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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

さやさやと流るるが如く・15






 菜那美はチアリーダーの格好のままで、派手なスカジャンを羽織って出勤した。

徐々に客も増えてきて、弓川も俺らの所にばかりいるわけにもいかなくなった。次々にやって来る常連客の興味津々な視線から"彼"を守るべく、個室の前の達磨の暖簾を下ろしている。

「名前、カナタっていうんだね」

「そうだよ」

これまで名字しか教えてくれなかったクセに、さらっと「そうだよ」と答えるから小憎らしい。

「漢字はどう書くの?」

「叶えるに多い、でカナタ。多くの望みを叶える子であるように、と父が名付けてくれたんだ」

「へえ」

"水内叶多"か。

「欧介さんは?」

急に"欧介さん"と呼ばれて、ドキッとした。

「名前の由来?」

「そう」

「うーん?親に名前の由来なんか聞いた事がないな」

「そうなの?兄弟は?」

「兄と弟がいる」

「いいな」

「欧介さん」と呼ばれたから、「叶多くん」と呼んでもいいのかな?弓川は初対面でも「叶多くん」と呼んでいたのだから、俺がそう呼んでもおかしくない。

迷ったが、一気に距離を縮めたかった。

「叶多くんは?」

「水内くん」ではなく「叶多くん」と呼ばれても"彼"は動じない。

「僕は一人っ子なんだ」

「へえ!小さい頃は一人っ子が羨ましかったよ」

「そうかな?僕はお兄ちゃんが欲しかったし、弟が欲しかった。兄弟がいる人が羨ましかったよ。優しいお姉さんがいたらなあ、と思ったし」

「一人っ子がいいさ。お菓子も玩具もゲームも独り占めだろ?兄弟がいたら取り合いで、壮絶だったぞ。親戚が持ってくるお菓子が3で割り切れなかったら、戦いが始まる」

俺がファインティングポーズを作ってみせると、叶多は「あははっ」と笑った。

「賑やかなの、好き。楽しいじゃないか」

「毎日ケンカだったよ。一人っ子はいいな~って、3人とも口癖のように言ってたな」

「兄弟は多い方がいいよ」

今となっては、兄弟の存在はありがたい。

「今となってはね」

親には理解出来ない事でも、兄弟ならわかってくれたりする。

オトコしか受け付けない俺の性癖に最初に気付いたのは兄だったし、それを「へえ、そうなんだ」と普通に受け入れてくれたのは弟だった。親世代には理解し難く受け入れ難い事でも、兄と弟は「別にいいよ」と言ってくれた。

「子どもは僕しかいないから、小さい頃から母の期待が大きくてね。学校の成績が良くないと気にするし、塾だの、お受験だの、って母には振り回されたな。早く結婚して孫の顔を見せてくれ、とか」

「ああ、孫は言われるね」

「欧介さんは恋人はいないんだよね」

「ああ、いないよ」

「僕と一緒だね」

そうか、いないのか。

同じ空気を感じる。おそらく彼もご同類だ。

ほんのりと赤くなった目元から、瞬きと共に艶やかな輝きが発せられる。それはオトコをその気にさせる。彼の瞬きの度に俺の心は浮ついて、収拾が付かなくなる。

叶多はそれに気付いているのだろうか。

「もう飲まないのか?」

駅で彼に微笑まれる前から生まれていた下心を膨らませている俺は、空になったグラスを指差した。叶多は首を振った。

「飲むよ。だって、明日は休みだし」

暖簾の向こうから「ガハハッ」と、弓川の下品な笑い声が聞こえる。カウンターに陣取った常連客が、俺が連れて来た超美人に興味津々で、いつ達磨の暖簾が開くのかと待ち構えているのはわかっていた。

「おーい!弓川!」

暖簾を跳ね上げて弓川を呼ぶと、待ってましたとばかりに「はーい!」と返事があった。いつもならもっと時間が掛かるのにダッシュでここまで来た弓川は、尻で俺を押してわざわざ席に座った。

「お待たせしました~!」

「注文取るだけなのに座るのか?お前は」

「堅苦しい事を言うなよ、永瀬。さて、叶多くんは何を飲むのかな!?」

完全に前のめりだ。

「スパークリングワインが飲みたいんだけど」

叶多は俺の目を見て言った。酔わせてもいいんだな?

「じゃあ、1本持ってきてくれ」

「えーっ!一杯ずつ頼めよ!」

一杯ずつ頼めば、何度も彼を拝める。そうは問屋が下ろすもんか。

「1本だ」

ねばる弓川を尻で押すと、不平そうに睨んで立ち上がった。

「・・・畏まりました~!」

弓川はわざと大きく暖簾を開けた。カウンターに座っている見慣れた客たちの視線はすでにここに集中していた。カウンターの連中が息を飲む。あんぐりと口を開けているやつもいる。

「さっさと閉めろ」

「はーい!」

その不躾な視線が気になって「もっと良い店に移動しようか?」と声を掛けたが、叶多は気にしていない。

「ここがいいよ。楽しいじゃないか」

「そう?」

どうせなら初デートはここではない方が良かったな。

「《世界の果て》にも行きたいし」

「本気か?」

「本気だよ。面白そうじゃないか」

「まあ、楽しいが」

「じゃあ、1本空けたら、行こうよ」

「いいよ」

マジで世界の果てに追い遣りたいくらいの集団なんだが、アットホームでガチャガチャしていて、ここ以上にざっくばらんなオカマバーを叶多は気に入るだろうか。

 天使の絵のラベルのスパークリングワインの封を開けた弓川が、図々しくも「一杯飲ませて」と叶多に注いでもらっている。

「美人に注いでもらうと、味が違うな」

弓川は3人分のグラスの他に、注文していないチーズの盛り合わせとピスタチオを運んできて、俺の隣に座り本格的に飲み始めた。キンキンに冷えた甘口のスパークリングワインは、口当たりが良く飲み易い。

「お前、店の方はいいのか?」

「大丈夫。勝手にやるから」

「勝手にやるの?誰が?」

「客。俺がいなくても必要になったらカウンターに入って酒を作るし、シェイカーを振るやつもいるよ」

「勝手に冷蔵庫を開けてつまみを作る客もいれば、焼き鳥とか買いに行って食う客もいる。そうやってドンブリ勘定で会計するから、儲からないんだよ。ここは」

「そう言う永瀬も、駅前で買ったたこ焼きを持ってきてここで食うんだぜ」

「へえ」

「違うだろ!あの時は部屋で食べようと思ってたこ焼きを買ったところで、お前が来いと電話してきたんだろうが」

「売り上げが悪くてピンチだったんだ。稼ぎが悪いと菜那美に袋叩きにされるからな」

「菜那美さんは強いんですね」

「そうなんだ!叶多くん、これからは毎日通ってよ?」

「はい」

「やったー!」

バンザイする弓川に呆れていると、叶多と目が合う。駅で会う"彼"とは違って親しみ易くて可愛らしい。

これが本来の"水内叶多"のようだ。

*****

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「圭介さん&輝也」がじわじわと追い上げていますね。山下、このまま逃げ切れますでしょうか?意外と頑張っているのが「稲村くん」ですね。「稲村さん」というのが後から追加されていますが、合算はしませんのでご注意くださいませ。

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