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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

華恵の夢はいつ開く・7

「私が鷹矢さんの友だちを覚えているかって聞いたの、覚えているかしら?」

「ああ、覚えてるよ。俺は誰だかわかんなかったけどね」

急に話を振っておいて、それが"誰"であるのか教えてもくれなかった華恵ちゃん。俺は華恵ちゃんは"いつも傍にいる"と思ってるのに、その気持ちを裏切られたような、遠ざけられたような、無下にされたような気がしていた。

その割には、尋ねられた理由もわからないまま。どちらかというと華恵ちゃんは『鷹矢さんの友だち』を知って欲しいんじゃないかという気もしていた。

「アキが《八番館》に勤務し始めた頃だったわ。その人、亡くなったの」

「亡くなった?」

「そう。仕事帰りに刺されて」

「・・・刺された。あっ・・・」

「刺された」と聞いて、片隅に引っ掛かっていた記憶がふわりと浮かんできた。

「思い出した?」

華恵ちゃんは華恵ちゃんで、俺が『鷹矢さんの友だち』が誰であるか思い出せない事に失望していたのかもしれないな。

「その人が勤務していたのは《八番館》じゃなかっただろう?確か・・・何だったっけ、《ブラックパンサー》?《八番館》より先に潰れた店だ」

浮上してきた記憶は断片的だ。確かにいた。あの頃流行っていた派手な髪色でもなく、どちらかというと服装も地味な感じだったと思う。

「思い出した?彼はその店のナンバーワンホストだった。仕事の帰りに、ヤクザに絡まれているキャバ嬢を助けようとして刺されたの。あの頃は河野組が急速に勢力を拡大している真っ最中で、河野のシマにある店にちょっかい出してくるチンピラが多かったわ。縄張り争いが激しかった。毎晩のように騒ぎを起こす連中がいてね。それを切欠に一気に戦争に突入してもおかしくない状況で。とばっちり、かな。刺したヤツはすぐに捕まったけど、彼は亡くなったの」

華恵ちゃんはいつになく寂しげな空気を漂わせている。こんな華恵ちゃんは初めてだ。俺は自分よりも年上で、自分よりも図体のデカイ華恵ちゃんの肩を抱いて慰めたいような気分になっていた。

「そういえば鷹矢さんの顔を見に1、2度、裏から来たことがある」

彼の顔ははっきりと覚えていないが、気の良い男だったと思う。新米黒服の俺にとっては遠い人だった。

「そうだ・・・。俺、どうしてあの人の事を忘れていたんだろう」

「アキが《八番館》で働き始めて一月も経たずに彼は亡くなったわ。アキは何度か会っただけじゃないの?」

「・・・そうだろうな。でも、1、2度でも会った事がある人が刺されたっていう衝撃的な事件だぞ?忘れるかな?これでも記憶力には自信があるんだが」

鷹矢さんは"プロ"だった。親しい友人が亡くなったからと取り乱したりしなかった、という事か。それで俺は"他人事"のように思って覚えていないのかもしれない。

「あんたは仕事を覚えるのに必死で、それでどころではなかったんじゃないの?」

「そうかもな・・・。うん」

俺もヒロも、オーナー、ホスト、客の使いっ走りが一番の仕事で、買って来いと言われた物を探し回っていたっけ。買って戻るのが遅ければ蹴られたり、ど突かれたり。そんな毎日だった。

「彼は私と同郷だったの。遠縁なのよ」

「そうだったんだ」

「お互いのじいちゃんとじいちゃんが従兄弟同士、って感じのね」

華恵ちゃんは遠い目をした。遥か遠くなった故郷と時間を懐かしむでもなく、まるで他人の過去を話すかのようだ。華恵ちゃんは思い出したくないであろう過去を静かに語り出した。

「ずーっと前から、彼だけが私の理解者だった。私の故郷は恐ろしく封建的で、男がスカートを穿きたいとか、化粧をしたいとか、絶対に許されなかったわ。私、これでも結構な家のお坊ちゃんだったのよ」

華恵ちゃんは自分を『お坊ちゃん』と呼んでやっと笑った。信吾さんを「お坊ちゃんなんだから」と言う時のような口調だ。

「剣持さん、だからな」

本名を口にすると、華恵ちゃんは眉を顰めた。

「仰々しい名前でしょ?大名が参勤交代の時に泊まる本陣だったの。大っ嫌いな名前」

「ははっ。山下とか普通の名字が羨ましいだろう?日本全国どこにでもある名字だからね」

「ええ。羨ましいわ」

華恵ちゃんはテーブルの上のお菓子の封を開け、「アキもどうぞ」と俺の前に一つ置いた。

「ありがとう。で?"お坊ちゃん"はどうして家出したんだ?」

「もう、言わないでよ。彼は私より5歳年上で、大学に進学する時に、自分は上京したらこっちには戻って来ない。こんな田舎では息苦しいだろう。いつでも俺を頼って来いよって言ってくれたの。私はこっそりと家出の準備を始めたわ。お年玉や小遣いをせっせと貯めてね」

「俺もそうだったよ」

「そうだったわね。私は高校1年の夏休みに家を出たわ。彼のアパートに住めばすぐに見つかっちゃうから、私はすぐにオカマバーの皿洗いを始めたの。寮があったから助かったわ。店でもアパートでも源氏名でしか呼ばれないからバレる事はなかった。彼とはずっと親交があったけど、いつ私の親にバレるかわかんないから部屋に行ったことはないわ。彼の親は私の実家が経営する会社で働いていたのよ。彼は宣言どおり大学を卒業しても故郷には戻らなかった。次男坊だし、気楽にこっちで就職したんだけど、会社が倒産しちゃって生活に困ってホストになった」

鷹矢さんは面倒見が良くて、華恵ちゃんが勤務していたオカマバーのスタッフやキャバ嬢にも人気があった。きっとその"彼"も鷹矢さんが何くれとなく世話をしていたのだろう。

「彼のご両親が遺体を引き取りに来て、私はお葬式にも出られなかったわ。彼の棺が霊柩車に載せられるのを遠くから手を合わせて見送ったわ。アキに覚えているかって聞いたあの日。あの日が彼の命日だったの。私は今でも彼の命日には、事件現場に花を供えに行くの」

物悲しい目をした華恵ちゃんは笑ってみせた。いつもの華恵ちゃんではない。

「"彼"が華恵ちゃんの恋人だったのか?」

「だったら良かったんだけど。残念ながら私の片思いよ。彼は私の気持ちに気が付いていたけど、知らないフリをしてくれていたの」

華恵ちゃんは自分の腕で身体を抱き締めて、「だから華恵は未だに無垢なのよ」とおどけてみせた。俺にそういう気遣いは要らないんだけど。

「それで?あの可愛い彼は誰なの?"お兄ちゃん"」

「"お姉ちゃん"です。弟よ」

「華恵ちゃんの?」

「そうよ。弟よ、腹違いのね。私が家を出て、しばらくして母が亡くなったの。父にはすでに愛人がいて、その人が後釜に納まったわ。私はいよいよ帰れなくなった。オカマになった華恵は死んだことになっているの」

「彼は華恵ちゃんを捜していたのか?」

「ええ」

「どうして?」

「父が亡くなったの」

「お父さんが?行かないのか?」

「お葬式はもう終わったわ。それに今更、男の格好をして行くのは納得いかないのよね」

「そうか」

「黒い喪服なんか、地味すぎて華恵には似合わないでしょ?」

華恵ちゃんは立ち上がって尻を突き出してポーズを決めてみせた。いつもの"華恵ちゃん"に戻って笑ってみせる。

「お葬式は全員黒だから。地味とか関係ないし」

「まっさか~!似合わないわよ」

大きな手を左右にブンブンと振るから風が起きる。

「相続か?」

「そうよ。死んだことにはなっているけれど、私は生きてるんですもの。私が生きているのは皆が知っているわ。継母と弟が財産を総取りするには私の印鑑が必要でしょう?」

「要るな」

だが"弟"には華恵ちゃんに対する悪意は見て取れなかった。

「あんたに全部あげる、って言ってやったわ」

「でもさ。あの男、面接を受けに来たんだよな?」

「そうよ。不意打ちだった。履歴書を見て呆れたわよ。いきなり『お兄ちゃん』ですもの。あんたの事なんか弟だなんて思っちゃいないわよ、ねえ?」

「まあ、そうだろうな。面識もないだろうし」

「あの子が赤ちゃんの頃、愛人があの子を抱っこして家に押し掛けてきたのよ。理由はわからないけれど、母と愛人は言い合いになって、母は金庫から札束を取り出して投げ付けた。愛人はそれを踏み躙って出て行ったわ。生まれた子どもを認知して欲しいって事だったのかしらね?」

「そんな感じだろうな」

「あの子、父が亡くなる前からずーっと私を捜してたんですって」

「へえ」

「印鑑を押して欲しかったのね」

「普通はね」

「そうよね」

華恵ちゃんはいきなり手で顔を覆った。

「あの子に会ったのはその時だけ。でもわかったの。"弟"だ、って。不思議よね。わかるのよ。顔も華恵とは似ていないのよ。でも、わかったの。絶対に"弟"だと」

「へえ」

「違うの。あの子も女には興味がないんですって。華恵の所為かしら?」

手で覆われた口元からはくぐもった声しか聞こえてこない。

*****

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コメント
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ブログ放置中ですww

お返事が遅くなって申し訳ないです。お許しくださいませ。大変申し訳ございませんでした!!

すみません、家に大工さんが入ってまして。色々と全く手に付かない感じです。頑張りますので、お待ちくださいね💦

いつも元気印の華恵ちゃんがしょんぼりしていると悲しくなっちゃいますよね。早く元気になって~~!!

拍手&コメントありがとうございました!
2020/11/25(水) 22:52 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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