FC2ブログ

『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

さやさやと流るるが如く・42






 叶多は翌日、母親を迎えに行った。

そして自分の部屋を母親に明け渡し、身の回りの品を俺の部屋に運び込んだ。タクシーで俺の部屋に乗り付けて、俺が仕事から帰った時には簡単な引越しが終わっていた。

引越しの手伝いには菜那美が来てくれていた。いつの間にそういう仲になったのか、菜那美とは気が合うようでメッセージのやり取りをしているから驚いた。

「お母さん、どうだった?」

「うん。家に3人が乗り込んできたんだって」

叶多は可笑しそうに俺に報告した。

 葬儀の後、本妻と2人の娘は鎌倉の江原寿美子の所に行き激しく罵ったのだそうだ。躾のなっていない息子を散々罵倒し、積年の恨みを晴らすかのように3人は家の中を無茶苦茶にして去っていたという。

叶多はそれを「当然」と受け止めている。

「息子に大恥を掻かされた、と凄い剣幕だったってさ」

「だろうね。お母さんは大丈夫だったのか?」

「全然、平気。散々言われたから、母も色々とぶちまけたそうだよ」

『色々』の中に叶多の事も含まれていたのかはわからないが、"夫"を亡くした寿美子に怖いものなどないはず。

「今すぐに家を明け渡せ、と言われて着の身着のままで家から出されたんだって。一晩中電話したのよ、って煩かったよ」

昨日から、叶多は母からの電話を一切無視していた。留守番電話を聞き、漸く今朝、鎌倉へ迎えに行ったのだ。

「そうか。お母さんは気の毒だったね」

俺がそう言うと、叶多はブンブンと首を振った。

「全然。僕が参列して祭壇に向かってバカヤロウと叫んだと聞いて、手を叩いて笑っていたよ。よくやってくれたわ、って褒められたし」

寿美子にしてみれば「ざまあみろ」って所かな?

「褒められた、ね」

「そう。清々した、ってさ」

「これからの生活はどうするんだ?叶多が面倒を見るのか?一緒に住むのか?」

「まさか!僕は今後一切、関わりたくないと伝えたよ。一緒に住むなんて、絶対に嫌だ。それに母は金は持ってるんだ」

「えっ?」

叶多はムスッとして口を尖らせた。

「通帳を渡したから、入院費にも困っているんじゃなかったのか?」

「噓、噓!大嘘だよ。あの女、ちゃんと隠していたよ。ちゃっかりしてるよ、全く」

吐き捨てるように言うと、ギリッと唇を噛んだ。

「隠していた?」

「うん。娘に"あの人"の通帳を渡したから金がない、と僕には言ったんだよ。通帳を渡したのは本当だ。僕はそれなりに心配して、入院費を工面しなければならないから定期預金を解約しようか、とか考えて損したよ。"あの人"の通帳は一つじゃなかった。ちゃんと母の生活が立ち行くように現金を残してあったんだ。母はそれを持って家を出た」

"父"が"あの人"に変わった。

「あったんだ」

「転んでもタダでは起きないよ」

「そうか・・・。でも、まあ、良かったじゃないか」

「うん。なけなしの500万を伯父に渡したような事を言っていたけど、あれも"あの人"が出したみたいだ。それに"あの人"に習ったFXで儲けているんだよ。パソコンなんて扱えない、みたいな顔をしていたのにさ。今頃になって"あの人"の一番弟子だ、なんて言うんだよ?毎年1000万は稼いでるらしい。今はマンションを探している」

「ふうん」

強かな女だ。叶多の言うように、転んでもタダでは起きない。

「僕の部屋から早く出て行って欲しいから、慶弔休暇の間は不動産屋周りに付き合う事にしたんだ」

「それがいい」

叶多はスマホで不動産サイトを探し始めた。

「思いっきり遠くに住んで欲しいんだけど・・・。北海道はいいかもね。いっその事、海外はどうかな?」

「海外移住」で検索しているところを見ると、満更、冗談でもなさそうだった。


「あのね、欧介の部屋に居候してるって、言っちゃった」

スマホを見ながら叶多が言った。

「ああ、構わないよ」

返事をしても俺を見ない。

「僕たちの関係も」

「ああ、いいよ」

スマホの画面から目は離れないが、叶多は寂しそうな声でボソリと呟いた。

「ごめんね、って」

母親は、"父"と叶多を取り持った事を謝ったのだろう。

「それだけか?」

「うん」

「それだけで、叶多は"わかって"やったのか?」

「わかってやった。僕がオトコだけしか好きになれなくなったのは、一応は自分の所為だと思ってるみたい。欧介の部屋に泊めてもらっていると言ったら、良かったわね、ってさ」

叶多は漸く顔を上げた。"父"の為に流した涙が、彼の心の澱を全て洗い流してしまったのだろうか。曇りのない眼には晴れた空のような清々しさが見える。

「・・・俺の方が納得いかないんだけど?」

「うん。僕も最初はそう思った。母が外出する度に"あの人"に圧し掛かられて、僕が喜んでいるとでも思っていたのか、ってね。僕のおかげで良い生活させてもらってたんじゃないか。ふざけんな。でも、それも"今更"なんだよ。"あの人"、死んじゃったしね。覆水盆に返らず、だ。僕は高校も大学も、学費は"あの人"の世話にはならなかった。でも考えてみれば、衣食住を支えてくれたのは"あの人"だ。高校の制服だって、あの人の金で買った物だからね。結局は、恩恵を受けていたのは母だけじゃないんだよね。僕も同じ穴のムジナなんだよ」

「叶多」


そうじゃない。お前は十分過ぎる代償を払ったじゃないか。

もっと母親を憎んでもいいんだぞ。全てを返せ、と抗議しろ。


「欧介、いいんだ。わかってる。そんな目をして僕を見ないでよ。僕はもう、可哀相な子どもじゃないんだから」

俺の気持ちが余計に彼をキズ付けてしまったのだろうか。叶多は嘘吐きだから、何でもないと笑ってみせた。

「ごめん」

「"あの人"の庇護がなければ、あの家で贅沢に暮らせなかったからね。金の心配ばかりして暮らすのと、しなくていいのとでは大きな差だよ」

彼はわかっていた。自分だけが被害者面していいわけではないのだ、と。

「おかげで、少々ひねくれてるけどね」

「あははっ。ひねくれ者でごめん」

「うん。そこも可愛いよ」

「そう?欧介もひねくれてるよね?」

「バレた?」

「うん」

もう殴られることはなくなった宇宙人とウサギは、平和な時を過ごしている。俺はひねくれていても叶多が好きだった。


 叶多は慶弔休暇の間に母の新居を決めた。少々強引だった、と本人が言うように母の意見など聞かずに、手頃な賃貸マンションを借りたようだ。

母の希望としては老後の事も考えて、介護付きマンションをじっくりと検討して買いたかったようだが、とりあえずと説得して1LDKのマンションを借りた。

叶多と一緒に住めるようなファミリータイプを借りたい、と母は主張したが叶多は断固拒否した。同時に、叶多は住んでいたマンションを解約した。住んでいる所を母親に知られたくないのだ。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

「辰弥&奏 見守り隊!ファイティン!」さん他、辰弥&奏ちゃんへのコメントは応援系は多いですね!「どうかどうか会わせて下さいー(懇願型)」、と翔太へのコメントは懇願系が多い(笑)皆さま、楽しいコメントをありがとうございます!毎日、ワクワクしながら読ませて頂いております♪

   日高千湖

ランキングに参加しております、良かったらポチッと押してやってください♪
   ↓
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村  
 
ありがとうございました!
関連記事
スポンサーサイト



コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

日高千湖

Author:日高千湖
日高千湖のBL小説ブログへようこそ♪





無料アクセス解析



こちらはオリジナルBL小説ブログです。BLという言葉なんて知らない、嫌悪感を抱くとおっしゃる方は回避願います。

旧ブログ『薄き袂に宿る月影』をご愛顧頂きました皆さまには、ご迷惑をお掛けしております。

旧ブログ内で公開しておりました作品につきましては順次こちらでも公開して参ります。また、旧ブログで公開中の作品は今のところそのまま残しておりますが、こちらへは改稿した上でUP致します。こちらへ移転後は旧ブログでの公開は見合わせたいと思いますのでご了承下さいませ。

左上の【Sitemap】をクリックして頂きますと過去3ヶ月の更新記事がお読みになれます。お久しぶりの方、読み逃がした方はこちらが便利です♪

サイトマップ代わりに【目次と登場人物紹介】というカテゴリを作成しましたので、そちらをご利用下さい。

★拙作ではございますが、著作権は放棄しておりません。お持ち帰りはご遠慮願います。

★大変お手数ではございますが、リンクをご希望の方はコメント欄にてお知らせ頂けると嬉しいです♪よろしくお願い致します。


ランキングに参加しております。良かったら押してやって下さい!
  ↓

にほんブログ村


ありがとうございました!

★尚、拍手コメントくださいました方へのお返事は、コメントを頂いた記事のコメント欄にて書かせて頂いております。ご確認下さいませ★

では、ごゆっくりどうぞ♪

最新記事
カテゴリ
最新コメント
FC2カウンター
リンク
QRコード
QR
フリーエリア