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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

さやさやと流るるが如く・44






 俺と叶多の真ん中に座った厚志。

厚志はすでに酔っているから、叶多の不機嫌の良し悪しなど一切気にしなかった。

俺を「おーちゃん」、弓川を「健ちゃん」と呼び、親しげに話し続ける。しかも付き合っていた頃を懐かしんで、昔話をあれやこれやと。

時々、叶多に「ねえ?」と同意を求めたり、肩を叩いたりするから、カウンターにいる弓川の方が慌ててしまう。

そうやって気軽に厚志は声を掛けるが、叶多は全く乗ってこないので会話は弾むはずもない。叶多は普通にしていてもツンと澄ましている感じがするが、今夜はそれに拍車が掛かっていて、それを真正面で見ている弓川が顔を引き攣らせたり、青くなったりするのが気の毒だった。

厚志は2年前と変わらない。可愛い顔をして、朗らかだ。叶多とは正反対のタイプで、能天気だ。


 2年前、厚志と俺は恋人同士だった。

厚志はバーで働いていた。そのバーにはウリ専も出入りしていたし、それを買う為にやって来る客もいた。ウリ専目的ではなく、オトコ同士の出会いを求めてやって来る客も多くいて、俺らはそこで出会った。

 ある日、厚志を店に迎えにいくと下津浦明鷹がいた。会社で自分の性癖を言いふらす必要はないから黙っていたのだが、両刀の下津浦には、すでにバレていたようだ。

仕事が終わった厚志も加わり、同じテーブルで3人で飲んだ。その頃の俺は、下津浦の事は調子の良いお坊っちゃん。甘やかされて育った跡取り息子、くらいにしか考えていなかったのだ。

新人研修の時に取っ組み合いの大喧嘩をした俺たちは、社でも仲が良い方ではなかった。だが下津浦は、何かというと俺に声を掛けてきた。それはそれで、下手に出てくる下津浦を鼻であしらってやるのは気分が良かったんだけどね。

 その夜は、下津浦の弱みを握ったような気がして楽しかったし、3人で大いに盛り上がった。その後、下津浦が気に入ったウリ専に声を掛け、ホテルに入ったのも知っている。

翌日、会社で「また一緒に飲もうな」と声を掛けられ、ヤツの秘密を握っておくのも悪くはない、そう考えていた。

 それからしばらくして、厚志は俺から離れていった。それまでは厚志の方から、「今夜、迎えに来て」「今夜、おーちゃんの部屋に泊まるから」と連絡が来ていたのだが、急にそれがなくなった。

連絡は取らなくなったが、元々バーのスタッフという仕事柄、昼間のメッセージには返事が返って来ない事も多かったのだ。俺はそれを気にも留めていなかった。

 厚志と連絡し合わなくなって一ヶ月。厚志が俺から下津浦に乗り換えたとわかった。厚志が勤めている店に出入りしていたウリ専の子が教えてくれたのだ。

厚志の心変わりも許せる。彼を奪われて惜しかったわけではない。下津浦の人のものを欲しがる性分が気に入らない。


「ねえ!おーちゃん」

酔った厚志が俺の腕を掴んで揺さぶった。

「今度、おーちゃんと呼んだら、ぶっ殺す」

「物騒なおーちゃん、好き~!」

厚志が身体ごと俺に寄ってきて、体重を預けてくる。俺はそれを押し返したが、押し過ぎて厚志は叶多にぶつかった。「ごめん!ごめん!」と酔っ払いが謝った。叶多は迷惑そうな顔をしたが、文句を言うでもなく「大丈夫ですか?」と気遣いさえ見せる。

「厚志、いい加減にしろ」

「あははっ、ごめーん!」

叶多は弓川とばかり話して、俺の方を見ることはない。厚志は「おーちゃん、おーちゃん」と呼びながら腕にしがみ付いて離れない。絶対に嫌がらせだとわかっているから相手にしないのが一番なのだが、今のところ厚志から嫌がらせを受けるような覚えもないんだが。

俺と別れて丸2年。これまで一度も自分からコンタクトを取ってこなかった厚志が、今頃になって偶然ここに顔を出すだろうか?


「もう、帰れよ。お前」

「やだーーーっ!おーちゃんの事、だーい好きなのに」

厚志は腕をギューッと掴み、俺を見上げた。

「またオトコに逃げられたのか?」

「また、って!またって言う!?逃げられてませんっ!オトコはいませんっ!僕ちゃんは可哀相な独り身なんです。久し振りにおーちゃんの顔でも見ようとここに来たら、美人の彼氏が出来てました!」

キリッとした顔を作ったつもりだろうが、かなり間の抜けた顔で敬礼してみせた。そしてフラフラと立ち上がって、「トイレ」と言って歩いて行く。トイレのドアが閉まったのを確認して、俺は弓川を呼んだ。

「弓川」

「偶然だからな?お前がここに来るとは、俺は一言も言っていないぞ」

「当たり前だ。どうにかしろよ、あいつ」

最初は面白がっていた弓川だったが、厚志の酔いが回るに連れて眉を顰めるようになった。

「叶多ちゃん、気を悪くしないでくれよ?彼と永瀬は2年前に終わってるんだからな」

弓川が俺に代わって弁解を始めた。それ、わざわざ叶多に言い聞かせなくてもいいんだが。

「気にしていませんよ」

そのツンとした表情、素っ気ない返事。叶多が言うと更に冷たく聞こえる。

「・・・だよねーっ!」

弓川が俺の前に移動して来て、「ずっと睨まれてるんですけど」と、叶多には聞こえないように小声で言った。

「おーちゃん」

叶多が初めて「おーちゃん」と呼んだ。

「何だ?」

「おーちゃんって呼ばれてたんだ?」

「ああ、まあ」

「ふうん。可愛いね、元カレ」

叶多が、これ程はっきりと気に入らないと意思表示するのは珍しい。強調された「元カレ」って所が、可愛げがある。

「おーちゃん」

今度はカエルに向かって呼びかけた。

「何だ?」

「おーちゃん」

涼やかな声で呼びながらカエルの頭を撫でている。

「欧介でいいだろう?」

「・・・うん」

叶多はカエルを自分の座っていた椅子に置き、厚志の椅子に自分が座った。

「どうした?」

「今まで貸し出し中だったんだ。返してもらう」

「そうだな」

「うん」

弓川は黙ってグラスや皿を入れ替えた。


「あーっ!楽しかった!ねえ、おーちゃんは今でもあのマンションに住んでるの?」

厚志の頭には、ハンモックの中にあった長い耳付きのウサギの被り物が乗っている。

「ああ」

「叶多くんも一緒に住んでるの?」

「違います」

「だったらさぁ、今夜は遅いから泊まってってもいい?」

甘えた瞳が見上げてくる。

「ダーメ。さっさと電車に乗れ」

「じゃあ、駅まで送ってよ」

厚志が俺のスーツの袖を握って離さないのを見て、「駅まで送ろうよ」と言ったのは叶多だ。俺を真ん中にして、千鳥足の厚志を支えながら歩いて駅までいくことになった。

「2人は一緒に住むの?」

「お前には関係ないだろう?」

「教えてよーーーっ!いつから付き合ってんの?」

「黙れ。もう遅いから静かにしてくれ」

「あーっ!ああーーーっ!」

わざと大声で叫ぶ厚志の頭をグーで殴り、「黙れ」と注意すると「シーッ!」と自分の唇を指で塞ぐ。叶多は黙ってそれを見ていた。

「ねえ、ねえ!」

「声」

「はい。ごめん」

「さっさと歩け」

「はーい!」

ウサギの長い耳をヒラヒラさせながら、酔っ払いが歩く。叶多と並んでそれの後ろから付いて歩きながら、厚志が急に現れた理由を探っている。

*****

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