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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

さやさやと流るるが如く・92

 やられた。

報道によれば、江原寿美子は重傷とはいえ叶多ほどは傷も多くなく症状も重くはない。回復した彼女は看護師たちから俺が見舞いに来る事を知り転院を決めたのだ。


「そんな顔すんなよ、欧介」

弓川はビール瓶を持ってカウンターに移動してきた。ドアを開けた瞬間の俺の顔があまりにも悲惨だったので、「見るに見かねて」今夜は臨時休業にするそうだ。

弓川はタンと置いたグラスにビールを注ぎ分けて、一つは俺の前に置いた。つまみはチーズとポテトチップス。

「仕方がない」

「おい、おい!」

「もう、打つ手はない」

「なんとかなるさ!」

弓川の手がバンッと俺の背中を叩いた。

「なっ?」

「痛った・・・。もうなんともならないよ。叶多が意識を取り戻して、自分の足で歩いて俺の所へ戻ってくれるのを待つしかない」

「おい、おい、おい!待つ?」

「そうだ」

待つしかない。

叶多が必ず意識を取り戻して、俺の下へと戻ってくると信じて待つしかない。

「マスコミが転院先を知ってるんじゃないのか?新聞とか雑誌とか知り合いはいないのか?」

「生憎と」

転院、退院までは本人の承諾なしには報道しないだろうな。それに一昨日くらいから事件には興味を失ったかのように、報道される事もなくなった。

「うちの客にマスコミ関係はいないが、菜那美の店ならいるかもしれない。聞いてやるから!なっ!」

「ああ。頼む」

「飲め」

「ありがとう」

弓川はガハハッと豪快に笑いながらテーブルを叩く。何度も叩くからグラスが揺れている。

「煩いヤツだな。人が普通に落ち込んでるのに。もう少し労われ」

「ありがとう、だなんて!お前の口からその言葉が聞けるとは思わなかったな。店を休みにした甲斐があったぞ!」

「ホント、騒がしいヤツ」

プイと横を向くが、なぜか弓川のテンションは上がる一方だ。俺が落ち込んでいるから励ましてやろうと思っているのだろうが、どうしてそう明るいんだよ。

「静かにしろよ」

「そう冷たくすんなって!そうだ!お前さ、バイトで雇ってやろうか?」

「・・・どうするかな?」

「雇う!絶対に雇う!」

「止めておくかな。愛想笑いは苦手なんで」

「いいや!明日から来てくれ!お前が来てくれたら売り上げ倍増間違いなしだ」

「閑古鳥が鳴いてるのに客が来るかよ。俺なんか要らないだろう?」

「お前が駅前でチラシを撒け!そうすれば間違いなく閑古鳥はどこかへ行くから!」

俺を一人にしない方がいいと思ってるんだな。

「嫌だね」

「冷たいなあ!今夜はお前の為に店を閉めたんだからな?わかってるか?」

「勝手に閉めたんだろうが。なんなら臨時休業の札を外してこようか?」

「いや、今夜はいい。休む。飲もう」

「お前の奢りだからな」

「よし!奢る!好きなだけ飲め」

「後でバイト代から差っ引くとか言うなよ?」

グラスになみなみと注がれたビールで俺たちは乾杯した。

叶多の転院先はマスコミ関係者ならすぐに調べが付くだろう。張本さんと大磯さんにも伝手を辿ってもらえるかもしれない。俺は弓川の底抜けの明るさに救われながらビールを飲んだ。

「なあ、欧介」

「なんだ?」

「叶多くんは必ずお前の所へ戻ってくるよ」

俺はそう信じているよ。

「それ、保証出来るのか?」

「出来ねえよ」

「嘘でもしろよ」

「嘘でもいいのか?」

「ああ。お前は信用出来るからな」

「菜那美もな」

「菜那美もな」

「良い友だちを持った」と続けて言ったら、弓川は調子に乗ってまた背中を叩くだろう。だから言わない。

叶多。こうしてお前を待っている人がいるぞ。

早く戻って来い。


 翌日から、弓川がどうしてもと言うので《ハンモック》で働く事になった。

昼は張本さんの事務所に行き、夜は《ハンモック》という二重生活は忙しくて、俺に色々と考えさせなかった。

張本さんが『下津浦物産』を退社したのと同時に北野さんも退職した。マスコミのインタビューに答えた事を社長に咎められ、詰られたからだ。毎日嫌味を言われて会社に居辛くなったそうだ。

北野さんは張本さんが独立すると知って合流したがったようだが、張本さんが断ったそうだ。張本さんが「叶多くんの席を開けておかなければならないから」と言ってくれて、俺は猛烈に嬉しかった。

 叶多の転院先は意外にもすぐにわかった。

菜那美の店の常連の看護師が調べてくれたのだ。偶然にも彼女の友人の伝手で転院先がわかった。

事情を知った彼女は俺が面会出来るようにしてやると言ってくれたが、まだ実現出来てはいない。それというのも江原寿美子と叶多が2人部屋で同室だからだ。

「同じ部屋ならどうしようもねえな」

店を閉め片付けながら弓川がぼやいた。俺は椅子を全てテーブルに上げて、箒で床を掃いている。

「ぬか喜びさせたな」

「仕方がないさ。寿美子はとことん俺に会わせたくないんだよ」

「欧介の顔を見たらすぐに元気になるのにな!」

弓川は勢い良く水を出しながらグラスを洗っていく。

「諦めるしかないか」

「母親が退院したら面会させてやれると思うってさ」

「そうか。でも、叶多が集中治療室から出られたとわかっただけでも良かったよ」

「そうだな。うん。収穫があったって思えばいいか!」

「菜那美にもありがとうって言っておいて」

「おう」

こうして一ヶ月が過ぎた頃、江原健紀が殺人未遂容疑で起訴されたというニュースを観た。

「殺人未遂って事は叶多くんは生きてるって事だよな?」

「そうだな」

叶多が入院している病院の看護師が、叶多の消息を時々だが伝えてくれていた。その情報も菜那美を通してもたらされるからリアルタイムではない。

それでも何もわからないよりはマシだった。叶多の容体は変わりがなく、未だに意識が戻らない。江原寿美子は一ヶ月程で退院したが、叶多は面会謝絶のままだそうだ。江原寿美子は一日のほとんどを叶多の病室で過ごしているという。

「懲役何年くらいかな?」

「どのくらいかな?」

「20年とか?」

「被害者も多いし叶多は未だに意識が戻らないからな。明らかな殺意があったし5年は確実じゃないのか?」

江原健紀は初犯だ。寿美子が意図的に"サロン"へ誘い込んで江原家を崩壊させたと認められてしまえば情状酌量で減刑も考えられる。

「そんなもん?」

「俺は詳しくないからな。弁護士さん次第じゃないのか?」

「ふうん」

江原健紀にどんな刑が科されるかわからないが、俺は叶多が戻ってくれればそれでいい。

*****

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