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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

合縁奇縁・28

 元々酒に強い方じゃない。

一人暮らしをして長いが、家で晩酌する習慣もない。山下常務に誘われて食事する機会はあるが、お付き合い程度にワインを一杯とか。頂き物のワインや酒類は、手土産代わりに実家へ持って行く。

強い方ではない、と言ってもお猪口一杯で真っ赤になる程弱くもない。ビールなら中ジョッキ1杯程度、軽めのカクテルなら2杯くらい。それなら普通に電車に乗って、誰にも迷惑を掛けずに帰宅する自信もある。それが酒に弱い人の量なのか、飲める人の量なのか、それがわからない。

だが、その先は未知数。正直なところ、前後不覚になるまで飲んだ事がないのだ。

社会人になっても軽く一杯程度のお付き合いしかしてこなかった。自分がどれだけ飲むと酔っ払ってしまうのかが、自分でもわかってはいない。


 よくよく考えてみれば、橋本専務のおっしゃる通りの生活を繰り返している僕。もちろんカップ麺うんぬんは橋本専務の誤解だが。

ウォーキングシューズ代付きで歩いて通勤するのもいいのかもしれない。

飲み仲間がいるわけでもなし、定期的に集まるような親しい友人もいない。彼氏がいるわけでもなく、親や家庭を持った兄弟とも密な関係ではない。だが『S-five』に転職してからは、以前よりも楽しく充実した日々をおくらせてもらっていると思う。

山下常務には可愛がって頂いて、何くれとなく声を掛けて頂いて・・・何不自由なく。ん?

何不自由なく?なのかな?

「はあっ」

面白味のない生活だ。

自分を顧みればみればみる程、橋本専務の言うとおりだと思う。2駅歩いて通えば、また違う何かが見えてくるのかな?

「おーい!大丈夫か?稲村くん?」

「大丈夫です」

橋本専務がカウンターの中から心配そうに僕を見ていた。声もBGMも、店の喧騒も遠くに聞こえる。橋本専務とカンタくんがボンヤリと霞んで見えていた。

「ここで寝るな」

ちょっと拙いな。ウーロン茶でももらって酔いを冷ました方がいい。

「ウーロン茶、くらさい」

右手を上げようとしたら、誰かの手が触れて止めた。

「大丈夫か?カンタ、水」

「はい」

僕の手を握っているのは橋本専務だ。冷たくて気持ちの良い手だ。《SUZAKU》を手伝えば水仕事も多いはずなのに、彼の手はスベスベしている。

白くて長い指が僕の日焼けした手に重なっているのが妙に恥ずかしかった。

「大丈夫です」

そう言って僕は顔を伏せた。重くて支えきれなくなった頭がずーんと下がって、額がカウンターにゴツンと当たった。カウンターの板がヒンヤリとして気持ちが良い。火照った頬にはちょうどいい温度だ。

「おいっ!大丈夫か?」

「今、ゴツンっていいましたよ!?」

「稲村さん!」

ああ、清家先生の声だ。あんたが飲もうとか言うから、僕は無謀にも自分の限界を知りたくなったんじゃないか。清家先生に「内緒」にしてもらう必要などなかった。橋本専務がこの"ゲーム"の結末をお聞きになれば面白がったに違いない。だから僕が「内緒」にしてもらう必要はなかったんだけど。

「稲村くん!」

「大丈夫、平気れす」

「カンタ、稲村くんはどれくらい飲んだんだ?」

「カクテルを2杯とグラスワインを1杯。それから今飲んでるのがウィスキーのロックですね」

「まあまあ飲んでますね」

「カンタ、ロックはダメだろ」

「本人のオーダーですから」

「そうか。まあ、いいか」

橋本専務が肩を叩きながら「おーい」と言っている。顔を上げて返事がしたいが、頭が重くて上がらない。

早く帰りたいんだけど。

「タクシーを、呼んで、くらはい」

「おーい!呂律が回ってないぞ」

「最初の2杯はサクッと飲んでたんで、普通に飲める人なんだと思ったんだよな」

「カンタ。お前さ、そこは何となく悟れよ」

「無茶を言わないでくださいよ。稲村くんは花火大会もクリスマスもチラッと顔を出したら消えるんですから」

「小鳥居2号だ」

ベニちゃん、変なあだ名を付けないでくださいよ。

「俺、何も悪くないっすよ?オーダーどおりに作って出してるだけですから」

背中に手が当てられている。誰の手だろう。優しく包むように、僕の背中を支えてくれている。

僕なんかにはそんなものは必要ないのに。

「稲村くんを酔い潰したと山下くんに知られたら、お前、叱られるぞ?」

「いや、叱られるのは圭介さんでしょ」

「はあ?俺?」

「圭介さんが保護してくださいよ。この人、圭介さんの秘書でもあるんでしょう?」

そうだ、そうだ。僕は橋本専務の秘書でもあるんですよ。保護などいりませんから。タクシーをお願いします、専務。

「そりゃそうだけど、俺が飲ませたわけじゃない」

「タクシー、呼んでくらはい」

僕の頭上では橋本専務とカンタくんのやり取りが続いていて、誰も僕の頼みを聞いてくれない。

「じゃあ、だれが責任を取るんですか?」

責任など取って頂かなくても構いませんから!タクシーを呼んでください、専務!

もういい。自力でロータリーまで行けばタクシーがいるはずだ。タクシーに乗って『S-five』と所属と名前を言えば、勝手に僕のマンションに到着するはず。

思い切って頭を上げて、カウンターに手を付いて立ち上がった。

「おい、稲村くん?」

橋本専務の声が一際大きく聞こえた。

「・・・はい」

「稲村くんっ!」

「危ないっ」

「・・・は、い」

意識が遠くなる。立ち上がったはずだが、足が地に付いていないような気がする。ボンヤリとした視界に入ってきたのは清家先生の顔。

 僕は返事をしているのだが、僕の声は誰にも聞こえていないようだ。

わーわーと騒ぐ声が意外と心地良くて、瞼が重くなる。「大丈夫か?」と僕を揺り動かす手。誰かの腕に支えられている感じがする。

周囲の騒ぎが違う世界の出来事のような気がしているが、そうじゃない。でも、もう瞼を持ち上げられないんだけど・・・。

 僕は酔っ払っているのだろうか。ふわふわと雲の上にでも歩いているような感じだった。清家先生と橋本専務に支えられ、地下駐車場からタクシーに乗ったところまでは覚えている。

隣には清家先生。橋本専務が「よろしくお願いします」と言っているのが聞こえたが、すでに僕の思考は停止していた。駅前にいるタクシーは『S-five』と提携していて、僕の名前を言えばマンションまで送り届けてくれるはず。

橋本専務が僕の所属と名前を伝えてくださったのでホッとして、僕は目を瞑った。これで確実に自分の家に到着する。


「稲村さん?」

清家先生の声だ。

「ん?」

「着いたよ」

「はい」

ボヤッと霞のかかった頭。眠っていた僕は、まだ目が開けられないでいた。

「大丈夫かい?」

「んっ、はい」

持っていたはずのカバンを探していると、清家先生が「カバンなら俺が持ってるよ」と言った。

「ありがとうございます」

クククッと笑い声がして「どう致しまして」と言われた。先生も僕と同じものを飲んでいたはずなんだけど、平気なのかな?

「降りよう」

「はい、あっ、運転手さん、代金は僕が払います。後で回してください」

「お支払いは済んでおりますよ」

「えっ?」

「ああ、もういいから!気にするな。降りるよ」

「は、はい」

ボーッとしたままタクシーを降りると、清家先生が腰を抱いて支えてくれた。

「すみません」

「いいえ」

この時僕は、敬語なしゲーム中だったな、なんてどうでもいい事を考えていた。

*****

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コメント
拍手鍵コメ・Kさま~いらっしゃいませ♪
拍手鍵コメ・Kさま~いらっしゃいませ♪

稲村くん、真面目過ぎて面白い所までいっちゃいましたか(笑)

先生の実像が今一つわからないので、良い人かな~悪い人かな~?と悩んで頂きたいところです。

拍手&コメントありがとうございました!
2020/02/27(木) 07:16 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
拍手コメ・アザミさま~いらっしゃいませ♪
拍手コメ・アザミさま~いらっしゃいませ♪

いつも応援してくださってありがとうございます!!

稲村くんはこじらせてますからね。大丈夫でしょうか?人付き合いも苦手のようで、放っておいたら地味に生涯を終えそうですからね。ここらで外へ出てもらおうと思っております(笑)

こんな駄文でも喜んでくださって嬉しいですっ!!ありがとうございます♪こんなふうに書いてくださると、頑張ろう!!と張り切ってしまいますよ♪

ありがとうございます!!

拍手&コメントありがとうございました!
2020/02/27(木) 23:25 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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