結局、ランチ代の支払いは元セフレ社長に回されてしまった。
純さんが食事する度に俺の分まで支払わされる元セフレ社長には、"片平真央=図々しいヤツ"として認定されているに違いない。
「大丈夫だってば!信ちゃんはこれくらいの事でグダグダ言いはしないから!"あの"『滝山産業』の御曹司だよ?お金なんか掃いて捨てる程持ってるんだから」
純さんは自分の事のように自慢げに言った。掃いて捨てる程って、どんだけ金持ちなんだよ。
「それに信ちゃんは可愛い子が大好きなの!俺が一緒じゃなくても真央ちゃんが飲み食いした分は俺が払うよ、って言うに決まってる!」
なんだよ、その決めつけ。
「純さんは元セフレかもしれないけど、俺はただの人なんで」
純さんは唇に指をあてて「シーッ!」と言った。
「寛之さんの前でその言い方、止めてよ?元セフレは禁句だからね?」
「はい」
「真央ちゃん、信ちゃんの事、知ってるよね?」
「ええ、もちろん知ってますけど」
毎年、純さんと一緒に《イゾルデ》という店から花火を観るし、クリスマスや大晦日には《SUZAKU》に行く。だから元セフレ社長とも顔見知りだ。
「だから大丈夫!彼、可愛い子にはメッチャ甘いんだから!」
「・・・でも」
「今度会ったら、お礼を言いなよ?」
「じゃあ・・・。はい。そうします」
純さんは全く悪びれずに、『MIT-3』の曲を口ずさみながらスキップでもしそうな勢いで歩いていく。
「そうそう!てっちゃんに一緒に打ち合わせに行こうって誘ったらさ、晩ご飯、真央ちゃんと食べる約束したから、定時に会社に戻れないなら行きません、って断られちゃった!」
「えっ?」
純さんは怒っているふうでもない。次の番組の打ち合わせだから松沢くんも同行すべきなんだけど。残業代よりもプライベート優先なわけだ。
「最近の新卒さんって、はっきりしてるよね?」
「ですね。俺は絶対に言えないな」
松沢くん、しっかりしてるな。深夜勤務も多いから、定時で退社出来る日はキッチリ帰ります、って事か。
「だよね!それよりも、真央ちゃんさ、気を付けなよ?」
純さんは俺の腕を掴んで止めた。会社は目の前なのに、純さんは俺を引き留めた。
「えっ?松沢くんに奢らされるって事ですか?俺、先輩だけど来月から給料は松沢くんの方が高くなるんですよ。だから今日は割り勘です」
今度は俺の方が自慢げに言った。
「しっかりしてるな、そういうとこ」
純さんはちょっと呆れたように言った。ランチ代は払わないクセにって?
「そういうしみったれた所、ミッチーは嫌がらないの?」
「えっ?しみったれですかね?」
「うん」
「いや、当然ですって!」
「じゃあさ、今夜は信ちゃんの店に行きなよ。何かあったら、守ってくれるから」
「何かあったら?守ってくれる?何ですか?それ」
純さんは「シッ!」と俺の唇に人差し指を当てた。純さんのクルッと丸い瞳が近付いてくる。
「てっちゃんはさ、真央ちゃんの事をお気に入りだから。気を付けて」
「お気に入り?俺が?」
「そう!片平さんは品があって可愛い、口は悪いけど、って褒めていたよ?」
口が悪いは余計だよ。
「褒めてないし!」
「あははっ。どっちにしろ、《325》か《トリスタン》に行きなよ?」
純さんがしつこいくらいに店まで決めたがるなんて、これまでないんだけど。自分が参加するわけでもないのに。
「松沢くんに聞いてみます。店は彼が考えてるかもしれないし。それにたまには違う店も新鮮だから」
純さんは首を振った。
「いや、俺が言ったようにした方が良いよ。俺が予約してあげるからさ!タダだよ?タダ!俺の奢り、って事で予約するから!ねっ?」
変な純さん。でも、ここまで言ってくれてるんだし。元セフレ社長には迷惑を掛けるけど・・・。
俺よりも高給取りとはいえ、今年入社したばかりの松沢くんに払わせるのは嫌だから割り勘にしたけど、純さんの奢り(元セフレ社長の奢り)という事にして、後で純さんに俺の分だけを元セフレ社長に渡してもらえばいいか。面倒くさいけど。
それなら割り勘と同じだし、松沢くんには負担はない。あっ、元セフレ社長には迷惑だけど、金なら掃いて捨てる程あるらしいから、いいかな。
「じゃあ、決まりね!」
純さんに上手く丸め込まれたような気がしたが、お願いしよう。俺は自分で美味しい店を探したりするのは苦手なのだ。
午後から純さんは打ち合わせに行き、営業2課には俺と松沢くんの二人が残っている。
会社には有線放送が引かれていてBGMには優雅なクラッシックが流れているが、純さんがいるとそれは切られて『MIT-3』のCDに変えられてしまう。
「純さんがいないと静かですね」
「そうだね。俺は入社してからずーーーっと純さんと一緒に行動していたから、純さんがいないとこんなに静かだとは思わなかったよ」
あっ、今のは嫌味じゃないよ?
「あははっ。『MIT-3』のCDも聴かなくていいし!」
「嫌いなの?」
「嫌いというか、男性アイドルには特に興味もないんで」
「そう」
「でも『MIT-3プラス』は面白いですよね」
「ああ、バラエティ?」
「そうです。"女装男子を見破れ"というコーナーがあるの知ってます?」
「うん」
俺、毎週、見せられてます。そして時々、バカ久が持ち帰ってくるカツラとか衣装を「着て欲しい」とかとお願いされて困ってるんですけど。
「片平さん、あれに出たら?」
「・・・アホか」
「今までの出場者の誰よりも可愛いと思いますよ?」
「結構です」
未知久と同じ事を言う後輩くん。
「グランドチャンピオンを決めるんですよ。応募しましょうよ?」
「アホか」
「片平さんなら絶対に優勝ですよ!赤ずきんちゃん、可愛かったなあ!」
「純さんに言えば?」
「いいえ!片平さんの方が可愛いです!」
「自分で出たら?」
松沢くんは「俺が女装しても気持ちが悪いだけですから」と言うと、真面目な顔をしてパソコンを開いた。
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お返事が遅くて申し訳ございません!!
コメントの件、申し訳ありません。いろいろと事情がありまして、「ア●」とか「バ●」とかもダメです。日高もお返事を書いて弾かれたりしますよ(笑)
でも真央ちゃんなんか連呼してますから(笑)とんでもない主人公です!
純ちゃんの説明は的を得ていると言えば得てますよね。怜二くんが泣いちゃうww
松沢くん、危険人物ww大変だ!純ちゃんがちゃんと安全な店をご紹介のようですから、大丈夫なんじゃないかな?
コメントのお返事が遅くなりまして申し訳ございませんでした!!ありがとうございました!