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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

さやさやと流るるが如く・101

 リハーサルは無事に終わった。

"無事"と言っても一連の流れを確認しただけ。当日の会場とは勝手が違うので、やはり明日のリハーサルは出来るだけ早く始めたい。

「場所が違うから本番前のリハーサルが重要だな」

「店は休みだから、朝から搬入して良いんですよね」

「ああ。明日は8時集合で頼む」

「はい。それから、店側から系列店のデリバリーを頼んでもらえないかと申し入れがあったので、弁当はキャンセルしています」

「そうか。控室の飲み物はどうした?」

「近くのスーパーマーケットにペットボトルを注文しました。氷ももらえるので開店したら北野さんと一緒に取りに行きます」

「うん」

張本さんは朝からいや、一週間以上前からピリピリしている。大磯さんは衣装の調整をしたいと言って先に帰ってしまって、今は臨時バイトの北野さんを交えて居酒屋で3人で遅い晩飯を食っている。

「北野は家で食わなくていいのか?」

嫁さん第一主義の北野さんは、張本さんに尋ねられて眉間に皴を寄せた。

「嫁が煩いんですよ。ビールも発泡酒に替えられたし、その上一日おきにしか飲ませてもらえないんです」

「お前が仕事を辞めたからだろう」

「ええ、まあ。そうなんですけど」

北野さんは退職した事を後悔していた。『下津浦物産』に居辛くなって辞めたが、我慢が足りなかったんじゃないかと作業の合間に愚痴をこぼしていた。張本さんや川浪さんまで辞めて自分も勢いで退職したようだが、後悔先に立たず、だ。

「俺みたいに独り身だと気楽ですけど、北野さんには家庭がありますからね。早く仕事を見つけないと」

「就活中に悪かったな、手伝わせて」

「いいえ!楽しいですよ。永瀬もいるし」

北野さんは俺と目を合わせてニコリとした。俺に媚びを売られてもなあ。

「うちのバイト代は安いぞ。最低賃金だからな」

「構いませんって!」

家とハローワークの往復では奥さんが煩いのだろう。息抜きになると言って面倒な作業も気軽に引き受けてくれて、俺としてはかなり助かった。

「張本さん、俺も雇ってくださいよ?いきなり辞めたと思ったら2人で楽しそうに働いてさ。ずるいですよ!?」

張本さんは指で×を作った。

「無理。うちは何人も雇えません。4人でギリだ」

今回のショーの出来の良し悪しが今後の売り上げに大きく関わる。張本さんは社長として正念場だし、余計な人員は雇えない。叶多の席を確保してもらっているのが心苦しいのだが・・・。

「バイトでいいですから」

箸を置いた北野さんは手を合わせた。どうやら愛妻は恐妻に変わったようだ。

「永瀬が過労死しそうになったらな」

「こいつ、ピンピンしてますけど?」

「すみません。ピンピンしてて」

「はあっ・・・。じゃあ、どこか紹介してくださいよ、張本さん」

「お前さ、後先考えずに辞めるなよ」

北野さんはまた箸を手に取った。唐揚げの皿から一番大きな物を選んで自分の皿に載せる。

「明鷹ですよ、明鷹。もうやりたい放題ですよ。勝手に帰国したらしいです、例のオトコ連れで」

「例の、ね」

「今は一緒に住んでるらしいですよ。海外事業部の方は現地スタッフだけになってしまって、その上工員はストライキでしょ。下津浦社長も大変ですよ。しかもほら、江原社長の息子の事件があって」

北野さんは俺をチラリと見た。

「江原社長の兄妹も奥さんの方の親戚もあてに出来ないんで、大学卒業までは社長が後見人みたいな形で支えようとしていたんです」

張本さんはチラリと俺を見た。大丈夫と目で合図すると、北野さんに相槌を打つ。

「へえ!意外にも社長は慈善家なんだな」

張本さんが慈善家などと言うから、俺は可笑しくて笑いを堪えられなかった。

「あははっ」

「それが成り行きと言うか。でも、今じゃ殺人未遂犯ですからね。そこんところの事情は永瀬の方が詳しいでしょうけど。下津浦社長は世間体とか風聞が気になる人じゃないですか。インタビューに答えたのが俺だとわかると、もう手が付けられなくなって」

「成程ね」

「それに明鷹まで加わって、今は社員に言いたい放題だそうですよ」

「あの会社も長くないな」

「そうですね」

「よーし!早いところうちの会社を軌道に乗せて、一気に乗っ取りでも仕掛けてやるか?永瀬」

張本さんがニヤリとした。

「いいですね!目標が出来ましたね」

「よし!3年後には『下津浦物産』を乗っ取ってやる!」

「はい!」

「俺も仲間に入れてくださいよ!」

「お前は再就職先を見つけろ。うちはまだ海のものとも山のものとしれない状態だからな」

「頼みますよ!」

こうして他愛もない話でワイワイしている場に叶多がいられたらいいのに。


『永瀬』

電車を降りてマンションまでの帰り道、弓川から電話だ。

「おう!今日はありがとう。叶多の様子はどうだった?」

『俺らの事は全然、わからなかったようだ。時々、俺たちの顔を見て首を傾げたり、考え込んだりしていたよ』

「菜那美の刺激が強すぎたんじゃないのか?」

『菜那美がどうしても行きたいって言うんで』

「勝手に連れて行くなよ」

『すまん。勝手に悪かったよ』

弓川がいつになく殊勝に謝った。

「菜那美や弓川を怖がらなかったんならいいけどさ」

『元気そうだった』

「うん。ありがとう」

『ショーは明日だよな?』

「ああ、午後4時からだ」

『頑張れよ』

「ありがとう。明日は来られないけど、明後日はお前の所で飯を食えると思うから」

『待ってるぞ』

電話を切って夜空を見上げる。

ゴーッと音を立てながら電車が近付いてくる。その明かりが俺に追い付き、通り過ぎて行くのを見ていると俺と叶多の距離が少しずつ縮まっているような気がした。

*****

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コメント
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アザミさま~いらっしゃいませ♪

いつも応援してくださってありがとうございます!そしてお返事が遅くなりまして申し訳ございませんでした。

叶多くんがあの様子ですけど、弓川や菜那美の援護射撃を受け、欧介くんが頑張っております。あっ、ちょっと仕事が忙しいんでサボってますけど。

そうですよね、叶多にも頑張ってもらわないとね。伝えておきます。

拍手&コメントありがとうございました!
2020/10/22(木) 14:43 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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