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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

合縁奇縁・26

 今日の清家先生はスーツだ。ドライブならもっとカジュアルな服の方が運転しやすいと思うが、仕事の打ち合わせも兼ねていたのかもしれない。

グレーのスーツに黒いシャツ。シャツは一見するところ黒一色だが、近くで見ると細かいチェック柄だとわかる。ネクタイは黒。ビジネススーツではないから全体的に細身のシルエットで長身の清家先生には似合っている。

 《ビストロ・325》に到着すると、すでに僕の名前で予約が入れてあり待つこともなく席に着くことが出来た。予約をしてくださったのは橋本専務だ。

《ビストロ・325》の志村店長は橋本専務の店でアルバイトをしていたという経緯もあり、2人は仲が良い。橋本専務は気さくに「しーちゃん」と呼んで可愛がっておられるから、先回りして予約を入れてくださったようだ。

「ここはこじんまりとした店ですが、人気があります」

「開店して間もないのに、予約がなければ入れないんですね」

外に並んで待っている女性たちを見た清家先生が感心したように言った。

「そうですね。今日は予約が多かったようですね」

「スタッフもイケメンだし、女性たちが見逃すはずがないな」

「まあ、そこが当社の狙いですから」

「そうか」

《ビストロ・325》の一番奥に案内された僕たちの席は、目の前でライブキッチンを見られる位置だ。カウンター席に座った女性たちは、シェフの猪俣さんの姿を惚れ惚れと眺めている。

「シェフもカッコいいな」

「ええ」

「店長も可愛いし」

清家先生の視線が志村店長で止まる。

志村店長はホールを回りながら、テーブルとお客さまお一人お一人に目を配る。時々、これでもかという笑顔で近付き、空になった皿やグラスを片付けてオーダーを取る。

その笑顔は輝くようで、誰もが生き生きとした表情の彼をついつい目で追ってしまうのだ。清家先生は前に座っている僕の方に身を乗り出して小声で言った。

「お客さんの女性たちよりも彼の方が可愛いですよね?」

「それは」

実に答え難い質問だ。その通りだとは言えない。この店を経営している会社の人間としては。返答に困っていると、清家先生は少しだけ浮かせていた腰を下ろした。

「稲村さん」

神妙な顔をして今度は何を言うのだろう。

「はい」

「あなたもですよ」

「えっ?」

「あなたとご一緒出来て、俺は誇らしいです」

僕のような者と一緒にいるのが誇らしい?迷い事も程々にしましょう。

「ご冗談でしょう」

「俺、冗談を言うのは下手なんです。だから言いません」

さすがは作家だ。人の心を浮上させるような言葉を生むのがお上手だ。彼が大人気作家の1人だと、僕が知らないとでも思っているのか?

「稲村さん。そろそろ敬語を止めにしませんか?」

「しかし」

「もう2回も一緒に食事してるんですよ?」

「ええ、まあ」

たったの2回だけどね。

「それに俺の方が年下でしょ?西谷くんに聞きました」

「まあ、確かにそうですが」

「俺、28だし」

「はい」

先生はたった2回の食事で"友だち"のようにおっしゃるが、僕は"お客さま"のお相手をしているだけ。敬語を止めるのは難しいんだけど。

「よし!敬語を使ったら罰ゲームだ」

「罰ゲームですか?」

「ほら、また。今のはノーカウントにしてあげる。ゲームスタート!」

「そんな」

「ダメダメ!もう決めたんだから」

清家先生には難しくないだろうが、これまで敬語で話していた僕には難しいんだぞ。しかも、お互いに酒を飲んでいるわけでもなくウーロン茶でそのノリ。ちょっと付いていけないんだけど。

「罰ゲームは何にしようかな?」

「勝手に決めないでく、れないか?」

敬語を使いそうになって言葉に詰まった僕を見て、清家先生は笑っている。

「もう決めた事だし」

「じゃあ・・・わかった」

「いい感じ」

清家先生は見た目は好青年なんだが、なかなか強引なお人だ。そして不思議な事に、この敬語廃止が僕の先生への見方を一転させるのだった。


「そろそろ出ようか?」

「そうだね」

敬語を使わない事に懸命になってしまって、食事中も気がそぞろだった僕。うっかりしていると罰ゲームを食らうから、僕は真剣だったのだ。

清家先生は何度か、「表情が硬いな」と僕を見て首を捻る。だったらゲームなど止めて、「いつもの稲村さんで良いですよ」と言って欲しかったのだが。

 レジカウンターへ行くと、志村店長が「今日の分は圭介さんに回すように言われてます」と伝票を綴じてしまった。

「えっ?橋本専務がですか?」

「はい。予約を入れた時にそう指示されてますから。その代わりに、帰りには必ず《SUZAKU》に寄るように伝えてくれとおっしゃっていましたよ」

「そうか」

そうか。また「デートだ」と言ってからかおうと待ち構えているわけだ。

「圭介さん、楽しみにしてましたよ?稲村さんが個人的に《SUZAKU》に行くのは初めてでしょう?」

そう言われてみればそうかもしれないな。

「わかりました」

「清家先生、またのご来店をお待ちしております」

「ありがとう!また来ます」

可愛らしい志村店長の手をしっかりと握り、清家先生はご満悦だ。


 1階にある《ビストロ・325》から階段で地下に降りると《SUZAKU》がある。

ドアの手前から店内のざわめきが感じられて、先生がワクワクしておられるのがわかった。

「さあ、行こう」

先生の手が肩に回る。ドアを開けると、薄暗い店内の奥の方から「いらっしゃいませ」と元気の良い声が聞こえてくる。ベニちゃんがタタタッと近寄ってきて僕らを迎えてくれた。

「稲村さん、いらっしゃいませ」

「こんばんは、ベニちゃん。こちらは作家の清家宗隆先生です」

「初めまして!先生の本、読んだ事がありますよ」

「そうですか!嬉しいな」

先生は屈託なく笑うベニちゃんに手を差し出した。ベニちゃんはほんの一瞬首を傾げたが、握手に応じた。うちのスタッフなら握手ではなく、まずはハグするからだ。

「へえ、可愛い子だね」

「こちらへどうぞ!」

ベニちゃんが、「カウンター、2名さまでーす!」と言って空いているカウンター席に誘導してくれる。


「マジでスタッフの顔面偏差値高過ぎる」

清家先生が顔を近付けて僕の耳元で言った。

「ベニちゃん、可愛いでしょう?橋本専務に会うのは初めて?」

「ああ、名前だけは」

「昨日、本を山下常務に預けただろう?」

「ああ、うん。上にいると聞いたんで」

「初めてなら、驚くかもしれない」

「驚く?」

「うん」

話しながらカウンターまで進むと、途中のテーブルに座っていた女性客が清家先生を見て「カッコいい」と言うのが聞こえた。

「カウンターだよね?男2人だし」

「残念」

と、2人で話している。

「稲村さん。カウンターに意味があるのかい?」

「ここのカウンターに座るのは出会いを求めてやってきた、と言う意味だよ。そうでない場合は橋本専務の友人とか『S-five』関係者が座るから、女性客には興味はないと言っているようなものなんだ」

「成程。じゃあ、もしかして俺を知ってる客がいたら、清家宗隆はゲイだって噂になるかもな」

「あっ、拙いか」

「大丈夫。取材だから」

「ああ、成程」

ホールにいた橋本専務が僕たちに気付き、カウンターへと入っている。こちらを見た橋本専務は妖艶に微笑んで待っていた。

*****

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