってください!」

南出が取り出したの履歴書だった。それを久木原に渡すと、南出はピッと腕を両脇で揃えて90度に腰を折った。衝撃と言うよりも、混乱だ。

*****

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コメント
拍手鍵コメ・aさま~いらっしゃいませ♪
aさま~いらっしゃいませ♪

南出くん、普通にいましたね(笑)

南出くんの気持ち等々は次話で!どっちにしろ、久木原に多くは期待していないような(笑)色々書けないのでごめんなさいっ!

ヘタレ君に応援ありがとうございます!!お話も終盤ですから。もうしばらくお付き合いくださいませね!

拍手&コメントありがとうございました!
2019/07/18(木) 07:02 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2019/07/18(木) 17:09 | | #[ 編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2019/07/18(木) 18:37 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Mさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Mさま~いらっしゃいませ♪

南出くんの行動力にはビックリですね!久木原に任せていたら話しが進まないっ!と言う感じでしょうか?

10年も待っていたわけですから、ここで手を緩める気はないようですよ。

そうです、そうです!!チャンスの女神様には前髪しかないんですよ。しっかりと掴まないとね!どこかの蝦名くんが言っておりましたな!

クッキーにもこの際ですから、そこのところをよーーく叩き込んで欲しいもんです、頑張れ南出くん!

しっかりと尻に敷かれて、お尻叩かれてクッキーは成長するんじゃないでしょうか?これまで付き合った事のないタイプの南出くんですから、新鮮でいいのかも!

南出くんが幸運の女神、なるほど!!そうかもしれませんね!そうだといいですね。

なかなか梅雨が明けませんね。台風も近付いてまして、雨、風共に強いです。台風が過ぎたら梅雨明けかな?と期待しております。Mさまもご自愛くださいませね。

投票所は20日か21日辺りに設置しようと現在準備中です。少々、お待ちくださいませね!よろしくご参加くださいませ。

コメントありがとうございました!
2019/07/18(木) 23:16 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
Re: 鍵コメ・Sさま~いらっしゃいませ♪
Sさま、こんばんは~!いらっしゃいませ♪

クッキー、今日は華恵ちゃんを帰しちゃいましたね。後ろで色々言われたら凹むからかな?(笑)

華恵ちゃんも店でサンドウィッチを食べながら、「どうしたのかしら?」と心配してるんじゃないでしょうか?もしくは「ヤり過ぎて南出ちゃんに嫌われちゃったんじゃないの!?」と、ブツクサ言ってるかも。

「どよよーんなクッキーも悩ましいわ~!」と興奮してるかもですね。

> おお!クッキー!南出くんの元へε=┌(;・∀・)┘エッサホイサ

とうとう行きまーす!昆布出汁と格闘するのも南出くんの為なんですけどね。グズグズしてるよりもGO、GO!まあ、ヒーロー枠じゃないですから、クッキーは。

> ヘタレにはヘタレの意地があるからなっ←はぁ?w

ええ、そのとおり!!

南出くんは藤田さんちじゃなかったね!良かった、良かった!ザイオンスが動き出すかも!?

クッキーの「それは」連発(笑)やっぱ、わかります?ふふふっ。

南出くんもちゃんと考えてるんですよ。彼は策士ですから。
まだまだ不安定な状態ですけれども、しっかり者の南出くんとヘタレ・久木原。案外、いいコンビなのかな?

ヒロムの現場の恋の物語ですと!!全く浮かばないwww親方とラブラブ~!とか?あっ、親方と仲良くなってサボるとか?いかーん!!ちゃんと働け!というわけで、却下です(笑)

楽しいコメント、今日もありがとうございました!
2019/07/18(木) 23:40 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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