FC2ブログ

『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

合縁奇縁・4

 清家宗隆というお人は、僕が赤いスポーツカーのオーナーに対して抱いていたイメージとは少し違うようだ。

店の前の車は派手で、それに乗るオーナーももっとチャラい方を想像していた。だが清家先生は大変落ち着いておられる。話題も豊富で頭の回転が速い。

 細身だが身体付きはガッシリしておられる。身長は山下常務とさして変わらないだろう。

手元にある繊細なマーブル模様の名刺は大変好ましい。山下常務とは話しが合うようで、お帰りになる前に裏庭を案内しましょうという運びとなった。

「そうだ。コーヒーのお替りを持ってきてもらおう。それに稲村くんのコーヒーがなかったね。気が利かなくてすまない」

そう言い終える前に山下常務が立ち上がった。

「常務、お待ちを!私がまいりますから」

慌てて立ち上がったが山下常務には一歩出遅れた。

「いや、私が行こう」

「しかし!」

2人でドアの取っ手を奪い合う。山下常務は僕の手を上から抑えて微笑んだ。

「いや、君はここで清家先生のお相手をしてくれ。それに電話を一本掛けなくてはならないのを忘れていたんだ」

「しかし、常務」

「いいから!橋本くんに電話をしておかないと。彼は午後出勤だったよね?彼がやる事を伝えておかないと、彼は逃げてしまうからね」

山下常務は引き戸を開けると、さっと部屋から出て行ってしまわれた。カラカラと閉まってしまったドアを前にして、僕は元いた席にも戻れなくなる。

彼は確か僕のボスで、僕は彼の秘書だったはず。

「フットワークの軽い方ですね」

「ええ。そうなんです」

このままでは僕は立つ瀬がありません。

「あははっ。いいじゃないですか。他に用がおありなのだから」

身の置き所がない。秘書のクセにここに座って待っているのか、と咎められているような気がした。

「電話を終えたらすぐに戻られますので」

"理由"だけが僕の救いだ。

「稲村さん、座ってください」

いや。やはり、ここは僕も行った方がいいだろう。電話は別として、の話しだ。

「やはり僕がコーヒーを持ってまいります。失礼します」

引き戸を開けた瞬間、清家先生が僕を引き留めた。

「ああ、待ってください!」

「何か他にご入用の品でもございますか?」

「新刊本があるんです。まだ出版されていませんが、読んでみてください」

笑顔で本を差し出されれば、受け取らないわけにはいかないか。

 
 清家先生の新刊は、3人組の大学生探偵が登場する『キャンパスは死体だらけ』シリーズではない。「新境地を開いたサスペンスの傑作」と、ネットショップの紹介文に書いてあった本。絶賛予約受付中。

「これ、まだ発売前なんですよ。差し上げますから読んでください」

「ありがとうございます。拝読させて頂きます」

「サインしましょうか?」

「是非、お願い致します」

いつも持ち歩いているのか、先生はバッグの中からサインペンを取り出してサラサラとサインを書いてくれた。僕の名刺を見ながら、丁寧な字で"稲村典孝様へ"と書き日付を入れてくれる。

「どうぞ」

「ありがとうございます。大切に致します」

サインを書いて頂いたのはハードカバー本の表紙を開いてすぐの所。『今日の出会いに感謝』の一言が添えられていた。

「サイン本は古本屋に持って行っても価値がないですからね」

「えっ?そうなんですか?」

「ええ。落書きレベルの扱いですよ」

「清家先生のような有名な方のサインでもですか?」

「ええ。夏目漱石なら価値がありますがね。私程度では値は付きませんよ」

「存じませんでした。あっ、この表紙の文字は」

「気が付かれましたか?」

清家先生は嬉しそうにした。

「はい。先生の名刺と同じ活版印刷の文字ですね?」

「そうなんですよ!」

「素敵ですね」

表題の文字のインクは濃いブルーで、タイトルは『深く蒼い水底の歌』。

「ちなみに例の大学生探偵シリーズではありませんからね」

「実は先程、ホームページをみておりました。新境地を開いた作品、と書かれてありました」

「そう改まって言われると恥ずかしいな。新境地なんか全く開けてねえよ、とか言われたらどうしよう!」

清家先生は大袈裟にテーブルに突っ伏して「どうしよう!」と繰り返した。

「大丈夫ですよ」

軽々しく言ってしまったが、他に掛ける言葉が思い付かない。僕は大学生探偵シリーズのドラマを観ただけだ。山下常務ならどう答えただろう。

困ったと思っていると先生がパッと顔を上げ、ニカッと悪戯した子どものように笑って言った。

「じゃあ、絶対に読んでくださいね?」

「はい。絶対に読ませて頂きます」

「感想を聞かせてくださいよ?」

「はい」

「私のメールアドレスは名刺に書いてありますから」

「わかりました」

「待っています」

念を押されて感想をメールで送ると承諾したが、学生時代から読書感想文のようなものは苦手だった事を思い出し気分は重くなる。

山下常務、早く戻ってください。

「以前、テレビで『キャンパスは死体だらけ』を拝見させて頂きました」

「ありがとうございます」

「藤代未知久さんがはまり役でしたね」

「そうなんですよ。尊大で気の向くままのお坊ちゃんの役は彼にはまっていましたね。続編を、という話があるんですが、ミッチーサイドからなかなかOKが出なくて。彼のスケジュールは来年の夏まで一杯らしいです」

「そうですか」

「続編も彼でいくしかない。そのうち大学生探偵シリーズも人気が無くなって続編のドラマ化の話しは吹き飛ぶだろうな」

ネガティブ思考な方なのかな?今度は自信なさげに溜息を吐かれる。

「ミッチーもそろそろ30だし。大学生の役はどうだろう?」

「主演を変更するというのはなかなか難しいのでしょうね」

「そうなんですよね。直談判でもするかな?」

僕のような部外者の方が愚痴をこぼし易いのかもしれない。清家先生は寛いだ様子で話を続けた。

「そうだ!庭を案内してくださいませんか?」

「私がですか?」

「ええ」

僕は庭木の名前に詳しいわけではない。ビオトープには生き物がいるが、それらの名前や生態に詳しくもない。だが先生と僕が庭にいれば山下常務か佐井寺店長が出て来てくれるだろう。

「私は詳しくはございませんが。それでもよろしいですか?」

「ええ」

「では、ご案内しましょう」

先生はカバンの中からカメラを取り出した。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

息子ちゃんがインフルエンザに罹ってしまったwww日高、戦々恐々としております・・・。

   日高千湖

ランキングに参加しております、良かったらポチッと押してやってください♪
   ↓
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村  
 
ありがとうございました!
関連記事
スポンサーサイト



コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

日高千湖

Author:日高千湖
日高千湖のBL小説ブログへようこそ♪

こちらはオリジナルBL小説ブログです。BLという言葉なんて知らない、嫌悪感を抱くとおっしゃる方は回避願います。

旧ブログ『薄き袂に宿る月影』をご愛顧頂きました皆さまには、ご迷惑をお掛けしております。

旧ブログ内で公開しておりました作品につきましては順次こちらでも公開して参ります。また、旧ブログで公開中の作品は今のところそのまま残しておりますが、こちらへは改稿した上でUP致します。こちらへ移転後は旧ブログでの公開は見合わせたいと思いますのでご了承下さいませ。

左上の【Sitemap】をクリックして頂きますと過去3ヶ月の更新記事がお読みになれます。お久しぶりの方、読み逃がした方はこちらが便利です♪

サイトマップ代わりに【目次と登場人物紹介】というカテゴリを作成しましたので、そちらをご利用下さい。

★拙作ではございますが、著作権は放棄しておりません。お持ち帰りはご遠慮願います。

★大変お手数ではございますが、リンクをご希望の方はコメント欄にてお知らせ頂けると嬉しいです♪よろしくお願い致します。


ランキングに参加しております。良かったら押してやって下さい!
  ↓

にほんブログ村


ありがとうございました!

★尚、拍手コメントくださいました方へのお返事は、コメントを頂いた記事のコメント欄にて書かせて頂いております。ご確認下さいませ★

では、ごゆっくりどうぞ♪

最新記事
カテゴリ
最新コメント
FC2カウンター
リンク
QRコード
QR
フリーエリア